βは蚊帳の外で咽び泣く

謀（たばか）る者。

『――失敗した…だと…？』

通話相手の身も凍るような冷たい声に
先ほどまで洋一たちと同じBARに居て、マスターに追いだされたΩ女性が狼狽える

「だって…しょうがないじゃないっ！
　まさかあのBARに私以外のΩが居るなんて聞いていなかったわよっ！」
『Ω…？』
「そうよっ！そのΩせいで標的は私を無視して
　そっちに飛び掛かって行っちゃったんだから…！」

Ω女性は必死に相手に言い募る

『我々の確認した所では
　鬼生道があのBARに入る前にはβしか居なかったハズ…待て。
　そのお前の言うΩに鬼生道は噛みついたのか？』
「ええ。」
『項に？』
「ええそうよっ！」
『――その後…鬼生道はどうなった…？』
「――え…？」
『大人しくなったのか？』
「それは――」
『答えろ。』

通話相手の静かな…しかし有無を言わせぬ問いかけに
Ω女性は恐る恐る口を開く

「暴れて…たわ…
　私のフェロモンに反応してなかったから恐らくβだと思うけど――
　長身の男性に床に押さえつけられながら苦し気にもがいてた…」
『…………』
「あの、」
『分かったもういい。』
「それで――残りのお金は？」
『失敗したのだから支払われる訳がなかろう？』
「そんな…っ！」
『――消されないだけマシと思え。それでは失礼する。』

ピッと通話相手は一方的に通話を切り、Ω女性は辺りを警戒しながら
その場を足早に後にした…


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「で、どうだった？」

男性が夜景を見ながら通話を切ると
男性の後ろのソファーでふんぞり返って居た若い男性が尋ねる

「――失敗したそうだ。」
「…ふぅ～ん…Ωの発情フェロモンに抗う何て――
　鬼生道家の御曹司さまはなかなかやるじゃん…」
「いや、それが自力で抗った訳ではないらしい…」
「？それは一体どういう――」
「まだ分からん。ただ――」
「ただ？」


「Ωの発情フェロモンを上回る“何か”が――
　我々の計画の邪魔をした…と言う事だけは確かだ…」