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命が望むもの。
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月明かりに照らされた白いガゼボ内で
二つに重なる影から荒い呼吸音が漏れ聞こえ…
微かに聞こえる波の音に混じり合って、辺りに霧散し消えていく…
「…ッ、」
契の舌が、鼻腔を擽る甘い香りと共に命の口内へと侵入し
命の歯列をゆっくりとなぞりながら命の口内を確かめるように動き回る…
「ン…ふっ、ぅ…」
契から溢れ出るΩのヒートフェロモンの甘い香りが辺りに充満し始め…
脳を蕩けさせるようなその甘い香りと、息を塞ぐように契のキスに
命の思考が徐々に甘く痺れるような快感に絡め取られ
微睡む様な感覚に堕ちて行く…
―――ッ、駄目だ…早く…洋一を追わないと…っ、
命が足掻くかのように契の肩に手を置き、その身体を引き離そうともがく…
だが実際はΩのフェロモンに抗え無いαの性(さが)なのか…
足掻く心とは裏腹に
契の肩に置いた命の手は微かに震えたまま一ミリも契を押す事が出来ず…
契はそんな命の背に回した手に更に力を入れ、命の身体を掻き抱きながら
更に深く命の唇に自分の唇を重ね、契の舌が命の下顎をなぞりながら
命の舌を探る様に舌先を突きだす…
「ふっ、止め…、ッ、せつ…っ、」
命が今にも千切れそうな理性を振り絞り
銀糸を引きながら契の唇から自身の唇を何とか引き離すと
契から顔を逸らしてフェロモンから…契から命が抗う…
しかし契はそんな命を離さないと言わんばかりに強く抱きしめ
トロンとした表情で涙で潤む瞳を命に向けながら
熱い吐息と共に口を開く…
「…なぜ…?」
「ッ、」
「何故止める必要があるの…?僕たち“運命”でしょ…?」
契の手が逸らされた命の頬にソっと触れ…
再び自分の方へと命の顔を向けさせる…
「命さんだってもう…気づいてるんでしょ?
…僕が…命さんの“運命の番”だって事に…」
契の唇が命の頬を掠めるギリギリを吹きかける息と共に這いながら
命の耳元に唇を寄せると、契が甘く、蕩けるような低音で囁く
「なのに何で互いを求める気持ちを止める必要があるの…?
…命さんだって…欲しいんでしょ…?僕の事が…」
―――欲しい…?俺が?契を…?
…違う…ッ、
契の唇が、再び命の唇に重なろうとする…
しかし命は今度こそ明確な意思を持ってグッと契の身体を押しながら叫んだ
「止めろっ!!」
「ッ!?」
命の声に契の身体がビクリと跳ねる
「…どうして…」
「…?」
「どうして抗うの?命さん…もう…抗う必要なんてないでしょ…?
僕たち“運命”なんだよ?なのに何で抗うのっ?!」
αなら抗いがたい…
寧ろ何故未だに正気を保っていられるのか不思議なくらいの
Ωの…しかも“運命の番”かもしてない契が放つ
強烈なヒートフェロモンが空気中に充満する中…
命は苦し気にフーッフーッと呼吸を荒げながらも“運命”に抗う…
そんな命の姿に今まで蕩け切った表情をしていた契の表情が一変し
焦りと嫉妬を滲ませた醜い表情へと変わって行く…
「まさか…あのβのせい…?
あんな役立たずなβの為にまだ抗ってるのっ?!
あんな…“匂いしか取り得の無い”平凡なβの男の為に…っ、」
「…“匂いしか取り得の無い”…」
契の一言に命の表情が更に苦し気に歪む…
「だってそうじゃない!“匂い”以外何の役にも立たない…ううん
寧ろΩのフェロモンを遮って命さんと僕の“運命”の邪魔をするだなんて
害悪でしかないでしかないでしょっ?!あんなβ…、
なのに何故命さんがそこまであのβに拘(こだわ)るのか理解出来ないっ!
あんな…子も成せないβの男に…っ、有り得ないでしょっ?!」
ヒステリックにまくしたてる契に命がギリッと下唇を噛み
噛んだ箇所から血が滲む…
「…お前に…洋一の何が分かる…」
「ッ、」
命が、唸るような声で言葉を吐きだす
「…確かに…俺が洋一を傍に置くと決めたきっかけは洋一の“匂い”だ…
Ωのフェロモンから俺自身を守る為に洋一の“匂い”が必要だったから…
でも…今は違う…
“匂い”の為だけに洋一に傍に居て欲しいんじゃない…っ、」
月明かりの中、綺麗な金色に輝く命の瞳が契を捉えながら
命が意を決して言葉を紡ぐ…
「…俺は…洋一を愛している…」
あれほど乱れていた命の呼吸が徐々に落ち着きを取り戻し
今まで抗いがたい程の命の情欲を煽っていた契の匂いが
ただの甘い香りに変わっていくのを感じながら
命が再度噛みしめる様にその言葉を声に出して呟く…
「誰よりも…愛している…だから傍に居て欲しいんだ…っ、」
―――洋一…
「そんなの…ッ、」
命の全てを振り絞る様な告白を聞き
契の表情が益々醜く歪む
「そんなのおかしいでしょっ?!僕は命さんの“運命”だよっ?!
“運命”である僕を差し置いて、孕めもしないβの男を愛するだなんてっ、
おかしすぎるでしょっ?!何考えてるのっ?!
僕なら…命さんの望むもの全てを与えてあげる事が出来るのに…っ!」
契のその言葉を聞き、命がフッと呆れたような笑みを浮かべる
「…俺の望むものとは何だ?契…」
「え…」
「まさか――“子供”とか言わないよな。」
口角を上げたゾッとする様な冷たい笑みを浮かべる命を前に契がたじろぐ
「…俺が望むのは洋一だけだ…
“運命”でも…ましてやお前でも無い。」
「ッ、そんな…っ、」
命が契に背を向け、ただの甘ったるいだけの匂いが充満するガゼボから命が出る
「命さんっ!」
「洋一を追う。邪魔をしたら…容赦しない。」
命はそう言うとその場から駆け出し
「ッ、行っちゃダメッ、行かないで…っ!
命さん…命さんっ!!!」
一人取り残された契はその場にヘタレ込み
自分から遠ざかって行く命の背中に向かって
ただ大声でその名を泣き叫ぶしか出来無かった…
二つに重なる影から荒い呼吸音が漏れ聞こえ…
微かに聞こえる波の音に混じり合って、辺りに霧散し消えていく…
「…ッ、」
契の舌が、鼻腔を擽る甘い香りと共に命の口内へと侵入し
命の歯列をゆっくりとなぞりながら命の口内を確かめるように動き回る…
「ン…ふっ、ぅ…」
契から溢れ出るΩのヒートフェロモンの甘い香りが辺りに充満し始め…
脳を蕩けさせるようなその甘い香りと、息を塞ぐように契のキスに
命の思考が徐々に甘く痺れるような快感に絡め取られ
微睡む様な感覚に堕ちて行く…
―――ッ、駄目だ…早く…洋一を追わないと…っ、
命が足掻くかのように契の肩に手を置き、その身体を引き離そうともがく…
だが実際はΩのフェロモンに抗え無いαの性(さが)なのか…
足掻く心とは裏腹に
契の肩に置いた命の手は微かに震えたまま一ミリも契を押す事が出来ず…
契はそんな命の背に回した手に更に力を入れ、命の身体を掻き抱きながら
更に深く命の唇に自分の唇を重ね、契の舌が命の下顎をなぞりながら
命の舌を探る様に舌先を突きだす…
「ふっ、止め…、ッ、せつ…っ、」
命が今にも千切れそうな理性を振り絞り
銀糸を引きながら契の唇から自身の唇を何とか引き離すと
契から顔を逸らしてフェロモンから…契から命が抗う…
しかし契はそんな命を離さないと言わんばかりに強く抱きしめ
トロンとした表情で涙で潤む瞳を命に向けながら
熱い吐息と共に口を開く…
「…なぜ…?」
「ッ、」
「何故止める必要があるの…?僕たち“運命”でしょ…?」
契の手が逸らされた命の頬にソっと触れ…
再び自分の方へと命の顔を向けさせる…
「命さんだってもう…気づいてるんでしょ?
…僕が…命さんの“運命の番”だって事に…」
契の唇が命の頬を掠めるギリギリを吹きかける息と共に這いながら
命の耳元に唇を寄せると、契が甘く、蕩けるような低音で囁く
「なのに何で互いを求める気持ちを止める必要があるの…?
…命さんだって…欲しいんでしょ…?僕の事が…」
―――欲しい…?俺が?契を…?
…違う…ッ、
契の唇が、再び命の唇に重なろうとする…
しかし命は今度こそ明確な意思を持ってグッと契の身体を押しながら叫んだ
「止めろっ!!」
「ッ!?」
命の声に契の身体がビクリと跳ねる
「…どうして…」
「…?」
「どうして抗うの?命さん…もう…抗う必要なんてないでしょ…?
僕たち“運命”なんだよ?なのに何で抗うのっ?!」
αなら抗いがたい…
寧ろ何故未だに正気を保っていられるのか不思議なくらいの
Ωの…しかも“運命の番”かもしてない契が放つ
強烈なヒートフェロモンが空気中に充満する中…
命は苦し気にフーッフーッと呼吸を荒げながらも“運命”に抗う…
そんな命の姿に今まで蕩け切った表情をしていた契の表情が一変し
焦りと嫉妬を滲ませた醜い表情へと変わって行く…
「まさか…あのβのせい…?
あんな役立たずなβの為にまだ抗ってるのっ?!
あんな…“匂いしか取り得の無い”平凡なβの男の為に…っ、」
「…“匂いしか取り得の無い”…」
契の一言に命の表情が更に苦し気に歪む…
「だってそうじゃない!“匂い”以外何の役にも立たない…ううん
寧ろΩのフェロモンを遮って命さんと僕の“運命”の邪魔をするだなんて
害悪でしかないでしかないでしょっ?!あんなβ…、
なのに何故命さんがそこまであのβに拘(こだわ)るのか理解出来ないっ!
あんな…子も成せないβの男に…っ、有り得ないでしょっ?!」
ヒステリックにまくしたてる契に命がギリッと下唇を噛み
噛んだ箇所から血が滲む…
「…お前に…洋一の何が分かる…」
「ッ、」
命が、唸るような声で言葉を吐きだす
「…確かに…俺が洋一を傍に置くと決めたきっかけは洋一の“匂い”だ…
Ωのフェロモンから俺自身を守る為に洋一の“匂い”が必要だったから…
でも…今は違う…
“匂い”の為だけに洋一に傍に居て欲しいんじゃない…っ、」
月明かりの中、綺麗な金色に輝く命の瞳が契を捉えながら
命が意を決して言葉を紡ぐ…
「…俺は…洋一を愛している…」
あれほど乱れていた命の呼吸が徐々に落ち着きを取り戻し
今まで抗いがたい程の命の情欲を煽っていた契の匂いが
ただの甘い香りに変わっていくのを感じながら
命が再度噛みしめる様にその言葉を声に出して呟く…
「誰よりも…愛している…だから傍に居て欲しいんだ…っ、」
―――洋一…
「そんなの…ッ、」
命の全てを振り絞る様な告白を聞き
契の表情が益々醜く歪む
「そんなのおかしいでしょっ?!僕は命さんの“運命”だよっ?!
“運命”である僕を差し置いて、孕めもしないβの男を愛するだなんてっ、
おかしすぎるでしょっ?!何考えてるのっ?!
僕なら…命さんの望むもの全てを与えてあげる事が出来るのに…っ!」
契のその言葉を聞き、命がフッと呆れたような笑みを浮かべる
「…俺の望むものとは何だ?契…」
「え…」
「まさか――“子供”とか言わないよな。」
口角を上げたゾッとする様な冷たい笑みを浮かべる命を前に契がたじろぐ
「…俺が望むのは洋一だけだ…
“運命”でも…ましてやお前でも無い。」
「ッ、そんな…っ、」
命が契に背を向け、ただの甘ったるいだけの匂いが充満するガゼボから命が出る
「命さんっ!」
「洋一を追う。邪魔をしたら…容赦しない。」
命はそう言うとその場から駆け出し
「ッ、行っちゃダメッ、行かないで…っ!
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