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獣族の令嬢は抱きかかえられる
しおりを挟むどれくらいそうしていたのか。
私の肩から顔を上げたアルファードは気まずいのかそっぽを向いて身を離した。
ちょうど遠くから足音が聞こえてきたので転がっている襲撃犯を引き渡そうかと音の方を向く。
すると私の格好を見たアルファードが焦った声を上げた。
「お前、あちこち傷だらけじゃないか!」
指摘された通りあちこちドレスも裂けているし、その下の肌も傷ができている。
アルファードの魔力を防ぎきれなかった傷だ。
まだまだ精進が必要だなと思う。
「これくらいすぐ治るのでお気になさらず」
元々鍛錬中に傷を作ることもあるので気にならない。獣族は傷の治りも早いし。
「そういう問題じゃない!
よく見えなかったが顔にも傷があるじゃないか! 早く言え!!」
見えないけど額の端に傷ができてるらしい。
暗くて気づかなかったとなぜか怒るアルファード。
「すぐに手当てをするぞ、さっさと……」
ついて来い、と続くと思った言葉が途中で止まった。
首を傾げて続きを待っていると何かの葛藤に顔を歪めていたアルファードがこちらに踏み出した。
何だろうと思っていると体が浮いた。
アルファードの顔がとても近くにある。
びっくりして顔をまじまじと見ると「こっちを見るな!」と怒られた。
そんな理不尽な。
「歩けますよ、降ろしてくださって大丈夫です」
降ろして良いと言ったら怒られた。
脚は無事なので歩けるし、なんなら走れるくらいだけど。
「そんな傷だらけの女を歩かせられるか!」
俺が非道な人間みたいだろと言われてなるほどと納得する。
確かにアルファードの後ろを傷だらけの女が歩いていたら何事かと思われるだろう。しかもドレスも裂けてるし。
なんというかとっても絵面が悪い。
アルファードの体面も考えて大人しく運ばれることにした。
「重くはないですか?」
鍛えてても人ひとり運ぶのは大変じゃないかな。
「お前は軽いし、ドレスも重くない。
なんでこんなに軽いんだ? 普通ドレスはもっと重量があるものだろう」
普通のドレスの重さを知ってるアルファードがおもしろくなくて返答がきつい声になってしまう。
「動きやすさのために軽い布を使ってるのと、刺繍をほとんど入れないんです。
アルファードが知ってる女性たちと違って私は走ったり跳んだりするので」
「そういう意味じゃない!
夜会でしな垂れかかられたときに重いと思ったことがあっただけだ!」
全然言い訳になってないけど私がどうこう言うことじゃないので黙る。
途中行き会った衛兵にさっきの女性のことを伝えて捕縛に向かわせる。
衛兵たちは私を抱える姿に困惑していたけれど、何も聞くなというアルファードの睨みに怯んだのか誰も何も言わなかった。
王宮で私が与えられている部屋まで運んでくれた。しかも医師が来るまで側にいてくれると言う。
アルファードが自発的に私の側にいるなんて珍しい。
そんなに傷を負わせたことが気になるのかな。
「すぐに医師も来る。 大人しくしてろ」
「本当に大したことないんですけどね」
ほっとけば治ると思う。
アルファードが睨むので言わないけど。
「アルファードが治してくだされば良いのに」
「俺では傷が残るかもしれないだろう」
治療の魔法は得手ではないと言う。
かすり傷を直すのにそんなに違いがあるんだろうか。
魔法には詳しくないので判断できない。
「責任を取れなどと言われても困るからな」
「責任は取らなくて良いので共に過ごしてほしいです」
手を広げてアピールすると目を吊り上げて怒る。
「怪我人相手にそんなことできるか!」
「え、じゃあすぐ治療を受けます」
怪我人でなくなればいいなら必要なくても受ける。
責任なんていらない。
けれど獣族だから受け入れられないと言われたらどうしよう。
もう少し深い関係を望むのは酷なことなのかな。
でもどうしてもアルファードが欲しい。
アルファードを傷つけるかもしれない欲深い自分に落胆しながらも期待を込めた瞳を向けるのを止められない。
アルファードが息を呑む音が聞こえる。
その顔に浮かぶのが恐怖か拒絶か。
確かめる前に扉を叩く音で邪魔が入った。
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