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「もちろん。俺は水持ってくるから気にするな」
「分かった」
彼が部屋から出ていった後、ミサはワンピースを脱ぎ、肌襦袢の上から浴衣を羽織る。
(誰かに着せるのよりも、私としては自分で着る方が難しいかな)
そんなことを思いながら、着付けていく。腕はそこまで衰えてはいないようだ。
おはしょりを調整している間に、隣の部屋にリュウセイが戻ってきた気配を感じた。彼が近くにいる中で着替えているのだと思うと、なぜだか緊張して手がおぼつかない。
しゅるりと衣擦れの音が立つ。相手に聞こえてはいないかと不安で仕方がなかった。
「あ、私も着替え終わったよ」
声と同時にリュウセイが、ミサのいる部屋に戻ってくる。
「ちゃんと着れたみたいだな?」
「うん。自分で着るのは久しぶりだったから。リュウちゃんの言った通り、着替えることが出来て良かったかも」
彼が持っている盆に目をやった。
綺麗な硝子で出来た、青と赤の涼し気な切子。添えられた器にはカキ氷が飾られていた。小皿には透明感のある羊羹。
縁側に誘われて、二人で座ってカキ氷をシャリシャリ食べる。
「おいしい」
今度は和菓子を摘まんだミサを見て、リュウセイが笑った。
「ミサは甘いのが相変わらず好きだな。俺はカキ氷でいっぱいだよ」
「甘いものは別腹というか……」
とても広い庭の碧が、風に爽やかに揺れる。
小さな池に小橋がかかっていて、鯉がぽちゃんと跳ねる音がした。
もう昼下がりだ。
食べ終わった頃――彼が彼女の髪を撫ではじめる。
「リュウちゃん、どうしたの?」
「当日は、どういう髪型にしようかなと思って」
ミサがプロデュースするはずなのに、リュウセイの方がプロデューサーみたいになっていた。
なんだか撫でられていると恥ずかしくなってしまい、ミサが慌てて返す。
「夏祭りの舞台の時間、花火前の目玉イベントだとかで、そんなに長くはとれなかったでしょう? せっかくだし、リュウちゃんには夏の歌を1~2曲歌ってもらおうかなと思っているんだけど、どうかな?」
「歌か」
リュウセイが唸る。
「リュウちゃん、歌うの上手だけど、あんまり人前で歌うの好きじゃなかったよね? やっぱりやめようか?」
「いいや、歌を歌ってやっても良い。だけど、条件がある」
「条件?」
なぜか彼女の身体は、彼の膝の上に乗せられる。しかも、後ろから抱きしめられてしまった。
「ど、どうしたの、リュウちゃん?」
すると、ミサの耳元でリュウセイが囁く。
「ミサが欲しい」
「分かった」
彼が部屋から出ていった後、ミサはワンピースを脱ぎ、肌襦袢の上から浴衣を羽織る。
(誰かに着せるのよりも、私としては自分で着る方が難しいかな)
そんなことを思いながら、着付けていく。腕はそこまで衰えてはいないようだ。
おはしょりを調整している間に、隣の部屋にリュウセイが戻ってきた気配を感じた。彼が近くにいる中で着替えているのだと思うと、なぜだか緊張して手がおぼつかない。
しゅるりと衣擦れの音が立つ。相手に聞こえてはいないかと不安で仕方がなかった。
「あ、私も着替え終わったよ」
声と同時にリュウセイが、ミサのいる部屋に戻ってくる。
「ちゃんと着れたみたいだな?」
「うん。自分で着るのは久しぶりだったから。リュウちゃんの言った通り、着替えることが出来て良かったかも」
彼が持っている盆に目をやった。
綺麗な硝子で出来た、青と赤の涼し気な切子。添えられた器にはカキ氷が飾られていた。小皿には透明感のある羊羹。
縁側に誘われて、二人で座ってカキ氷をシャリシャリ食べる。
「おいしい」
今度は和菓子を摘まんだミサを見て、リュウセイが笑った。
「ミサは甘いのが相変わらず好きだな。俺はカキ氷でいっぱいだよ」
「甘いものは別腹というか……」
とても広い庭の碧が、風に爽やかに揺れる。
小さな池に小橋がかかっていて、鯉がぽちゃんと跳ねる音がした。
もう昼下がりだ。
食べ終わった頃――彼が彼女の髪を撫ではじめる。
「リュウちゃん、どうしたの?」
「当日は、どういう髪型にしようかなと思って」
ミサがプロデュースするはずなのに、リュウセイの方がプロデューサーみたいになっていた。
なんだか撫でられていると恥ずかしくなってしまい、ミサが慌てて返す。
「夏祭りの舞台の時間、花火前の目玉イベントだとかで、そんなに長くはとれなかったでしょう? せっかくだし、リュウちゃんには夏の歌を1~2曲歌ってもらおうかなと思っているんだけど、どうかな?」
「歌か」
リュウセイが唸る。
「リュウちゃん、歌うの上手だけど、あんまり人前で歌うの好きじゃなかったよね? やっぱりやめようか?」
「いいや、歌を歌ってやっても良い。だけど、条件がある」
「条件?」
なぜか彼女の身体は、彼の膝の上に乗せられる。しかも、後ろから抱きしめられてしまった。
「ど、どうしたの、リュウちゃん?」
すると、ミサの耳元でリュウセイが囁く。
「ミサが欲しい」
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