βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

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Ωの使い道 2

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命たちを乗せた車は
松本オリエンタル工業本社が入るビルの前へと到着するが――

「――何か…閑散としてますね…」

洋一が4階建てのビルを見ながら呟く

「…?今の時間はもう、営業を開始しているハズなんだが――」

命たちが自動ドアを抜け、エントランスホールに足を踏み入れると
中はシン…と静まり返っており、まるで人の気配は感じられず…

「明かりも――必要最低限のものしか点いていませんね…どうしたのでしょう?」
「佐伯。俺が今日此処に来ることは先方には伝えてあるのだろう?」
「勿論です。」
「――なら、社長室へ向かうとしよう。もしそこにも誰も居なかったから…
 今日の話し合いは向こうが拒否をしたという事で――
 明日、弁護士に話をさせるとしよう…」
「分かりました。」

そう言うと命たちは目の前のエレベーターへと乗り込み
社長室のある4階のボタンを押した…

チンッという音と共にエレベーターのドアが開き
命たちは目的の階に足を踏み入れるが――

「――やはり…人の気配がないな…」

社長室のある4階も静まり返っており
他の従業員達が働いている気配すらない…

「何か…不気味ですね…」

怖いものが苦手な洋一が思わず呟く

窓から漏れる光以外、必要最低限の明かりしか灯されていないフロアは
全体的に薄暗く…
本来なら廊下と社員達が働くフロアを隔てるガラスの仕切りの向こう側では
多くの社員が業務に追われ、忙しなく働く姿が見られるハズなのだが
今はその姿は何処にもなく…

命たちは不気味なほど静まり返ったフロアを、社長室目指して奥へと進む

そして社長室に到着すると――

コンコン…と命がノックをし、慎重にそのドアノブを回しドアを開けていく…
すると正面に置かれたエグゼクティブデスクに両肘を着き
顎を手の甲に乗せて座って居る松本社長の姿が見え…

「――ようこそおいで下ださいました…鬼生道 命様…」

髪はボサボサに乱れ、陰のせいかやつれて見えるその表情は
何処か鬼気迫るものがあり
洋一がヒュッと息を飲んでその場で固まる

「松本社長…社員たちはどうした?」
「――今日は…全員休ませました…
 社長室から悲鳴や喘ぎ声なんかが聞こえては――決まりが悪いでしょ…?w」
「なに…?」

ニィ…っと――陰の入った顔で口角を上げ、不気味に微笑む松本社長を見て
洋一は思わず後ずさり、命は松本社長の発言に首を傾げ
怪訝な表情をしながら松本社長を見据える

「――どういう意味だ…?」
「どういう意味も何も…この場に死刑宣告に訪れた死神を――
 コチラが何の手段も講じずに――
 ただ黙ってソレを受け入れると…本気でお思いか…?
 ――入りなさい。」

松本社長が不気味に微笑んだまま、隣へと続くドアに向かって話しかける
するとドアがギィ…と小さな音を立てて開き
隣の部屋から怯え切った表情の少年が
泣きはらした赤い目で命たちの方を見ながら
おずおずと部屋に入ってきて――

「―――――――ッ!」

その瞬間、命は洋一の手を掴んで慌てて社長室を飛び出す

「――無駄な事を…
 初めてヒートを迎えたΩの強烈なフェロモンを一瞬でも嗅いで抗いきれるとでも…?
 優弥(ゆうや)…迎えに行ってあげなさい…そしてお前の役目を果たせ。」
「ッ、は…い…とお…さん…ッ、」

少年は泣きながら覚束ない足取りで命たちの出て行ったドアへと向かう
そこへ佐伯が立ちはだかり――

「…何だ貴様は…邪魔をするな。」

松本社長が椅子から立ち上り、ドアの前に立つ佐伯へと近寄る

「貴方は――ご自分のご子息を保身の為に利用する気ですか…?」

佐伯が憐れむような瞳で、目の前に立つ松本社長と
その隣で泣きながら佇む少年を見やる

「あたりまえだろう…?Ωなど――
 優秀なαに取り入る為の道具にすぎん。
 こんな発情期で使い物になら無くなる劣等種など…」

ソレを聞き、佐伯の瞳が鋭さを増す

「自分の息子がΩと知った時、どれほど絶望した事か…
 だがしかし――こんな愚息でも使い道ってのはあるもんなんだなw」

松本社長の卑下た笑みが――より一層深くなる

「あの鬼生道を手に入れられるかもしられないんだから――
 さあ、そこを退け。さっさとコイツを抱かせて番ってもらわないと…」

松本が隣に立つ少年の手をグイッと引き、ドアノブに手をかける

次の瞬間

「ッ!?」

佐伯がドアノブを掴む松本社長の手首を掴み、その手をギリギリとねじり上げると

佐伯は松本社長をその場に跪(ひざまず)かせていた――
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