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団長 × アミル

救援

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 あの夢のような現実であってほしくないような夜からアミルはちゃんと眠れるようになった。
 カイルからは振られたの?と聞かれたが何も答えようがなくて返事を濁した。
 その時はふうんと楽しそうな顔を見せていたけれど興味が失せたのかそれ以降特に何も聞かれない。

 団長は、いつも通りだった。
 どんな顔をして会えばいいのかと思っていたアミルの心配をよそにあの夜のことを「勝手に触れて悪かったな」と謝り、体調を聞かれてその話は終わった。
 よく眠れましたと答えたら一瞬気まずそうな顔をしたけれど、眠れるようになって良かったなと言ってくれた。
 なかったことにされたのか?
 これで一線を引いた態度を取られたらそう感じただろうけれど。
 団長は今まで通り僕に声をかけ、親身な態度を崩さない。
 温かみのあるなんともいえない表情で僕を見ていることも増えた。

 一見後退した状況に思えるのに、前のように苦しいこともない。
 一番みっともないところを見られたからか突き離されないだけ良かったと思う余裕が生まれていた。



 睡眠が取れるようになったことで体調も戻り討伐にも参加できるようになった。
 ようやく見習いも返上だねと討伐への参加を伝えに来たカイルが言ってくれた。カイルなりの激励なのかなと思いつつもスタートラインに立てた嬉しさにを噛み締めたのだった。

 そんな時に入って来た別の地方で発生した魔獣による町の襲撃。
 アミルたちの所属する部隊にも救援要請が出た。
 長く拠点を空けるため、カイルは残り団長が救援部隊を率いる。
 アミルも医療班として随行することが決まった。
 被害が大きいと聞いていたが街道を見る限り整備をされていないわけでもなく、はぐれ魔獣が食べ物を求めて町を襲ったのかと考える。
 しかしそれで他の騎士団に救援を求めることはないだろう。
 不可解さに内心首を傾げる。団長もどこか険しい顔をしていた。







 町の外に待機し野営の準備を終える。
 近くまで来ていたのに町に入れないことに不満そうな者もいたけれど命令されれば否とは言わないのが騎士だ。
 アミルも薬品の確認を済ませ見回りのために早めに身体を休めることにした。

 早朝、見回りの順番が来たため身支度を整えテントを出る。
 遠くの空が白み始めているのは季節のせいだろう。
 寒い季節でなくてよかったと思いながら組んだ隊員と周辺に異常がないか見回る。
 特に異変は感じない。見える森も静かなもので、町を襲う程の魔獣の群れが潜んでいるようには思えなかった。
 町に常駐している騎士団から得た情報では襲われたのが夜半で目撃者も少なかったため魔獣の種類や数はわからないそうだ。


 異変に気付いたのは少し離れた場所で警戒をしていた先輩だった。
 空に走った影を指す指が町の上空に滑る。
 町から喧騒が聞こえてきたと思ったとほぼ同時に異変を知らせる鐘の音が鳴り響いた。


 即座に救援の判断を下した団長はそれぞれの部隊へ指示を飛ばす。
 アミルを含んだ部隊は皆に遅れて町に入ることになった。
 持ってきた薬品を不足なく、素早く用意し馬に括りつける。

「全員準備はできたな、行くぞ!」

 隊長の声に従って馬を走らせた。



 街中に入ると被害の詳細が見えてくる。
 空を舞うのはブラッディホーク。
 こんな街中に出るような魔獣じゃないし、数がおかしい。
 表に出てこようとする住人へ声を掛け家から出ないように指示をしながら逃げ遅れた者がいないか探す。
 魔獣の襲撃が2度目なこともあり表に出てこようとする住人は少数派だったようで、通りを歩いている人はいない。
 先行していた団長や先輩たちが戦っている音が聞こえてきて歯噛みする。
 僕にブラッディホークを落とせる力は無い。
 離れた場所から警戒をしていた先輩が魔獣の動きを見て眉を寄せる。

「無差別に人を襲っているわけではなさそうだな」

「え?」

 ほら、と指す指の先を見る。先輩の言う通りよく見るとブラッディホークたちは同じ場所を狙っているような動きをしていた。

「あそこに何があるんでしょう?」

「さあな、定番は餌になりそうな家畜か、……魔獣の誘引剤の線は薄いだろうな、あれは空の魔物だけをを引き寄せられるようなものじゃない」

 誘引剤を扱う店などでの取り扱い不備による事故の可能性は低いと言う。

「あとは一番あってほしくない可能性だが、ブラッディホークの卵だ」

 先輩の予想にぞっとした。魔獣の卵は薬の材料としてはもちろんだが一部の好事家の間で精力剤のような扱いをされる。
 魔獣を討伐した際に稀にしか取れない。非常に希少な物だ。
 そう、その巣にいる魔獣を退治してからでないと卵は取れない。
 何故ならば魔獣の隙をついて卵だけを奪うことは非常に危険だからだ。
 見つかればどこまでも追ってきて卵を取り返すまで襲ってくる。
 国によっては魔獣の卵の取引を制限しているところもあるくらいだ。
 この国では魔獣の卵を取ること自体は禁じられていないが、きちんと対処をしないで卵のみを持ち出す行為は罰せられる。

「もしそうなら、マズイな」

 集まっているブラッディホークは一羽や二羽じゃない。
 どれだけのブラッディホークの怒りを買ったのか。
 そしてもし卵が原因なのであれば、最初の襲撃時に返さなかったのはどうしてなのか。考えるほどに恐ろしい。
 上空から滑空し攻撃を加える相手に対して騎士団は攻撃の手立てが少ない。
 恐らく団長を中心とした手練れが下りて来るところを攻撃し、その他の者は牽制や陽動に当たっているのだろう。

 仲間を案じる目を向けながらも持ち場を離れる者はいない。
 被害を抑えるために住民を近づけないのが自分たちの役目だと理解していた。
 わずかずつ空を飛ぶブラッディホークの数が減っていく。
 アミルも時折襲撃地点に視線を送りながら周囲の警戒を続けていた。
 封鎖をできるほどの人員はいないため緩く展開して警戒に当たるのみだが、魔獣と騎士団が戦っている場所に近づく者などいない。通常なら。

 視界の端が動くものを捉えた。
 建物から出ようとする住人かと思い視線を向けるが、――違う。
 布で覆った何かを抱え細い路地から顔を出し、警戒するように周囲に巡らせた視線が僕と合った。
 騎士を見ていきなり背を向け走り出した男を追跡に向かう。
 隣の通りの警戒をしていた仲間に手振りで不審者ありと伝え走り出す。

 騒がしくなった背後を置き去りに通りを走り抜けて行った男を追った。


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