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辺境の造船都市 クルトラカ
奢ってあげるよ
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俺たちは、オーリック婆さんに教わったとおり、大通りを進んで商業区を目指した。
門を抜けてすぐの区画は居住区と呼ばれ、この街の住民が暮らしている。宿や店は、居住区の内側にある商業区に集積しているのだ。
大通りを真っ直ぐ歩くと、遠くに見えていた第二の門にたどり着いた。開け放たれ、門番の姿も見えない。
小さな門を抜けると、すぐに露店が立ち並んでいた。
新鮮そうな野菜や果物からよくわからない獣の肉まで、様々な食料品が売られている。
多くの人々が食材を物色しながら会話をしていて、市場は活気に溢れていた。
「見てみて!リンゴモドキだよ!」サティが指差した先には俺たちが山奥でもぎ取って食べていた、リンゴに似たフルーツが店の前に山のように積まれていた。
森の中で過ごした日々を思い出す。リンゴモドキの味が口の中で広がる。
サティは品物ひとつひとつを珍しそうに見ている。もちろん俺も見たことがないものばかりだ。
市場の群衆に半ば押されるようにして、奥へ奥へと進んでいく。俺はサティの手を握る。はぐれないように。
食料品の市場を抜けると、飲食店街が広がっていた。店の前の看板には、これまた見たことがない料理の絵が描かれている。どの店も混んでいる。森の中では嗅ぐことのなかった、肉の焼ける香り。
お腹すいたよ、とサティが言う。人混みの中を歩き、少し疲れてもいるだろう。
「なにか食べようか」
「あそこのお店がいい!」サティが指差した店は、周囲の店より一際立派で目立っていた。店に掲げられた白いの看板に、黒色の字で「鐘楼の音色亭」とある。
「確かに美味そうだな…」
でも支払いをどうするか…と考え始めた時、後ろから声をかけられた。
「お金ないんでしょ?奢ってあげるよ」
振り向くと、ブロンドの髪が目を引く二人組の女性がこちらを見ていた。1人は緑色のワンピースを着て微笑んでいる。もう1人はワンピースの女より頭ひとつ分は背が高く、鎧を着込んでいる。
どちらの女性も目鼻立ちはくっきりしていて、束の間見つめてしまった。
「本当か?それは助かるんだが…」
見ず知らずの人間に飯を奢るほど優しい世界とは思えない。
「大丈夫。私たち、見た目通りの善人だから。ね、ハク」
ワンピースの女が鎧を着た女に笑いかける。いつまでも見ていたくなるような、純粋な笑顔。
「私の見た目はどうかな。でも、困ったときはお互い様だからね。この店の料理はそれほど高くはないから安心していいよ」
ハクと呼ばれた鎧の女が言う。凛とした力強さのある声だ。
サティを見ると、にこにこ笑っている。美味そうな料理を食べることができるとわかったからか、このやり取りが面白いのか。
「ありがとう。じゃあお願いするよ。本当に助かる、手持ちを作ったらすぐに返すから」
俺は二人組を頼ることにした。腹も減ったが、この人達ともう少し話してみたい。右も左もわからない世界だ、頼りになる知り合いを増やしておきたい。
四人で店に入る。サティは目を輝かせている。今にも口元から涎を垂らしそうだ。
店内は客で賑やかだ。酔っ払いも多い。昼間から飲む習慣があるのだろうか。
俺たちは丸テーブルに案内された。こちらの世界でも店員が注文を聞きにくる。メニューを見てもわからないので、ブロンドの二人組に注文は任せた。
料理が届くまでは、少し時間がかかりそうだ。
俺の正面に座ったワンピースの女が口を開く。
「さ、自己紹介しよっか。私はリターナ。こっちはハクアレティス」
「ハクって呼んでくれて構わないよ」
俺たちもユーリとサティと名乗る。兄妹だと説明しようとしたところで、ハクアレティスが言う。
「ねえサティちゃん、あなたもコレを持ってるんじゃない?」
ハクアレティスは、鎧を着込んだ首元から白金のメダルを取り出した。
門を抜けてすぐの区画は居住区と呼ばれ、この街の住民が暮らしている。宿や店は、居住区の内側にある商業区に集積しているのだ。
大通りを真っ直ぐ歩くと、遠くに見えていた第二の門にたどり着いた。開け放たれ、門番の姿も見えない。
小さな門を抜けると、すぐに露店が立ち並んでいた。
新鮮そうな野菜や果物からよくわからない獣の肉まで、様々な食料品が売られている。
多くの人々が食材を物色しながら会話をしていて、市場は活気に溢れていた。
「見てみて!リンゴモドキだよ!」サティが指差した先には俺たちが山奥でもぎ取って食べていた、リンゴに似たフルーツが店の前に山のように積まれていた。
森の中で過ごした日々を思い出す。リンゴモドキの味が口の中で広がる。
サティは品物ひとつひとつを珍しそうに見ている。もちろん俺も見たことがないものばかりだ。
市場の群衆に半ば押されるようにして、奥へ奥へと進んでいく。俺はサティの手を握る。はぐれないように。
食料品の市場を抜けると、飲食店街が広がっていた。店の前の看板には、これまた見たことがない料理の絵が描かれている。どの店も混んでいる。森の中では嗅ぐことのなかった、肉の焼ける香り。
お腹すいたよ、とサティが言う。人混みの中を歩き、少し疲れてもいるだろう。
「なにか食べようか」
「あそこのお店がいい!」サティが指差した店は、周囲の店より一際立派で目立っていた。店に掲げられた白いの看板に、黒色の字で「鐘楼の音色亭」とある。
「確かに美味そうだな…」
でも支払いをどうするか…と考え始めた時、後ろから声をかけられた。
「お金ないんでしょ?奢ってあげるよ」
振り向くと、ブロンドの髪が目を引く二人組の女性がこちらを見ていた。1人は緑色のワンピースを着て微笑んでいる。もう1人はワンピースの女より頭ひとつ分は背が高く、鎧を着込んでいる。
どちらの女性も目鼻立ちはくっきりしていて、束の間見つめてしまった。
「本当か?それは助かるんだが…」
見ず知らずの人間に飯を奢るほど優しい世界とは思えない。
「大丈夫。私たち、見た目通りの善人だから。ね、ハク」
ワンピースの女が鎧を着た女に笑いかける。いつまでも見ていたくなるような、純粋な笑顔。
「私の見た目はどうかな。でも、困ったときはお互い様だからね。この店の料理はそれほど高くはないから安心していいよ」
ハクと呼ばれた鎧の女が言う。凛とした力強さのある声だ。
サティを見ると、にこにこ笑っている。美味そうな料理を食べることができるとわかったからか、このやり取りが面白いのか。
「ありがとう。じゃあお願いするよ。本当に助かる、手持ちを作ったらすぐに返すから」
俺は二人組を頼ることにした。腹も減ったが、この人達ともう少し話してみたい。右も左もわからない世界だ、頼りになる知り合いを増やしておきたい。
四人で店に入る。サティは目を輝かせている。今にも口元から涎を垂らしそうだ。
店内は客で賑やかだ。酔っ払いも多い。昼間から飲む習慣があるのだろうか。
俺たちは丸テーブルに案内された。こちらの世界でも店員が注文を聞きにくる。メニューを見てもわからないので、ブロンドの二人組に注文は任せた。
料理が届くまでは、少し時間がかかりそうだ。
俺の正面に座ったワンピースの女が口を開く。
「さ、自己紹介しよっか。私はリターナ。こっちはハクアレティス」
「ハクって呼んでくれて構わないよ」
俺たちもユーリとサティと名乗る。兄妹だと説明しようとしたところで、ハクアレティスが言う。
「ねえサティちゃん、あなたもコレを持ってるんじゃない?」
ハクアレティスは、鎧を着込んだ首元から白金のメダルを取り出した。
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