【R18】白い結婚2年目に白ネコになったら、冷血王と噂の旦那様との溺愛生活がはじまりました

おうぎまちこ(あきたこまち)

文字の大きさ
1 / 18

1回表 sideユリア

しおりを挟む



 夜、王城の離れにて。
 王妃の部屋の窓辺に立ち、天にいる最高神へと向かって、日課である祈りを捧げていた時のこと――。

「ユリア、今日も祈りか?」

 背後から低い声が聞こえてきたので、急いで振り返る。

「あ――」

 立っていたのは、長身痩躯の美青年。
 紫がかった黒髪に、紫水晶アメジストの瞳の持ち主だ。
 彫りの深い顔立ちと筋骨隆々とした体躯は、いかにも武人といった出で立ちだが、政治の手腕も高いと評判であり知力にも長けた人物でもある。

 他国にも自国にも「冷血王」と呼ばれる彼は――セルツェ国の若き王であり、私の夫だ。

 騎士時代の名残であろう、黒い軍服に身を包み、王家の紋章の施された剣を腰に下げている。
 紅い絨毯の上、カツカツと軍靴を鳴らし、こちらに近づいてきたかと思うと――化け物だと評されることも多い、白い髪をひと房掴んできた。

「ヴぁ、ヴァレンス様におかれましては――」

 相手の放つ威圧感に、声が勝手に震えてしまう。

「ご機嫌麗……――」

「ユリア、慣れない口上を使って、俺の機嫌を取る必要はない」

 一刀両断されてしまい、私はびくりと反応した。
 
「修道女時代の癖がまだ抜けないようだな……――」

「あ……ご、ごめんなさ……」

「理由もないのに謝る必要もない」

 私はといえば、ますます体を縮こまらせてしまった。
 彼の側面にある鏡にたまたま私自身の姿が映っていたのだが――室内のランプの灯りも相まって、血のように揺れているではないか――。

(彼の言う通り、数年前では修道女として過ごしていた……そんな田舎娘の私を、ヴァレンス様は叱りに来たのだわ……)

 しゅんと項垂れていると、相手がこれみよがしに嘆息してくる。

「ユリア、お前というやつは……本当に……――」

 そうして――。

 彼が私の髪に口づけを落とした後、自身のサラリとした黒髪をかき上げながら告げてきた。

「お前は俺の妃となり、この国の王妃になったんだ。もっと堂々と振舞うと良い」

「はい、主君であり夫君であるヴァレンス様の仰せの通りに……」

 すると、彼がすっと離れた。

「俺は今晩も執務で忙しい。それでは――」

「あ――」

 彼の広い背を見送りながら、私はそっとため息を吐いた。

(今日も彼は私に手を付けようとはしない……仕方ないわね……愛のない結婚……神の託宣で決まった夫婦でしかないもの……)

 近年、「魔力持ち」が稀少になってきている。
 元は魔力持ちが多い王家だったが、近年生まれてくる王族たちが引いた力はごくわずかなものであり、この数代で王族の権威が揺るぎはじめていた。
 そこで白羽の矢が立ったのが、魔力持ちの若い娘である。
 
(辺境の村で修道女として暮らしていた私は、たまたま魔力持ちで……国教の託宣で選ばれたのが私だった)

 王国の治世を盤石なものとするために、当時王太子だったヴァレンス様の元に私は嫁ぐことになったのだ。
 修道女から還俗させられ――妻としての務めを果たさなければならないと覚悟を決めていたけれど――。

(愛のない……政略的な結婚だったせいか、ヴァレンス様が私に手を出してくることはなかった)

 そうして――子どもに恵まれないまま結婚二年の月日が経とうとしている中――。

 ヴァレンス様に私以外の側室を娶ってはどうかとの話を、私はたまたま耳にしてしまったのだ。

(それも――ヴァレンス様が幼少の頃から親しくしているご令嬢をと……)

 悪い想像はどんどん膨らんでいく。

「あ……ヴァレンス様……」

 部屋の下、王城にある執務室に帰っていくヴァレンスの姿を見つけた。
 たまたま彼に黒猫がすり寄っていく。
 冷血王と評される彼だが――。

「今日もお前は一人か?」

 彼がそっと黒猫を抱きしめた。
 ――冷血王の名にはふさわしくない柔和な笑顔を浮かべながら――。
 その姿を見て、私の胸はきゅうっと疼く。

(ヴァレンス様が名前の通り、本当に冷血な方でいらっしゃれば、こんなに悪い想像はしなかったかもしれないのに……)

 彼の優しい一面を知ってしまったがゆえに、側室が出来るかもしれないことで、胸が苦しくて仕方がない。

(きっと、最初から噂の令嬢と結婚したかったに違いないわ……二年間、私に手を出さずに操を立てていらっしゃるのですもの……)

 冷血だと噂のヴァレンス様。
 だけれど、愛する女性に対してだけは――。

 あの猫に向けたような――柔和な笑顔を浮かべたり――。

 ――優しい言葉を掛けたりするのだろうか――?

「私も猫に生まれることが出来たなら……こんなに苦しい思いはしなくて良かったのかしら……」

 夜に考え事をすると、どんどん暗くなってしまう。

「もう寝ましょう……」

 一人で眠るには広いベッドへと向かう。
 側室の件の話など微塵も出してこない夫のことをくよくよ考えるのをやめるためにも、私は床に就いたのだった。



*** 



 翌朝――。

 ――眩い太陽で目が覚める。

「ふにゃあ……」

 少しだけ間の抜けた欠伸をしてしまう。
 そっと口に手を当てると、ふにゅんと鼻先が濡れているではないか。
 
(ん? なんだかいつもと様子が違う……)

 誰か人を呼ぼうとしたのだけれど――。

「にゃあ……」

 なぜかおかしな声が出る。

(そう言われれば、なんだかベッドがやたらと広いような……?)

 ふと見れば――服もダボダボだ。
 自身の体を見て愕然とする。

「にゃ、にゃ……?」

 ――真っ白な体毛に包まれているではないか――。

(いったいぜんたい、何が起こって……!?)

 そう思い、しゅるりとシーツの合間を抜け、全身鏡の前へと向かう。

 そこに映っていたのは――。

「にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ~~~~~!!!?」

 ――神の悪戯か――。

 目覚めた私は――白猫の姿になっていたのだった。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...