空賊風水師は、幸いの竜に乗って空を翔ける

さわら

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辺境の造船都市 クルトラカ

想像している以上に価値が高いもの

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 ミスリル鉱石。
 錆びることのない銀。きらめく静けさ。月の光。
 鋼よりも強く硬く鍛えることの出来る希少な金属。
 
 ハクアレティスはそう言うと、500円玉大の鉱石をひとつ、手のひらに載せた。
 「まさかこんなところでミスリル鉱石を見かけるなんて。これくらいの大きさでも、売ればひと月は良い宿に泊まれるよ」
 
 「ねえユーリ、こんな貴重なもの、一体どこで見つけたの?」リターナが聞く。
 「この街の外って森が広がってるだろ。俺が転生したのは、森の奥深くの山頂だったんだ。そこで見つけたんだよ。売れるような気がして掘り出してきた」
 リターナは目を丸くした。ハクアレティスはじっとミスリル鉱石を見つめている。


 ミスリル鉱石の近くで見つけた別の鉱石ーーー大地の気配を漂わせる石は、鞄にしまったままだ。取り出すには大き過ぎるし、ミスリル鉱石よりも希少価値は高いだろう。
 石はだんだん軽くなっているような気がするが、俺の力がついてきたのかもしれない。

 「なあハク、この鉱石ならまだたくさんあるんだ。全部ミスリルなのかな?」
 俺はミスリル鉱石と思われる石をいくつも取り出す。

 ハクアレティスは慌てた様子で俺を止める。
 「たくさんあるのは分かったから。それはあなたが想像している以上に価値が高いものなの。しまって」
 俺にミスリル鉱石を手渡しながら、ハクアレティスは周囲を見渡す。どのテーブルも埋まったままで、客の話し声や笑い声が騒がしい。
 

 ハクアレティスと俺のやりとりを見ていたリターナが言う。
 「ねえユーリ、ミスリルが沢山あるのなら、それで装備を作ってもらうのはどう?」
 「確かに、装備のひとつやふたつは作ることができそうな量だね。にしてもミスリル製の武具か、有力な貴族でも中々持っていないよ」ハクアレティスが言う。
 サティは喜ぶ。
 「わたし、きらきら光る服欲しい!」
 「服を作るのは難しいかもね」リターナが笑って言った。

 高価なものであればあるほど、一度に売ることは難しくなる。俺はリターナの案に賛成する。
 「お金は生活に困らない程度があれば良いからな。是非作ってもらいたいんだが、鍛冶屋はあるのか?」
 
 リターナとハクアレティスは顔を見合わせる。どうやら2人はミスリルを鍛えることの出来る職人に心当たりがあるようだ。
 気難しいが、この街で最高の腕を持つと評判だという。

 「私たちが案内するわ。ミスリル鉱石を見せたら喜ぶんじゃないかな。行き先も決まったし、そろそろ出ましょうか」
 リターナはそう言って席を立つ。俺たちも続いて立ち上がる。良い店だった。

 約束通りリターナに食事代を奢ってもらい、四人揃って鐘楼の音色亭を出る。
 「本当にありがとう、リターナ、ハク。助かったよ」
 「とっても美味しかったよ、わたしまた来たい」サティが続けて言う。
 「今度はユーリに奢ってもらうんだよ、サティちゃん」ハクアレティスが笑う。

 
 腹一杯食べたサティはご機嫌だ。早く行こうよ、と道もわからないのに先導する。
 そのすぐ後ろをリターナとハクアレティスが歩く。二人はサティに話しかけながら、たまに顔を見合わせて笑っている。
 最後尾を歩くのは俺だ。二人のブロンドの髪がゆらゆら揺れる。陽に透ける光が美しい。

 大通りを少し歩いて、脇道に入る。
 人通りはまばらになる。
 石畳が汚れ始める。
 いつの間にか雲が出て太陽を隠す。
 俺たちのさらに後ろから、数人の足音が一定のリズムで聞こえる。

 「なあ、リターナ」
 俺はリターナに声をかける。
 「大丈夫だよ」リターナは振り向きもしない。
 「サティちゃん、ユーリのそばへ戻って」ハクアレティスが前を歩くサティに声をかける。
 「はーい」サティは怪訝そうな顔をしつつも、俺の隣に戻る。

 リターナ達も気がついている。

 足音は少しずつ近づいている。

 さらに数十歩先を進む。

 リターナ達の前に、建物の陰から突如二人の男が飛び出す。

 ほとんど同時に、後ろを歩いていた足音は走り出し、俺たちは四人の男に挟み撃ちにされる。
 
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