【完結】元ヤクザの俺が推しの家政夫になってしまった件

深淵歩く猫

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今度の仕事先は…

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「…まゆずみさん。ちょっといいかしら…」
「…はい、何でしょうか葛西かさいさん。」

俺の名前は黛 慎也まゆずみ しんや
この家政婦派遣会社“ニコニコエブリデー”に勤める36歳だ。

実はちょっとしたワケありで――

俺はその事を隠して、この家政婦会社でハウスキーパーとして働いている。

「急で申し訳ないのだけど……実は貴方に頼みたい事があって…」
「…頼みたい事?」
「そうなの…」

この小さな家政婦会社の社長を務める葛西 真由美かさい まゆみ
その人のよさそうな顔に申し訳なさそうな笑みを浮かべながら言葉を続け…

「…実はある芸能事務所さんから依頼がきてね?

 秘密厳守で――

 ある程度料理が出来
 信頼ができる独身男性のハウスキーパーはいないかとの要望があって…」

「芸能事務所って…」

それってつまり依頼先は男性アイドルか男性タレント…
もしくは売り出し中の俳優のマンションかアパートって事か…?
変な噂が立たないように…

まあ大体が本人不在の時に済ませる仕事とはいえ
女性が男性アイドルや俳優の家に行ったら何かとマズイもんな。
今はスキャンダルなんていくらでもでっち上げられる時代だし…
警戒するのも当然か。

しかし――

「ホラ……ウチで独身男性のハウスキーパーといったら黛さんしかいないじゃない?
 だからお願いできないかなと思って…」
「…折角ですが……既に俺――
 2件の依頼を抱えてまして…」
「――あ!その事なら心配しないで?貴方がこの依頼を引き受けてくれるのなら
 その2件の依頼に対して芸能事務所さんから代わりにお詫びとキャンセル料を
 支払ってくれるらしいから。」
「…そうなんですか?だったら引き受けても構いませんけど…
 それにしても何でウチみたいな地元密着型の小さな家政婦派遣会社に
 芸能事務所からの依頼が…」
「それは私も思ったんだけど…
 けど――こんなチャンスって滅多にないじゃない…?
 ここは少しでもウチ(ニコニコエブリデー)を芸能界に売り込むためにも
 この依頼は引き受けた方がいいかなぁ~っと思って…」
「はぁ…」

そう言ってニコニコと微笑む葛西さんに、俺は何も言えなくて…

「…引き受けて――もらえるわよね…?
 さっき引き受けても構いませんって言ってたし…」
「はぁ……まあ…」
「うふふ!良かったぁ~…
 実はもう――先方に「引き受けます」って返事をしてて…」
「ええっ?!」
「後は黛さんがこの契約書に自分の名前とハンコ…
 もしくは拇印ぼいんを押してくれれば契約完了となります。
 一応――サインするかどうかは明日までにその契約書をよく読んで決めてね?」
「………もう引き受けますって言っちゃってるんですよね…
 コレ……俺に選択肢って有ります…?」
「―――うん。ないね!」
「ですよね…」

「ハハッ…」と俺は乾いた笑みを浮かべながら葛西さんから契約書を受け取ると
軽くソレに目を通し…

―――いたって普通の契約書だな。

そこに書かれていた契約内容はごくごく普通の内容で――
俺はフムフムと頷きながら契約書の最後の方に目を落とすと
そこにはこれから俺が働く事になるであろうマンションの部屋の主の名前が
甲として既に達筆な文字で書かれていて…

―――天崎あまさき――しゅう…?

「…………………―――!?」

―――天崎 鷲だってっ!?

俺は改めて契約書の甲の欄に書かれた名前を食い入るように見つめ…
   
―――いやちょっと…?、、ちょっと待てくれ…っ、

こんな事ってあり得るのか…?
   
だって天崎 鷲って言ったらお前――




俺の推しの本名と同じ名前なんだけど…?




いやいやいやそんなまさか――

   



まさかな…?





「…どうかした?」
「えっ?!いやっ、、あのぉ~…」

俺が契約書を見ながら固まったのを不思議に思ったのだろう…
葛西さんが心配そうに俺の顔を覗き込んできたので
俺は慌てて契約書から目を離すと、目の前にいる葛西さんに恐る恐る尋ね…

「っそのぉ……つかぬ事をお伺いしますけど…
 今回依頼してきたという――その芸能事務所さんのお名前は…?」
「アレ…?その契約書に書かれていなかった?」
「…残念ながら……甲の欄には天崎 鷲としか…」
「…そうだった?あ!じゃあちょっと待って。
 確か事務所から直接ココにこの依頼を持ってきてくれた人から
 名刺を預かってるから……え~っと…?」
「…事務所の名前も聞かずに引き受けたんですか?」
「えっ!?いやぁ~……一応名前は聞いたんだけどね?
 ホラ…私って物覚えが悪いじゃない…?芸能事務所としか覚えてなくって…
 ―――あっ!あったあった。」

そう言って葛西さんは今着ている事務用ベストのポケットから名刺を取り出すと
そこに書かれていた社名を目を細めながら読み上げ…

「…株式会社 海良木かいらぎ芸能プロダクション……だ、そうよ?」
「海良木芸能プロダクションっ!?!」
「ッ!?ちょっと何っ?!いきなり大声なんか出して…」
「――あ…、すみません…
 ちょっと驚いてしまって…」
「…黛さんがそこまで驚くって事はひょっとして――凄いトコロなの?
 この海良木芸能プロダクションって…」
「ッ!?凄いなんてもんじゃないですよ!!」
「!?」

葛西さんの言葉で変なスイッチが入ってしまった俺はもう――
自分を止める事が出来なくて…

「いいですか!?海良木プロと言ったら今を時めく男性アイドルグループ
 “αστέρας(アステラス)”を始め
 多くのアイドルを輩出しているいわば音楽業界のヒットメーカーですよっ?!
 しかもαστέραςのメンバーの一人である
 星駆 昴ほしかけ すばる君が主演を務める映画『君が走るその先に』は
 公開僅か三日で興行収益10億を達成するほどの大ヒットだったんですからっ!

 そんな彼を抱える海良木プロが凄くないワケがないじゃないですかっ!!!」

「ッ……そっ…、そうね!悪かったわ。変な事を聞いてしまって…」

「ハァッ…、ハァツ…
 ―――ッ!す……すいません!ついカッとして…」
「っいえ…いいのよ…?謝らなくて…
 それにしても驚いたわぁ~……貴方がアイドルに詳しいなんて…」
「えっ…?いや別に……詳しいわけでは…、」
「アラ!いいのよ?別に…そんな隠さなくても…」
「っいえ……俺ホント、そんなんじゃないんで…」
「そ~お~?ま、私としては貴方がアイドルオタクとかでも
 仕事さえしてくれたら一向に構わないんだけど…」
「………」
「ま。それはさておき……私はそろそろ仕事に戻るから――
 貴方はその契約書にサインするかどうかは明日までには決めといてね?
 それじゃあ今日はお疲れさまでした。」
「!あ…はい。お疲れさまでした…」

そう言って葛西さんは部屋を後にすると
あとに残された俺は契約書の甲の欄に書かれた名前を改めて見つめながら
途方に暮れ…

「はぁ……天崎 鷲か…」

―――これはもう――間違えようがないな…

この依頼を持って来たのが海良木芸能プロダクションで――

そこに所属するアイドルで本名が天崎 鷲といったらもう――一人しかいない…

そう…

今を時めく“αστέρας(アステラス)”のメンバーで――

俺が今最も推している男…




芸名――星駆 昴ほしかけ すばる君で間違いないっ!




――て事はつまり…

俺はこれからその人のマンションで働く事になるって事…?




マジかよ。

死んだわ。俺。
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