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第1章 敵国への旅路
第4話―6 イクシオンside※
しおりを挟むあまりの甘美さに脳髄が震えるようだ。
そのまま、ソファの上に組み敷くと、今度は荒々しく唇を貪り続けた。
『……あ、やめっ……』
彼女の唇から漏れ出た甘い吐息を前に……
本能のまま、彼女の膨らみ始めたばかりの乳房に指を沈める。
荒々しく唇を貪りながら、彼女の薄手の夜着へと手を伸ばす。
そして、雲が満月を隠した瞬間。
イクシオンは我に返った。
『俺は……何をして……』
自身の身体の下、夜着のはだけたラフィーネが嗚咽を漏らしていた。
『……ラフィー……すまない、別の護衛を……呼んでくるから……』
イクシオンは急いでラフィーネの部屋から逃げ出した。
その後、ラフィーネが兄王に何か進言でもしたのだろう。
結局、あの日が最後の護衛の日になってしまった。
政争に敗れる原因の一つになった可能性だってある。
けれども、追放された事実以上に……
ずっと大切に護ってきたラフィーネに嫌われたんじゃないかと思って、苦しくて悲しくて、ずっと心の中で自身を苛んで生きてきた。
あの時、泣きじゃくるラフィーネ姫から向けられた……哀しそうな、拒絶されているような……言葉では表現できない表情。
何かある度に、頭に浮かんでくるのだ。
(口づけからとラフィには言われたが……)
あの日の出来事で歯止めが利かなくなって、ラフィーネ姫に拒絶されるのではないかと思い、怖くて口づけることすら出来ない。
「ただでさえ、俺はラフィーから嫌われているのに……」
ふと、愛妾にしてしまった姫の顔をイクシオンは眺める。
――アモルを追い出されてから、一日だって彼女のことを忘れたことはなかった。
今回、単騎で敵国に乗り込んだイクシオン・ロクス。
アモル王国に放っていた間諜の情報で、国が傾きつつあったアモルの宰相は王の目を盗み、美しく年若いラフィーネ姫を他国に売りつけようとしていたことが判明していた。
それを知ったイクシオンは、幼馴染の彼女を救い出すために策を練ったのだ。
そうして――停戦協定を結ぶ場で、ラフィーネ姫を妻にと伝えるはずだった。
だが、彼女に叱責されたことで、過去の出来事が脳裏に浮かんで言葉に詰まってしまった。
それでも、姫を妻にと言うはずだったのだが……
(今日の関所での出来事のように、俺に恨みを抱いている者は多い)
将軍という立場上、諸国の兵達の命を奪ってきた罪はある。
妻にすれば――将軍である自分自身に何かあれば、彼女も同様に責任を取らなければならなくなる。
けれども、無理に連れて行かれた妾の立場ならば……
(生きて最後まで彼女を守り切れる自信さえあれば……確かに、現状で大陸内で俺に勝てる者はいない。だが、万が一のことがあった時が、どうしても怖い)
満月の夜。理性が働かなくなる自分が――何をしでかすのか分からない。
あの日のように意識が混濁する中……
ラフィーネのことを護れなくなるかもしれない。
……結果、出て来た言葉が「愛妾」だった。
「妾とか言えば良かったのに、愛妾だとか苦しい言い回しになったな……」
だけど、もし、そんな自分でも彼女が望んでくれるなら……
「ラフィが俺を旦那にしたがるなんて、あり得ないか……」
自嘲気味に笑った後、イクシオンはラフィーネの身体を強く抱きしめる。
理性がなんとか勝ったのか、呼吸はだいぶ落ち着いていた。
「寝てる間なら……上手に言えるのに……俺はラフィーネ姫のことを愛し……」
――眠る姫には将軍の本音は聴こえてはいないのだった。
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