18 / 69
団長 × アミル
救援
しおりを挟むあの夢のような現実であってほしくないような夜からアミルはちゃんと眠れるようになった。
カイルからは振られたの?と聞かれたが何も答えようがなくて返事を濁した。
その時はふうんと楽しそうな顔を見せていたけれど興味が失せたのかそれ以降特に何も聞かれない。
団長は、いつも通りだった。
どんな顔をして会えばいいのかと思っていたアミルの心配をよそにあの夜のことを「勝手に触れて悪かったな」と謝り、体調を聞かれてその話は終わった。
よく眠れましたと答えたら一瞬気まずそうな顔をしたけれど、眠れるようになって良かったなと言ってくれた。
なかったことにされたのか?
これで一線を引いた態度を取られたらそう感じただろうけれど。
団長は今まで通り僕に声をかけ、親身な態度を崩さない。
温かみのあるなんともいえない表情で僕を見ていることも増えた。
一見後退した状況に思えるのに、前のように苦しいこともない。
一番みっともないところを見られたからか突き離されないだけ良かったと思う余裕が生まれていた。
睡眠が取れるようになったことで体調も戻り討伐にも参加できるようになった。
ようやく見習いも返上だねと討伐への参加を伝えに来たカイルが言ってくれた。カイルなりの激励なのかなと思いつつもスタートラインに立てた嬉しさにを噛み締めたのだった。
そんな時に入って来た別の地方で発生した魔獣による町の襲撃。
アミルたちの所属する部隊にも救援要請が出た。
長く拠点を空けるため、カイルは残り団長が救援部隊を率いる。
アミルも医療班として随行することが決まった。
被害が大きいと聞いていたが街道を見る限り整備をされていないわけでもなく、はぐれ魔獣が食べ物を求めて町を襲ったのかと考える。
しかしそれで他の騎士団に救援を求めることはないだろう。
不可解さに内心首を傾げる。団長もどこか険しい顔をしていた。
町の外に待機し野営の準備を終える。
近くまで来ていたのに町に入れないことに不満そうな者もいたけれど命令されれば否とは言わないのが騎士だ。
アミルも薬品の確認を済ませ見回りのために早めに身体を休めることにした。
早朝、見回りの順番が来たため身支度を整えテントを出る。
遠くの空が白み始めているのは季節のせいだろう。
寒い季節でなくてよかったと思いながら組んだ隊員と周辺に異常がないか見回る。
特に異変は感じない。見える森も静かなもので、町を襲う程の魔獣の群れが潜んでいるようには思えなかった。
町に常駐している騎士団から得た情報では襲われたのが夜半で目撃者も少なかったため魔獣の種類や数はわからないそうだ。
異変に気付いたのは少し離れた場所で警戒をしていた先輩だった。
空に走った影を指す指が町の上空に滑る。
町から喧騒が聞こえてきたと思ったとほぼ同時に異変を知らせる鐘の音が鳴り響いた。
即座に救援の判断を下した団長はそれぞれの部隊へ指示を飛ばす。
アミルを含んだ部隊は皆に遅れて町に入ることになった。
持ってきた薬品を不足なく、素早く用意し馬に括りつける。
「全員準備はできたな、行くぞ!」
隊長の声に従って馬を走らせた。
街中に入ると被害の詳細が見えてくる。
空を舞うのはブラッディホーク。
こんな街中に出るような魔獣じゃないし、数がおかしい。
表に出てこようとする住人へ声を掛け家から出ないように指示をしながら逃げ遅れた者がいないか探す。
魔獣の襲撃が2度目なこともあり表に出てこようとする住人は少数派だったようで、通りを歩いている人はいない。
先行していた団長や先輩たちが戦っている音が聞こえてきて歯噛みする。
僕にブラッディホークを落とせる力は無い。
離れた場所から警戒をしていた先輩が魔獣の動きを見て眉を寄せる。
「無差別に人を襲っているわけではなさそうだな」
「え?」
ほら、と指す指の先を見る。先輩の言う通りよく見るとブラッディホークたちは同じ場所を狙っているような動きをしていた。
「あそこに何があるんでしょう?」
「さあな、定番は餌になりそうな家畜か、……魔獣の誘引剤の線は薄いだろうな、あれは空の魔物だけをを引き寄せられるようなものじゃない」
誘引剤を扱う店などでの取り扱い不備による事故の可能性は低いと言う。
「あとは一番あってほしくない可能性だが、ブラッディホークの卵だ」
先輩の予想にぞっとした。魔獣の卵は薬の材料としてはもちろんだが一部の好事家の間で精力剤のような扱いをされる。
魔獣を討伐した際に稀にしか取れない。非常に希少な物だ。
そう、その巣にいる魔獣を退治してからでないと卵は取れない。
何故ならば魔獣の隙をついて卵だけを奪うことは非常に危険だからだ。
見つかればどこまでも追ってきて卵を取り返すまで襲ってくる。
国によっては魔獣の卵の取引を制限しているところもあるくらいだ。
この国では魔獣の卵を取ること自体は禁じられていないが、きちんと対処をしないで卵のみを持ち出す行為は罰せられる。
「もしそうなら、マズイな」
集まっているブラッディホークは一羽や二羽じゃない。
どれだけのブラッディホークの怒りを買ったのか。
そしてもし卵が原因なのであれば、最初の襲撃時に返さなかったのはどうしてなのか。考えるほどに恐ろしい。
上空から滑空し攻撃を加える相手に対して騎士団は攻撃の手立てが少ない。
恐らく団長を中心とした手練れが下りて来るところを攻撃し、その他の者は牽制や陽動に当たっているのだろう。
仲間を案じる目を向けながらも持ち場を離れる者はいない。
被害を抑えるために住民を近づけないのが自分たちの役目だと理解していた。
わずかずつ空を飛ぶブラッディホークの数が減っていく。
アミルも時折襲撃地点に視線を送りながら周囲の警戒を続けていた。
封鎖をできるほどの人員はいないため緩く展開して警戒に当たるのみだが、魔獣と騎士団が戦っている場所に近づく者などいない。通常なら。
視界の端が動くものを捉えた。
建物から出ようとする住人かと思い視線を向けるが、――違う。
布で覆った何かを抱え細い路地から顔を出し、警戒するように周囲に巡らせた視線が僕と合った。
騎士を見ていきなり背を向け走り出した男を追跡に向かう。
隣の通りの警戒をしていた仲間に手振りで不審者ありと伝え走り出す。
騒がしくなった背後を置き去りに通りを走り抜けて行った男を追った。
0
あなたにおすすめの小説
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】
ゆらり
BL
帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。
着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。
凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。
撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。
帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。
独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。
甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。
※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。
★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる