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プロローグ ブザービートからはじまる恋 side百合

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 子どもの頃、お母さんと一緒に見た、テレビのスポーツ特集。
 ――バスケの試合。
 映っていたのは、自分よりもちょっとだけ年上の男子バスケット選手。
 短い黒髪に、少しだけ日焼けした肌、同い年ぐらいの男の子たちの中でも身長は一番高い。
 
『うわあ! すごい! なんでこんなに走って跳べるの!?』

 まるで魔法使いみたいに自由自在にボールを操っていた。
 何よりも気になったのは、男の子の表情。

『1点差で負けてるのに、なんでこんなに楽しそうに試合で頑張ってるの??』

 そう、すっごく楽しそうにコートの中を駆けまわってたの。
 もう残り時間も少なくって、試合自体にも負けちゃってるのに……。

『この男の子、バスケのことが、大好きで大好きでしょうがないって顔してる……!』

 画面越しにだって伝わってきた。
 バスケが好きっていう気持ち。

 彼の嬉しそうで楽しそうな顔を見ていたら……。

 私の心臓もドクンドクンと速くなって……。
 冬なのに、どんどんどんどん、体が熱くなっていったんだ。

『すごくカッコイイ! ね、お母さん!』

 そばにいたお母さんに声をかけた。
 だけど、返事がない。

『お母さん……?』

 ぼうっとしていたお母さんがハッとして、私の方を振り向いた。

『そうね、百合ゆり

 どうしたんだろう?

 そんなことを思っていると――。

 10秒、9秒、8秒……。


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