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獣族の令嬢は弱点を暴かれる

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医師の治療を受けながらアルファードの様子を窺う。
破れたドレスから覗く傷を見る表情には心配が色濃い。
治癒魔法によって傷が消え白く滑らかに戻った肌にも安堵の息を吐くだけだった。

私が望んでる反応と違うよ!

アルファードの反応が普通なんだろうけど。
こんな小さな傷で駆けつけてくれた医師にお礼を言って見送る。
浅い傷ばかりだったから安静にする必要も薬も必要ないと太鼓判を押してくれた。むしろ元気が余っていると。

「治りましたよ! アルファード!」

「そうだな」

「医師を呼んでくださってありがとうございます」

「治療するのは当然だろ。 ……悪かったな」

目を瞬く。

「そんな殊勝なことをいうなんてらしくないですね」

「お前は俺をなんだと思ってるんだ」

プライドが高くて強がりで、努力を怠らなくて、嘘を吐かない。あとよく怒る。
…………。
誇り高く、自らの力に驕らない努力家で、正直で、感情豊かな人?

脳内で言い換えて口からは一言だけ伝える。

「魅力的な人だと思ってますよ」

「……っ」

「あ、悪いと思ってるならひとつだけお願いがあるんです」

「……なんだ」

渋々と言った顔で耳を傾けてくれる。
そんなに負い目を感じられると申し訳ないような気がする。自分の精進不足でもあるのに。

「聞いてくれますか?」

「内容による」

安請け合いはしない。むう、残念。
ここでアルファードと共に過ごしたいと言ったら今度こそ口をきいてくれないかも。
冗談めかしてお願いしてみようかと思ったけど、完全に嫌われてしまうのは……。嫌、だな。
何なら聞いてくれるかなと考えて、ひとつ思い出した。
間近に迫った危機と言ってもいいことが、ひとつ。
居ずまいを正して口を開く。
アルファードも緊張した面持ちで耳を傾けた。

「呼んである娼婦は帰してください」

「は……?」

予想してなかったことを言われたみたいに呆けた顔になる。

「娼婦『は』呼んだって言ってたじゃないですか、さっき」

アルファードを襲っていた女性を昏倒させたとき、「呼んだのは娼婦だ」とはっきり言っていた。
文句を言える立場にないのはわかってる。けど、嫌だ。
ずるいけど罪悪感に付け込んでお願いしてみる。
呆けていたアルファードの顔が見る見る間に赤くなっていく。

「お前は~~~~!」

「え、なんで怒るんですか?!
そんなに無茶なお願いでした!?」

そこまで切羽詰まって欲求不満でした?!と言ったらさらに怒り出した。
なんで!?


恥をかかせやがってとか葛藤してた俺が馬鹿みたいだとか言われたけど意味がわからない。

なんで怒っているのかわからなくて困惑しているとアルファードから逆襲にあった。


「ひゃんっ!!」

酷い、そこはダメだって言ったのに!!

アルファードはちょっとの力で掴んだつもりだったんだろう。
私の反応に驚いた顔をしている。

「は、放してくださいぃ」

まだ摘ままれたままの耳をふるふると揺らして訴える。
アルファードの指の感触を敏感に感じ取ってしまう。
すり、と挟んだ指で擦られてまた声が漏れる。
反応を確かめるように何度も耳の先を擦られてびくびくと身体を揺らしてしまう。
丸くなっていた目がおもしろそうに細められる。

「酷いです……、止めっ……!」

止めてと言うのに手を離してくれないどころか、擦る力を強くしたり弱めたり速さを変えたりとしてくる。
執拗といっていいほど長く弄られて身体から力が抜けてしまう。
抱きとめてくれたアルファードを酷いと詰る声はかすれ、甘い響きを伴っていた。


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