【R18】使用人令嬢は堅物騎士団長に不器用に愛される 〜王太子殿下が義妹じゃなくて私を専属メイドとして契約するって本気ですか!？〜

プロローグ

プロローグ① レードヴァルドside

　夜半。
　レードヴァルドは窓際で考え事をしていた。
　隣国からの使者として、ラシーヌ侯爵領を視察に訪れていたが、滞在終了日が近づいてきている。

（……イリス殿）

　滞在中に世話係を務めてくれていた少女の姿が脳裏に浮かぶ。
　彼女をどうにかして国に連れて帰りたいのだが――とある問題が浮上していた。
　その時。
　窓辺に何者かの姿が映る。

「何者だ!?」

　ここは二階というのに……。
　暗殺者や刺客の類だろうか？
　慌てて窓を開けて、何者かの手首を掴む。
　深々と被っていたローブが開けると、銀の緩やかな髪が零れ落ちる。
　露わになったのは……
　高貴な紫水晶の瞳、愛らしい唇に、可愛らしいながらもどことなく気品のある佇まい。

「イリス殿」

　レードヴァルドは息を呑むと同時に、イリスが自分に会いに来てくれたのだと気持ちが一気に高揚した。

「こんな夜に……しかもここは二階だ。驚いてしまいました」

「レードヴァルド様」

　窓の外にいるイリスがレードヴァルドの胸板にもたれかかってくる。

「い、イリス殿……？」

　突然、身体が近くなったので、レードヴァルドは動揺してしまう。
　心なしか彼女の碧い瞳が潤んで見えるのは気のせいだろうか？

「どうなさったのでしょうか？」

　動揺する気持ちを落ち着けながら、レードヴァルドはイリスに問いかけた。
　すると……

「レードヴァルド様にお願いがあって参りました」

　イリスの瞳をまっすぐに受け止めながら、レードヴァルドはゴクリと唾を呑み込んだ。

「お願い、とは……？」

　すると、イリスが桜色の唇をそっと開いた。

「どうか、一晩だけでも構いません」

「え？」

　てっきり、もう明日の朝にでもレードヴァルドと一緒にシュトラール王国へと向かいたいと、そんな提案でも来るのかと思っていたというのに……
　そうして、イリスがレードヴァルドに向かって真っすぐに告げた。

「レードヴァルド様の妻にしていただきたいのです」