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本編
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私はてっきりまた客間に連れて行ってくれるのだと思っていた。
だがついたところはこの間とは全然違う場所だった。
部屋の中は、シンプルだけど上品さが見じみ出て、センスの良い配置で物が置かれていた。
「あの、ここは…」
「私の部屋だよ」
「えっルークの!?」
「ふふ、そんなに驚く?婚約者なんだから部屋に連れて行っても問題ないよ。」
「そ、それはそうなんですけど…」
我が国では、婚約したもの同士は互いの部屋で二人きりになっても問題ないのである。
また、外泊についても成人していなければお互いの両親が知っていればだいたい許される。
だか、私たちは本当の婚約者ではない。
だからお互いの部屋を行き来することなどできないはずなのだ。
「あの、私たちは婚約したフリをしているのでは…」
「私はいつでも本気だよ。チュリ、こちらへどうぞ。」
あぁ、そっか。
たとえ婚約のフリをしたとしても周りにバレないように徹底的にやらないといけないのだ。
私は恥ずかしいばかりにやるべき事をわかっていなかった。
「申し訳ございません、ルーク。徹底的に演じないとバレてしまいますもの。私が軽率でした。」
「うーん、そういうことじゃないんだど…」
「お任せください、王宮の料理を頂く代わりにルークの婚約者のフリをするのです。ちゃんと演じきります。」
すると、ルークは少し考えた素振りを見せ、
「じゃあもう少し婚約者らしいことをしよう。」
「はい。どんなことですか?」
チュリは素直に質問した。
向かいに座っていたルークが立ち上がり、チュリの隣に座る。
「婚約しているんだから、キスの練習をしよう。」
「え!?」
そう言って、ルークは顔を近づける。
「ま、待ってください。それは本当の婚約者にとって置かなくては…」
「私たちは今婚約しているんだ。キスも契約のうちに入っているよ。」
そうだったのね…。
私ってばついみんなが見てるときだけかと勝手に思っていた。
「二人きりのときに練習しておかないと、周りに人がいるときに完璧にこなせないだろう?」
「た、確かにそうですけど…」
「チュリは私とキスするのは嫌?」
ルークとキス?
「よ、よくわかりませんが、いや、ではないと思いっん」
ルークの質問に嫌ではないと答えようとしたら、口が塞がれていた。
私はキスするのはこれが初めてで、どうしたらいいのかわからなかった。
「んんっんーっ」
「チュリ、鼻で息をして。苦しくなってしまう」
息が苦しくなりそうな時にルークが教えてくれた。
鼻で息をすると、もう一度唇を重ねてきた。
何度か触れるキスをして最後はチュッと音を立てて唇が離れた。
「ごちそうさま」
私は、ハァハァと息絶え絶えしているが、ルークは満足そうに微笑んでいた。
それから、侍女が運んできたお茶を飲み、帰宅した。
ルークは帰り際、
「また手紙を書くよ。愛しいチュリ、気をつけて帰ってね。」
そう言ってまたキスをした。
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※全11話 2万字程度の話です。
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