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辺境の造船都市 クルトラカ

オーリックばあさんの悩み

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 オーリック婆さんが暖炉に火をつけたところで、いつの間にか夕方になっていたことに気が付いた。

 スープを飲んでから、婆さんから街の話を聞いたり、サティとのんびり話したりしていて、あっという間に時間が経っていたようだ。

 「もうこんな時間だ。俺たち、街に行って宿を探さなきゃ」
 
 「今から探すのかい?いいよ、うちに泊まっていきなさい。朝になってから街へ行くといい」

 「やったー!まだお話できるね」婆さんの提案に、サティは大喜びだ。


 オーリック婆さんの申し出はありがたかった。宿が見つからなければ、街の中で野宿だ。
 サティにそんなことはさせられない。


 「ありがとう。甘えさせてもらうよ」
 俺がそう言うと、オーリック婆さんは、こっちこそ助かるよ、と返してきた。

 「なんだかここ数日、物騒でね。夜中に外から物音がするんだ。翌朝外を見てみると、畑が荒らされていてね。老婆一人じゃ不安なんだよ」

 「ご飯のお礼もあるし、俺にできることならなんでもするよ!安心してくれ」
 「わたしもがんばるよ!」
 
 俺たちが張り切ると、頼もしいねえ、と言ってオーリック婆さんは顔をほころばせた。


 
 暗くなった。

 暖炉の火がぱちぱちと音を立てる。
 
 俺は、オーリック婆さんが持ってきた男物の部屋着に着替えていた。植物から無理やり作った服とは、着心地が段違いだ。
 
 「これは誰の服なんだ?」暖炉を囲みながら、ゆったりと時間が流れていく中で、俺は聞いた。
 サティは眠そうだ。
 婆さんは、暖炉を見ながらつぶやくように答えた。

 「息子の服だよ。もう1年帰ってこない」
 「帰ってこない?」
 「ああ。息子は飛空艇職人だった。飛空艇作りには、核石っていう石が欠かせなくてね。ある日森へ核石を探しにでかけて、それっきりさ」

 婆さんは伏し目がちに話し続ける。
 「私はね、この家で待っているのさ。いつ帰ってきてもいいようにね」

 サティからすやすやと寝息が聞こえてくる。
 静かな夜だった。

 「さ、もう寝ようかね。なにか起きたら頼んだよ」オーリック婆さんは立ち上がった。

 俺は、オーリック婆さんになんと声をかけたらいいかわからなかった。
 残された側の気持ちを考えたことはなかった。


 サティが椅子から落ちるまえに、寝室へ移動する。
 サティを無理やり立たせて、オーリック婆さんが用意してくれた布団に連れて行った。
 
 目を閉じると、あっという間に眠りに落ちた。 
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