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プロローグ ブザービートからはじまる恋 side百合

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 ついにはじまった試合終了、運命のカウントダウン。

『可哀想だけど、負けちゃう……』

 そんな風に思っていたんだけど――。

 男の子はドリブルしながら、ひょいひょいって他の男の子たちの間をくぐり抜けていって……。

 同じ人間だとは思えない。
 素早くって勢いがあって……。
 まるで獲物を追いかける肉食動物――黒ヒョウみたい!

 そうして、ゴールの前に立つ敵の前で、高くジャンプしてボールをシュートした!

 ピピ――っ!!

 笛の音が鳴り響く。

 残念だけど、時間切れ。

『ああ、やっぱり負けちゃった……』

 その時――。

 シュパンッ!

 ボールがゴールの中に入った。

 同時に――。

 わああああ――!

 皆の歓声が上がりはじめる。

 それは波のようにどんどん広がっていって……。

 さっきの男の子が嬉しそうにぴょんぴょん跳ねて、仲間の皆に揉みくちゃにされている。

『ど、どういうこと……?』
 
 すると、お母さんが真剣な表情で教えてくれた。

『ブザービートよ』

『ブザービート?』

『そう。試合終了と同時にボールを投げてシュートを決めることよ』

『どういうこと……? つまりどうなるの? 今のは点数になったの?』

 すると、お母さんが私の方を見た。

『そうよ。百合ゆりが応援していた男の子のチームが勝ったの……逆転勝利よ!』

『逆転勝利……!』

 じわじわ後から嬉しさがこみあげてくる。
 運動音痴だから、全然スポーツとは縁がなくって……。
 バスケのことはよく分からない。
 だけど――テレビ越しにものすごい熱い何かを感じた。

 大好きって気持ち画面越しなのに、バシバシ伝わってきて……。

 こっちまでどんどん気持ちが上がっていって……。

 最後まで諦めないのって大事だなって、とっても思ったんだ。

 テレビ越しにインタビューを受けている男の子のユニフォームに書かれた名前。

 目を凝らしたら書いてあった。

 ――SETO
 
 習いたてのローマ字を解読する。

『せ……と……』

 どうやら1歳年上みたいだって分かった。


『私もこの男の子みたいに、何かを好きって気持ちを大事にしたい! そうして、私も夢中になれる何かを見つけるんだ!』


 熱気がすごいテレビの前、ぴょんぴょん跳ねながら宣言したら、お母さんが笑っていた。



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