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匂いの変化。
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「彼が例の?」
「はい。」
一人の身なりの良い男性が部屋に入るなり、ベッドで眠る男性を見つめながら
部屋のドアの横に待機して居た男性に尋ね、そのままベッドへと歩み寄る…
すると男性はベッドに数歩近づいた途端
思わずその場で足を止め、感嘆の声を漏らした…
「!ほぅ…これは――」
広いベッドの上には一人…薬で眠らされた状態の洋一が横たわっており
男性は更にベッドに近づくと洋一に顔を近づけ、その匂いを嗅ぐ
「確かに…良い匂いだ…“アレ”が執着するのも分かる気がするな…」
花とも果実とも思えるような甘く…それでいて清涼感のあるその匂いに
男性は一瞬で心を奪われたかのように目を閉じ、うっとりとその匂いを堪能する
そこに部屋のドアがノックも無く突然開き
ドアの横に立っていた男性が腰のホルスターに手を伸ばして身構えるが
入って来た男性の顔を確認するなり、ホルスターから手を外して男性に一礼し
再びドアの横で石像と化す
「…連絡を貰ったからとりあえず急いで来てはみたけれど――
明日ではダメだったのかい?繋(けい)…」
新たに部屋に入って来た男性は一見、穏やかな表情をしてはいるものの
何処か不機嫌さを隠さない様子で、ウットリと匂いを嗅いでいる男性に
呆れたような口調で話しかける
「駄目だ。すぐにお前にも私と一緒にこの匂いを確認してもらいたかったからな。」
「ハァ~…キミは昔っから相手の都合を考えない、強引なところがあったけど…
今回も相変わらず酷いな…
私が“表向き”アパレルメーカーの専務だって事を忘れてないかい?
…残業途中で抜け出してきたから後で部下たちに何て説明したら…」
男性がブツブツと文句を垂れながら皺になりつつある眉間に手を当てて
あからさまに大きな溜息を吐きだす
「だから前から言ってるだろう…理(さとる)…
アパレルメーカーなんて辞めて私の元に来いと…
そうすれば好きなだけお前は研究に打ち込めるというのに――
何故お前が未だに“表向き”の立場に拘(こだわ)っているのか私には分からん。
それより早くコッチに来てお前も嗅いでみろ。凄いぞ。」
年甲斐も無く子供の様に興奮している様子の幼馴染の姿に
理と呼ばれた男性は少しだけ目元を綻ばせながらベッドへと近づく
「…ああホントに…高校生だった頃と変わらず良い匂いだね…洋一君の匂いは…
ただ――」
「ただ…?どうかしたか?」
「…いや…何か――あの頃とは違うような…」
「“違う”とは?」
「…上手く言えないんだけど匂いの“性質”というか――
こんなにも“濃く”αを“惹きつける”ような匂いだったかな…と…
それに何だか…」
「?」
「いや、忘れてくれ。それより――今日彼を調べるのは流石に無理だぞ?
さっきも言った通り私は残業を抜け出して此処に来ているからもう戻らないと…」
「分かっている。だが明日から――」
「繋様。」
「…何だ。」
一人の黒いスーツを着た男性がノックと共に繋たちの居る部屋に入り
繋に一礼してから無表情で話し出す
「…先程、この施設の近くで命様の運転手を捕らえましたが――
いかがいたしましょう?」
「保(たもつ)か…怪我は?」
「は?」
「怪我はさせていないだろうな。」
「お…恐らくは…」
「ならいい。そのまま解放しろ。」
「し、しかし――」
「此処は捨てる。直ぐにβを連れて移動の準備を。」
「…分かりました。」
黒いスーツを着た男性はそのまま少し慌てた様子で部屋を出る
「…大変だねぇ~…私はもう会社に戻るけど――大丈夫かい?」
「ああ…それよりも明日、落ち着いたら連絡を入れるから時間を開けておけ」
「分かったよ。それじゃあまた明日。」
「ああ…」
理は部屋を出ていき、繋が一息つく
そこに内ポケットに入れてたスマホがバイブし
繋がスマホを取り出して画面を確認すると、フッと何故かほくそ笑む
ピッ、
「…どうした?命…こんな時間に。」
『父上…会ってお話があります。今直ぐに。』
※※※※※※※
私事ではありますが、暫く更新が滞るかもしれません。ごめんなさい。
「はい。」
一人の身なりの良い男性が部屋に入るなり、ベッドで眠る男性を見つめながら
部屋のドアの横に待機して居た男性に尋ね、そのままベッドへと歩み寄る…
すると男性はベッドに数歩近づいた途端
思わずその場で足を止め、感嘆の声を漏らした…
「!ほぅ…これは――」
広いベッドの上には一人…薬で眠らされた状態の洋一が横たわっており
男性は更にベッドに近づくと洋一に顔を近づけ、その匂いを嗅ぐ
「確かに…良い匂いだ…“アレ”が執着するのも分かる気がするな…」
花とも果実とも思えるような甘く…それでいて清涼感のあるその匂いに
男性は一瞬で心を奪われたかのように目を閉じ、うっとりとその匂いを堪能する
そこに部屋のドアがノックも無く突然開き
ドアの横に立っていた男性が腰のホルスターに手を伸ばして身構えるが
入って来た男性の顔を確認するなり、ホルスターから手を外して男性に一礼し
再びドアの横で石像と化す
「…連絡を貰ったからとりあえず急いで来てはみたけれど――
明日ではダメだったのかい?繋(けい)…」
新たに部屋に入って来た男性は一見、穏やかな表情をしてはいるものの
何処か不機嫌さを隠さない様子で、ウットリと匂いを嗅いでいる男性に
呆れたような口調で話しかける
「駄目だ。すぐにお前にも私と一緒にこの匂いを確認してもらいたかったからな。」
「ハァ~…キミは昔っから相手の都合を考えない、強引なところがあったけど…
今回も相変わらず酷いな…
私が“表向き”アパレルメーカーの専務だって事を忘れてないかい?
…残業途中で抜け出してきたから後で部下たちに何て説明したら…」
男性がブツブツと文句を垂れながら皺になりつつある眉間に手を当てて
あからさまに大きな溜息を吐きだす
「だから前から言ってるだろう…理(さとる)…
アパレルメーカーなんて辞めて私の元に来いと…
そうすれば好きなだけお前は研究に打ち込めるというのに――
何故お前が未だに“表向き”の立場に拘(こだわ)っているのか私には分からん。
それより早くコッチに来てお前も嗅いでみろ。凄いぞ。」
年甲斐も無く子供の様に興奮している様子の幼馴染の姿に
理と呼ばれた男性は少しだけ目元を綻ばせながらベッドへと近づく
「…ああホントに…高校生だった頃と変わらず良い匂いだね…洋一君の匂いは…
ただ――」
「ただ…?どうかしたか?」
「…いや…何か――あの頃とは違うような…」
「“違う”とは?」
「…上手く言えないんだけど匂いの“性質”というか――
こんなにも“濃く”αを“惹きつける”ような匂いだったかな…と…
それに何だか…」
「?」
「いや、忘れてくれ。それより――今日彼を調べるのは流石に無理だぞ?
さっきも言った通り私は残業を抜け出して此処に来ているからもう戻らないと…」
「分かっている。だが明日から――」
「繋様。」
「…何だ。」
一人の黒いスーツを着た男性がノックと共に繋たちの居る部屋に入り
繋に一礼してから無表情で話し出す
「…先程、この施設の近くで命様の運転手を捕らえましたが――
いかがいたしましょう?」
「保(たもつ)か…怪我は?」
「は?」
「怪我はさせていないだろうな。」
「お…恐らくは…」
「ならいい。そのまま解放しろ。」
「し、しかし――」
「此処は捨てる。直ぐにβを連れて移動の準備を。」
「…分かりました。」
黒いスーツを着た男性はそのまま少し慌てた様子で部屋を出る
「…大変だねぇ~…私はもう会社に戻るけど――大丈夫かい?」
「ああ…それよりも明日、落ち着いたら連絡を入れるから時間を開けておけ」
「分かったよ。それじゃあまた明日。」
「ああ…」
理は部屋を出ていき、繋が一息つく
そこに内ポケットに入れてたスマホがバイブし
繋がスマホを取り出して画面を確認すると、フッと何故かほくそ笑む
ピッ、
「…どうした?命…こんな時間に。」
『父上…会ってお話があります。今直ぐに。』
※※※※※※※
私事ではありますが、暫く更新が滞るかもしれません。ごめんなさい。
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