βは蚊帳の外で咽び泣く

深淵歩く猫

文字の大きさ
123 / 128

お爺様。1

しおりを挟む
「…お前はもう帰っていいよ。」
「分かりました。では、失礼いたします円様。」

命と円が臨海公園の駐車場に辿り着くと
円がそこで待機していた自分の運転手に声をかけ、運転手は円たちに一礼した後
車に乗り込みその場を後にする

「…ところで…」

命がアストンマーティンの運転席側のドアハンドルに手をかけ
ふと何かを思いだしたかのように
同じく助手席側に乗り込もうとしていた円に声をかける

「…アイツ等はあのままにしておいてもよかったのか?」

広い公園の真ん中で…
未だに円陣組んでお座りをし続けている狼達の事を思いだし
命が少し不憫に思いながら運転席のドアを開ける

「あー…アレね…
 だいじょぶ!明日の明け方くらいには言霊の効力も切れてるって。」
「明け方…それは流石に――」

可哀相なのでは?…と命は言いかけたが、円がすぐさま

「だってアイツ等…泣いてたようちゃんの事を襲おうとしてたんだよ?
 これくらい――」
「…なに…?」

ソレを聞き、命の表情が一変する

「明け方までとは言わず…
 干からびるまでアイツ等をあの場で晒し者にし続ける事は出来んのか?」
「出来無いよ。まあ気持ちは分からなくはないけど…
 それよりホラ、早く車に乗って!ようちゃん助けにいくんでしょ?」
「ッ!ああ、そうだな…」

二人が車に乗り込むと
アストンマーティンが誰も居無い駐車場を勢いよくバックし始めたと思ったら
キュキキキキッ!と、その場で見事な180°スピンターンを決め
車体を正面ゲートに向けると
そのまま何事もなかったかのように臨海公園を走り去った…



車が暫く走ったところで円のスマホが鳴り
円がスマホの画面を確認すると、何処で円のアドレスを入手したのか
そのには浩介の名前が表示されてて

「あ!こーちゃんからだ。」
「なに?」
「もしもし~?こーちゃん?」
『…円…』

通話をスピーカーに切り替え、ピッと電話に出た円の明るい声とは裏腹に
受話口の向こうから聞こえてきた浩介の声は暗くて低い…

『…円お前…知ってたのか…?』
「え?何が?」
『俺の父方の血統…』
「っあ…こーちゃんあのね…?」
「篠原の血統…?何の話だ…」
『!命もそこにいんのか…だったら丁度いい…聞いてくれ…俺の親父が――』
「こーちゃんっ!」

円が急に声を張り上げ、浩介の言葉を遮る

『…なんだよ…お前が調べろって言ったんじゃねーか…“俺の血統”を…』
「ッ、そーだけど…っ!でもこうも言ったよね?
 『何か分かったとしも自分を責めちゃダメだよ。』って…
 例えこーちゃんのお父様に“裏の顔”があったとしても――」
『ッ!テメー…やっぱり知ってたんじゃねーかっ!!』

スピーカーから聞こえてくる浩介の声が荒げる

「…先程からお前達二人は何の話をしているんだ?」

正面を見据えながら運転している命は、二人の会話の内容が見えてこず
思わず口を挟む

『…俺の血統の話だよ…今朝、円が俺に会いに来て
 俺に“運命が造られる”とかいう妙な噂話しを持ってきてな…』
「運命が…造られる…?」
「………」


『やはり“造られた運命”は不完全だったという事か…』


―――ッ!?

命の脳裏に先程の父との会話が過り
命がヒュッと息を飲み込み、思わず助手席に座る円の方を見ると
円は俯き、神妙な面持ちでスマホ画面を見つめており…

『…その事で円が俺に言ったんだ。“自分の血統を辿れ”…と…』
「………」
『最初は半信半疑だったが――
 それでも俺がまず真っ先に電話をかけたのが俺の親父。
 けど親父は俺からの質問をのらりくらりとかわすばかりで
 全然答えようとしなくてな…
 果ては「今忙しいから」と一方的に電話を切りやがってさ…
 まあ…今思えばとーぜんなんだけどな…』
「…ッ、」

受話口からでも分かる位、悔しさが滲み出るような浩介の呟きに
円の表情にも陰りが現れる…

『そこで次に俺が電話をかけたのがお袋。お袋も大分口が重かったけど…
 それでも分かった事があって
 一つは俺の姓“篠原”が母方のモノだった事…
 何でも親父は自分の姓を表に出すのを極端に嫌ってて――
 それで仕方なく母方の姓を名乗る事にしたんだとか…
 ま、これも当然か…』

浩介がまるで吐き捨てるかのように小さく最後の一言を呟く…

『そしてもう一つ分かった事が
 親父の家系は古くから代々続くαの家系で…
 親父がお袋と結婚を決めた際、親父の親族一同は総出で
 その結婚に反対したんだと…「βと結婚するとは何事かっ!」…みたいな?
 …この話をしている最中のお袋の声…泣いてたな…』

受話口から聞こえる声からも分かる位
辛そうにしている浩介の雰囲気が伝わったのか…
円のスマホを握る手に力が入り、指先がクッと白む…

『…でも親父の親父…その時父方の血筋全ての頂点に君臨していた
 当時の当主…俺の祖父に当たる人が
 俺の親父にある条件を飲めば結婚を許すと言ったそうなんだが――
 …その前に円…』
「…なに…?こーちゃん…」
『お前はもう…全部知ってるんだな?俺の事…』
「…ぅん…知ってる…こーちゃんの事を調べる際…お爺様に全部聞いた。」
「ッ!?ちょっと待て円っ!」

運転しながら話を聞いていた命がこれには驚き
思わず車を路肩に止め、円の方を凝視しながら恐る恐る口を開いた

「お前のお爺様とやら…こう言っては失礼だが――まだ御存命なのか…?」
「うん、生きてるよ。といっても――ようちゃんを僕から隠した後…
 ようちゃんの匂いに関する研究を全て破棄し
 最後に残されたようちゃんの匂いから抽出した液体全てを自分に投与した結果…
 




 もう“お爺様”と呼べ無い姿になったけどね…」
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

人気アイドルが義理の兄になりまして

三栖やよい
BL
柚木(ゆずき)雪都(ゆきと)はごくごく普通の高校一年生。ある日、人気アイドル『Shiny Boys』のリーダー・碧(あおい)と義理の兄弟となり……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

処理中です...