175 / 228
第6章 初めての恋
37-4
しおりを挟む
壇上の中央で、美桜と順一は横並びになると、前を見据えた。
カメラのフラッシュが眩しいけれど、隣に立つ順一は平気そうにしていた。
昔からこういう誰かに見られるのに慣れているようだ。
隣に立つ美桜としては、その場にいる大勢の皆に注目されるのが怖くて、若干狼狽えてしまった。全身の震えが止まらない。脚もがくがくして崩れ落ちてしまいそうだ。けれども、胸元にしまった恭司の手紙に触れると深呼吸する。
(大丈夫、恭司さんは絶対に来てくれる)
黒猫ミオの首輪に手紙をつけることが出来たということは近くにいるはずなのだ。
美桜は背筋を伸ばすと真っすぐに前を見据えた。
ドクドクと早鐘のようだった鼓動が少しずつ穏やかになっていく。
壇上の袖の方にいる司会の男性――どうやら新宮家当主の秘書らしい――が話をはじめる。
「それでは、これより婚約発表の場に移りますが、その前に本当なら現当主の新宮譲之助様から挨拶のご予定でございました。本日は体調不良で不在ということで、ご当主様から預かっている伝言をお読みしたいと思います」
そうして、淡々と続ける。
「『この場を借りて、新会社の社長に息子を就任させることとする。また、この場でグループ会社の事業承継及び後継者の指名をおこないたい。そうして、株式の生前贈与もおこないたいと考えている』」
貴賓席に座っている者たちから感嘆の声が上がる。社長就任はともかくグループ自体の後継者の指名があるとまでは思っていなかったのだろう。
(基本的には株式を譲渡した相手が後継者。新宮家の新当主でもある。ということは、新宮部長が新宮家のお家の跡継ぎであり、会社の後継者でもある……ってことよね?)
順一の申し出はお断りするつもりの美桜にとっては、正直あまり関係のない話ではあるものの、もしも恭司が間に合わなかった場合、どうにか一人で切り抜ける必要がある。そのため、頭がこんがらがりそうな中、一生懸命状況把握に努めた。
そうして、司会の男性が当主の手紙の内容を淡々と読み上げる。
「『後継者には――新当主とその妻・梅田美桜の間に出来た子どもを指定する』」
美桜は突然自分の名前が出てきたので衝撃を受けた。
周囲がざわつきはじめた。
(わ、私……!?)
あまり自分とは関係のない話だと思っていたのに、寝耳に水である。
突然自分が話の渦中に立たされる羽目になってしまった……!
(まだ妊娠もしてないのに……!?)
新宮環が「そんな話、私は一言も聞いとれへん!」とわめいている。
大広間内のざわつきはおさまらない。
カメラの明滅も落ち着くことを知らない。
「そもそも赤ん坊は腹の外に出てきてからやないと権利はないはずやないんか?」
「法律上ではそうやな」
「なら、そもそも話自体が無効になるんやないか……?」
「もう順一くんの子どもがおるんか?」
美桜はオロオロしてしまった。
単に逃げれば良いだけの話ではなくなってしまっている。
「どうして私なんですか……!?」
思わず美桜は司会の男性に尋ねた。
「梅田美桜様には恩義があるからだと」
「恩義……!?」
いったいいつ美桜が新宮家当主に恩を売るような真似をしたのだろうか?
(ええっと、だけど勝手に話に参加させられてしまっているだけだから、弁護士さんとかに相談したらどうにかなる?)
そんな中、新宮順一はといえばシレっとした態度と笑顔で話を続けてくる。
「まあ、そもそもが父さんが指名したやつが後継者になるだけやし……さっきの話が有効やっとして、つまるところ、美桜ちゃんとの間に子ども作った相手が、会社の後継者やし新当主にもなるってことやから、何も問題あらへんね」
美桜は衝撃で頭がぐるぐるしはじめた。
すると、彼女の腰を順一が引き寄せてくる。
「きゃっ……!」
「婚約披露の続きをお願い。……さあ、皆に僕と美桜ちゃんが仲良いところを見せたろうか」
順一が視界に話を促すと、美桜に顔を近づけてくる。
「待ってください……!」
万事休すだ――!
――その時。
カメラのフラッシュが眩しいけれど、隣に立つ順一は平気そうにしていた。
昔からこういう誰かに見られるのに慣れているようだ。
隣に立つ美桜としては、その場にいる大勢の皆に注目されるのが怖くて、若干狼狽えてしまった。全身の震えが止まらない。脚もがくがくして崩れ落ちてしまいそうだ。けれども、胸元にしまった恭司の手紙に触れると深呼吸する。
(大丈夫、恭司さんは絶対に来てくれる)
黒猫ミオの首輪に手紙をつけることが出来たということは近くにいるはずなのだ。
美桜は背筋を伸ばすと真っすぐに前を見据えた。
ドクドクと早鐘のようだった鼓動が少しずつ穏やかになっていく。
壇上の袖の方にいる司会の男性――どうやら新宮家当主の秘書らしい――が話をはじめる。
「それでは、これより婚約発表の場に移りますが、その前に本当なら現当主の新宮譲之助様から挨拶のご予定でございました。本日は体調不良で不在ということで、ご当主様から預かっている伝言をお読みしたいと思います」
そうして、淡々と続ける。
「『この場を借りて、新会社の社長に息子を就任させることとする。また、この場でグループ会社の事業承継及び後継者の指名をおこないたい。そうして、株式の生前贈与もおこないたいと考えている』」
貴賓席に座っている者たちから感嘆の声が上がる。社長就任はともかくグループ自体の後継者の指名があるとまでは思っていなかったのだろう。
(基本的には株式を譲渡した相手が後継者。新宮家の新当主でもある。ということは、新宮部長が新宮家のお家の跡継ぎであり、会社の後継者でもある……ってことよね?)
順一の申し出はお断りするつもりの美桜にとっては、正直あまり関係のない話ではあるものの、もしも恭司が間に合わなかった場合、どうにか一人で切り抜ける必要がある。そのため、頭がこんがらがりそうな中、一生懸命状況把握に努めた。
そうして、司会の男性が当主の手紙の内容を淡々と読み上げる。
「『後継者には――新当主とその妻・梅田美桜の間に出来た子どもを指定する』」
美桜は突然自分の名前が出てきたので衝撃を受けた。
周囲がざわつきはじめた。
(わ、私……!?)
あまり自分とは関係のない話だと思っていたのに、寝耳に水である。
突然自分が話の渦中に立たされる羽目になってしまった……!
(まだ妊娠もしてないのに……!?)
新宮環が「そんな話、私は一言も聞いとれへん!」とわめいている。
大広間内のざわつきはおさまらない。
カメラの明滅も落ち着くことを知らない。
「そもそも赤ん坊は腹の外に出てきてからやないと権利はないはずやないんか?」
「法律上ではそうやな」
「なら、そもそも話自体が無効になるんやないか……?」
「もう順一くんの子どもがおるんか?」
美桜はオロオロしてしまった。
単に逃げれば良いだけの話ではなくなってしまっている。
「どうして私なんですか……!?」
思わず美桜は司会の男性に尋ねた。
「梅田美桜様には恩義があるからだと」
「恩義……!?」
いったいいつ美桜が新宮家当主に恩を売るような真似をしたのだろうか?
(ええっと、だけど勝手に話に参加させられてしまっているだけだから、弁護士さんとかに相談したらどうにかなる?)
そんな中、新宮順一はといえばシレっとした態度と笑顔で話を続けてくる。
「まあ、そもそもが父さんが指名したやつが後継者になるだけやし……さっきの話が有効やっとして、つまるところ、美桜ちゃんとの間に子ども作った相手が、会社の後継者やし新当主にもなるってことやから、何も問題あらへんね」
美桜は衝撃で頭がぐるぐるしはじめた。
すると、彼女の腰を順一が引き寄せてくる。
「きゃっ……!」
「婚約披露の続きをお願い。……さあ、皆に僕と美桜ちゃんが仲良いところを見せたろうか」
順一が視界に話を促すと、美桜に顔を近づけてくる。
「待ってください……!」
万事休すだ――!
――その時。
50
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる