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第11話 嫌いになれたら楽なのに side瀬戸

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 本当はバスケのことが好きなはずだって、直球で言ってくる加賀美百合の言葉が、俺の胸をざわつかせる。
 気づかないうちに、身構えてしまった俺は、拳をぎゅっと握ってしまう。
 俺の肩ぐらいまでしかない小柄な女子なのに、なんだかものすごい圧倒的な目力を感じてしまった。

「私の推しもセトさんって言うんです……」

 その言葉を聞いて、俺は思わず目を見開いてしまった。

「お前の推しが……セト……?」

「はい」

 加賀美百合の推しもバスケをしていたと言っていた。
 しかも、名前がセトなのだという。
 ……おいおい……。

「まさか……お前の言うセトは……」

 こいつの小さい頃からの推しが……。
 まさか……そんな奇跡みたいな偶然があるはずが……。

「……セトくんと瀬戸先輩の関係については、私にはなんとも言えませんが……」

 加賀美百合はそう足した。

「ミニバスケで圧倒的に強かったセト君だけど、ここ最近は姿を見ていません」

 それはそうだろう。
 もしこいつの言うセトが俺なんだとしたら、バスケを辞めてしまっているんだから……。

「だから、何か事情があってバスケが出来なくなっているんだと思います」

 そうして、加賀美百合はそっと俯いた。

「もしかしたら、お母さんみたいに病気になったり、事故や事件に巻き込まれてしまったんじゃないかなって……もうずっと心配していて……」

 俺がバスケを辞めたのは、彼女が言うような理由が原因じゃない。
 心臓の音がやけにうるさくなっていった。

「そうじゃないんだったら……」

「……そうじゃないんだったら、なんだって言うんだよ……?」

 彼女が口を開くのが、ものすごくスローモーションに見える。

 そうして――。


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