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本編
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しおりを挟む銃声が聞こると同時に思わず目を瞑った。
大牙くんが牛口先生を撃ったの? どうしよう、殺人事件になっちゃう……!
そっと瞼を持ち上げる。
牛口先生を見下ろしながら、大牙くんが悠然と微笑んでいた。そうして、手にした拳銃の引き金をガチャガチャさせると、悪びれた様子もなく続ける。
「ああ、ごめんね、弾を入れそびれてたみたい。命拾いしたね……って、残念、気絶しちゃったか」
大牙くんの言った通り、牛口先生は気絶してしまっていた。
銃声は聞こえたのに、どういうことかなと考えてたら、私に近づいてきていた犬塚さんがひそひそ話をしてくる。
「兎羽先生、空砲ってやつだよ」
どうやら聞こえたのは空砲だったみたい。
それにしたって犬塚さんはどうしてそんなことを知ってるんだろう?
私が何も知らなさすぎるだけ?
鼠川組長さんが周囲の組員さんに伝令を出すと、牛口先生を取り囲んだ。警察に連れ出されるのか、介抱された後に出頭するのか、どっちかになるのかな。ひとまずこれ以上、女性たちが毒牙にかからくなるんだって思ったら、ほっと一安心。
「まゆりちゃん、あのさ……」
こっちに向かって歩いてきた大牙くんが、私に声をかけようとした時――
「大牙兄ちゃんと兎羽先生」
ちょうど犬塚さんが声をかけてきた。
「なに? 邪魔しないでよね?」
大牙くんがあからさまに不機嫌そうな声を出す。
そこで私はハッとなる。
「そうだ、大牙くん! 女子高生の犬塚さんをこんな危ない場所に連れてくるのはダメだよ!」
すると、ますます大牙くんの声が剣呑なものに変わっていく。じろりと犬塚さんを見ながら続けた。
「ほら、言った通りじゃん。俺がまゆりちゃんに怒られるんだってば」
「わたしがついてきたおかげで、うっしーに打撃与えられたっしょ?」
「もうそういうの要らないんだってば……まったく、明美おばさんは、すぐ首つっこんでくるんだから……」
「ああ、そうやって、都合が悪くなると、すぐに私のことをおばさん呼びして!!」
「だったら、明美おじ――」
「明美ちゃん!!」
んん?
なんだろう?
二人のやりとりを見て違和感がある。
なんとなく二人に似ているところを感じなくもなかったんだけど……
犬塚さんの本名は確か犬塚明美だったはずで……
ん?
「ああ、まゆりちゃん……明美おばさん……じゃなくて明美ちゃんは、俺たちよりも十歳下だけど、母親の姉弟に当たる人物なんだ」
「ええっ……!?」
衝撃的な事実だ。
「そうだったの……?」
犬塚さんが明るい調子で返してくる。
「そうなんだよ~大牙兄ちゃんに言われて、ちょいちょい兎羽先生の報告を――って、警察きたみたいだよ!」
「明美ちゃんは組の人たちに送ってもらって。じゃあ、警察に色々聞かれる前に出ようか、まゆりちゃん」
そうして――大牙くんに肩を抱き寄せられると、廃ビルみたいな場所から外に出たのだった。
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