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しおりを挟む朝から突然訪れるなんて非常識かと思ったけれど、ジェシカは快く屋敷の中に歓迎してくれた。
彼女と一緒に、香ばしいアップルパイを口にしながら、同じくアップルティーをたしなむ。
フレーバードティーの甘やかな香りが、心を落ち着かせてきた。
ジェシカの好みだろうか、白磁に花の模様が躍る茶器は、可愛らしくて自然と笑みが零れる。
しばらく静かにティータイムを過ごしていたが、ふとジェシカがこちらに声を掛けてきた。
「それで、アメリア? 何かあったの?」
「ええっと……」
「話したくないなら、無理に話さなくても大丈夫。貴女、子どもの頃も、何かあると私のところに飛び込んでくるんだけど……肝心なことは喋らずに、私のところで黙ってお茶を飲んで、自分で勝手に元気になって帰っちゃうのよね」
ジェシカがふふふと笑った。
彼女が首を傾げると、さらりと長い黒髪が肩を滑るのが見えた。
青い瞳が、まるで穏やかな海のようだ。
「見当はついているのよ、きっとシャーロック様のことでしょう? 顔を真っ赤にしてくるものだから、最初は驚いちゃった」
契約結婚のことなどは、さすがにジェシカに話すことは出来ない。
彼に想う人がいることだって、それは他人に軽々しく口にして良い話ではないはずだ。
「自分から訪ねておきながら、ごめんなさい、ジェシカ」
「まあ、良いのよ、なんとなくすっきりした表情を浮かべているけど――調子は戻ったかしら、アメリア?」
彼女がウインクをしながら告げてくるので、私は力強く頷いた。
「ありがとう、ジェシカ」
目を瞑る。
浮かんでくるのは、シャーロック様とマーガレット嬢が仲睦まじく映るセピア色の写真。
そうして、これまでの優しい夫の様子が浮かんできた。
確かに契約結婚だったが、彼なりに私自身を知ろうと、結婚式以降は色々と話を聞いてくれていた。
もしかするとシャーロック様なりに、自分との距離を縮めようとしてくれていたのかもしれない。
(シャーロック様に愛する女性がいるのは分かってる。契約結婚だってことも……だけど、せっかく子どもを一緒に育てていくのですもの……私は好きになってもらわなかったとしても、出来た子どもは愛してもらいたい……)
それに――。
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