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第4章 兄弟が愛した女性
23-5 恭司side
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新幹線の中。
窓際の席に座った恭司は、移り変わる景色を眺めて過ごしていた。
(なんとなく話が噛み合ってない気がするんだよな。気のせいか?)
美桜の前では年上の男性として振舞っていた恭司だったが……実は少しだけ焦燥に駆り立てられていた。
焦っても意味はない。人の命が関わっているような状況でもない限り、多少焦ったところで、結果が大幅に変わることなんて、日常ではそこまで多くないからだ。いついかなる時だって、慌てずに冷静に状況を見極めてきた。
美桜との関係性だって、少しずつ構築していけば良い。
そんな風に思っていたはずだったのだが……。
(俺はそもそもあいつの処女を奪ったから、このままだと夢が叶わないって言うし、母親みたいな目には遭わせたくないから、責任でもとってやるかって思っていただけ……だったのにな)
過去に想いを馳せて――自分の代わりに泣いてくれたり、恭司に寄り添ってくれようとする、純真無垢な美桜。
最初はペットをもう一匹増やすぐらいの感覚で、責任をとってやるか……ぐらいのつもりだった。けれども、過ごした時は短いけれど、いつの間にか自分の中で存在が大きくなりつつあった。
そして、それが原因で――美桜と曖昧なままの関係で過ごすだけの余裕が――恭司からは失われつつあった。
『恭司兄さん、美桜ちゃんがどんな人柄の子か知らんの? すごく優しい子なんや。俺のこと、嫌がってるわけないやろ? 会社に勤めてる時、ちゃんと俺の言うことを聞いてくれたし。自分こそ、この子の何なん?』
『だったら、自分の方がどうなん? 俺は部長やったけど、あんたは会社の最高責任者やろ? あんたの方が権力強いんやあらへんか? 美桜ちゃんの断れない性格を知らんわけやないよねえ?』
――自分よりも美桜のことを知っていると言いたげな異母弟・新宮順一の言葉が脳裏を過る。
(あいつの両親の説得は後回しだ。まずはあいつに俺の考えを伝えて言質をとるしかない。くそっ、今晩だったら贈り物が出来たかもしれないのに)
早く。
急げ。
急がないと。
恭司の胸の中、警鐘が鳴り響いている。
(いや、落ち着け。今から会う相手との話がうまくいきさえすれば、あいつの父親が新宮傘下の会社にいようがいまいが関係がなくなる。全部うまくいくはずだ)
――脳裏に黒猫ミオを抱きしめる美桜の姿が浮かんでくる。
美桜は優しい。
だけど、自分とは違って、どうも誰に対しても優しいようだ。
(俺だけじゃない。おそらくあいつは順一にだって優しかったはずだ)
自分以外の誰かのことだって――彼女が理解している可能性なんて忘れてしまっていた。
ざわざわと嫌な予感が全身を這いずってくる。
ダメだ。
これ以上は考えてはいけない。
『はい、もしもその猫が私のことを好きだって言ってくれたら、私もきっと好きになると思います』
――婚約者を捨ててまで自分のことを愛する男が、彼女のことを好きだと主張したんだとしたら……?
恋愛は勝ち負けじゃない。
男女二人の関係性だ。
そんなことは分かっている。
だけど……。
――順一の方が美桜のことをずっと前から知っていて、過ごした歳月だって長くて……それに彼女のことをずっとずっと好きだったのだ。
このままだと、自分は……。
「……負ける」
そこまで口にして、恭司はハッとする。
逸る気持ちを落ち着けるべく深呼吸をした。
背もたれに身体を預け直して、再び外を見やる。
『……? はい、ありがとうございます、恭司さん。二十四日、楽しみにしています』
――大丈夫。
大丈夫だ。
あとたった数日で全ての決着がつくのだ。
恭司は窓の外を見ながら自分に言い聞かせた。
「大丈夫だ。あいつは俺を裏切るような女じゃない。それに……」
もしかしたら……。
「幸せな家庭が何か、俺が一番分かっちゃいないんだがな」
だけど、美桜となら……。
恭司は美桜と一緒に暮らす未来を想像してひと眠りすることにしたのだった。
窓際の席に座った恭司は、移り変わる景色を眺めて過ごしていた。
(なんとなく話が噛み合ってない気がするんだよな。気のせいか?)
美桜の前では年上の男性として振舞っていた恭司だったが……実は少しだけ焦燥に駆り立てられていた。
焦っても意味はない。人の命が関わっているような状況でもない限り、多少焦ったところで、結果が大幅に変わることなんて、日常ではそこまで多くないからだ。いついかなる時だって、慌てずに冷静に状況を見極めてきた。
美桜との関係性だって、少しずつ構築していけば良い。
そんな風に思っていたはずだったのだが……。
(俺はそもそもあいつの処女を奪ったから、このままだと夢が叶わないって言うし、母親みたいな目には遭わせたくないから、責任でもとってやるかって思っていただけ……だったのにな)
過去に想いを馳せて――自分の代わりに泣いてくれたり、恭司に寄り添ってくれようとする、純真無垢な美桜。
最初はペットをもう一匹増やすぐらいの感覚で、責任をとってやるか……ぐらいのつもりだった。けれども、過ごした時は短いけれど、いつの間にか自分の中で存在が大きくなりつつあった。
そして、それが原因で――美桜と曖昧なままの関係で過ごすだけの余裕が――恭司からは失われつつあった。
『恭司兄さん、美桜ちゃんがどんな人柄の子か知らんの? すごく優しい子なんや。俺のこと、嫌がってるわけないやろ? 会社に勤めてる時、ちゃんと俺の言うことを聞いてくれたし。自分こそ、この子の何なん?』
『だったら、自分の方がどうなん? 俺は部長やったけど、あんたは会社の最高責任者やろ? あんたの方が権力強いんやあらへんか? 美桜ちゃんの断れない性格を知らんわけやないよねえ?』
――自分よりも美桜のことを知っていると言いたげな異母弟・新宮順一の言葉が脳裏を過る。
(あいつの両親の説得は後回しだ。まずはあいつに俺の考えを伝えて言質をとるしかない。くそっ、今晩だったら贈り物が出来たかもしれないのに)
早く。
急げ。
急がないと。
恭司の胸の中、警鐘が鳴り響いている。
(いや、落ち着け。今から会う相手との話がうまくいきさえすれば、あいつの父親が新宮傘下の会社にいようがいまいが関係がなくなる。全部うまくいくはずだ)
――脳裏に黒猫ミオを抱きしめる美桜の姿が浮かんでくる。
美桜は優しい。
だけど、自分とは違って、どうも誰に対しても優しいようだ。
(俺だけじゃない。おそらくあいつは順一にだって優しかったはずだ)
自分以外の誰かのことだって――彼女が理解している可能性なんて忘れてしまっていた。
ざわざわと嫌な予感が全身を這いずってくる。
ダメだ。
これ以上は考えてはいけない。
『はい、もしもその猫が私のことを好きだって言ってくれたら、私もきっと好きになると思います』
――婚約者を捨ててまで自分のことを愛する男が、彼女のことを好きだと主張したんだとしたら……?
恋愛は勝ち負けじゃない。
男女二人の関係性だ。
そんなことは分かっている。
だけど……。
――順一の方が美桜のことをずっと前から知っていて、過ごした歳月だって長くて……それに彼女のことをずっとずっと好きだったのだ。
このままだと、自分は……。
「……負ける」
そこまで口にして、恭司はハッとする。
逸る気持ちを落ち着けるべく深呼吸をした。
背もたれに身体を預け直して、再び外を見やる。
『……? はい、ありがとうございます、恭司さん。二十四日、楽しみにしています』
――大丈夫。
大丈夫だ。
あとたった数日で全ての決着がつくのだ。
恭司は窓の外を見ながら自分に言い聞かせた。
「大丈夫だ。あいつは俺を裏切るような女じゃない。それに……」
もしかしたら……。
「幸せな家庭が何か、俺が一番分かっちゃいないんだがな」
だけど、美桜となら……。
恭司は美桜と一緒に暮らす未来を想像してひと眠りすることにしたのだった。
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