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第15話 瀬戸先輩の過去 side瀬戸

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 これ以上、何かを口にしたら、加賀美百合に引かれるんじゃないかって……。
 怖くなって口を噤んでしまったけれど……。

「瀬戸先輩……」

「なん……」

 ベンチの隣に座っていた加賀美百合が、突然俺の頭を抱きかかえてきた。

「お前、何を……」

 すると、ぎゅっと抱きしめてくる。

「ずっと1人で悩んでいたんですね……」

「何……言って……俺は悩んで良い立場じゃなくって……俺がバスケを嫌いにならないと……」

 だけど――。

「そうやって、ずっと1人で頑張ってきたんですね……」

「何言って……」

「大好きなバスケを嫌いだって思わなきゃ、心が壊れそうなのに……ずっと頑張って……先輩……」

 加賀美百合の言葉が詰まる。
 その時、頬に熱い滴が触れたのが分かった。

 ……涙だ。

 なんだろう……。

 彼女が俺のために泣いてくれているのが分かってしまって……。

 目頭が――胸が――熱くなって仕方がない。
 ずっと頑張って頑なに凍らせてきた心の氷が、どんどん溶けていくような……。
 そんな気がして……。

「俺が逃げたせいで……中学最後の試合だって皆頑張ってきたのに……俺が全部台無しにして……だれかの中にいるのが、ますます怖くなっていって……」

 だけど……。

「百合……お前がそばにいてくれて良かった……」

 ずっと俺のことを抱きしめてくれる加賀美百合。

 壊れかけの心を、彼女がそっと優しく包みこんでくれて……。

 彼女がそばにいてさえくれれば、俺は乗り越えられる。

 そんな気がしたんだ。


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