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絶望と希望は混ざり合う
しおりを挟む「来世で結ばれましょう」
そんな悲劇の物語に若い頃は心が躍り、漠然とした憧れを抱いていた。儚く、美しい存在だった。
けれど、そんなものは物語だからこそ輝けるものなのだ。
一七〇〇年代──彼と私が結ばれなかったのは、身分の違いからだった。
貴族の彼と平民の私とでは不相応であると互いの親に引き裂かれた私たちは、絶望に泣きはらしながら「来世ではきっと結ばれよう」と誓い合い。
それぞれの人生を歩みながら、それだけを希望にして天寿を全うした。
そうして数年後──転生した私は彼を探し回り、見つけた時には彼は余命幾ばくかの状態だった。
折角、出会えたのに。運命とは、どうしてこうも残酷なのだろうと彼の手を取り涙した。
「ごめんなさい。ごめんなさい。もっと早く見つけていれば……」
彼は、か細い笑みを私に向けて弱々しく「君は何も悪くない。次こそは必ず結ばれよう」
それだけ言って世を去った。
私はそれに絶望し、崖から身を投げた。
それから数十年後──二度目の転生はそれが災いしたのか、私は不運の中にいた。
自害が要因なのかは解らない。けれど、私の人生には不幸しか訪れなかった。小さな幸せは、大きな不幸が踏みにじっていった。
だから、私は彼を探さなかった。彼に私の不幸を背負わせる訳にはいかない。私は不運を背負い続け、気がつけば病床で天井を眺める日々を送っていた。
立つこともままならなくなった頃、私は偶然にも彼の現状を知る。彼は結婚することもなく一人暮らしではあったけれど、事業が成功し富豪となっていた。
私はそのとき、これは罰ではなく試練であったのかもしれないと愕然とした。初めの不幸で抗っていれば、こんな未来ではなかったかもしれない。
これは自害の罰だと、不幸に抗うことなく受け入れた。神は、この試練ではなんともないのだと、新たな試練を私に与え──私はまた、それを受け入れた。
そんな繰り返しが今の私であるならば、愚かであったと言うしかない。
余命二年と宣告されてしばらくのちに彼が私を見つけてくれたおかげで、私は苦しまずに最期を迎えることが出来た。
「ごめんなさい。ありがとう」
それだけは伝えられた。
さらに数十年後──三度目の転生で彼が変わってしまったことに気がついた。
私が愛していたあの人は、もういない。
幾度の転生でも結ばれない事に疲れたのか怒りを覚えたのか、温和だった彼の性格はきつく、瞳には荒々しさが見える。
彼の豹変した様子に私は怖くなって逃げてしまった。自分が変わってしまった事に気付かないあの人は、私に事情があって遠ざかったのだと思っただろう。
私を追いかけるうちに彼は重い病を患い、再会することもなく他界した。私はそのあと、他の男性と出会い幸せな人生を送った。
──誓いを護る必要はあるのだろうか。結ばれなければならないのだろうか。
それが、本当に正しいことなのか私には解らなくなった。私はもう、彼とは共に人生を歩む気にはなれなくなった。
十数年を経て四度目の転生で彼と出会ったとき「もう、やめましょう」と話した。
互いが幸せならば、それで充分でしょうと──けれども、彼は「だめだ。わたしたちは結ばれなければならない。誓い合ったじゃないか」
彼は私を懇々と諭した。
どうして結ばれなければならないの? 尋ねたい言葉を、私は飲み込んだ。
再会したのだから、このまま結ばれるのかと思いきや、この人生でもそれは叶わなかった。
私が言葉を飲み込んだ瞬間、私につきまとっていたストーカーが彼を刺したからだ。彼は死に、血まみれの笑顔で言い放つ──
「来世で、結ばれよう」
もういやだ。もうやめて。どうして記憶を残して生まれるの。
延々と繰り返される転生に私は疲れ果てていた。回数を重ねる毎に何かが壊れていく──そうして、私は彼を探さなくなった。
けれども、彼は私を探し続ける。
同性になろうと関係なく、彼は執拗に私を追いかけた。私は安らげる刻もなく……。
一度、彼が犬として生まれ変わった事がある。
私は直ぐに気付いたけれど、解らない振りをし続けた。そうすれば、言葉の壁が私を護ってくれる。
どのみち、犬と人では結ばれないのだから。ようやく訪れた安らぎの日々だった。
彼が、私を咬み殺すまでは──
死の間際、彼はやはり「来世こそは」と獣の目で訴える。彼は狂気を孕みながらも、私を探すことは止めなかった。
いいえ、むしろがむしゃらに私を追い求める。
転生のかずを数えることもやめてしまった。それでも、私は記憶を残し生まれ変わりを重ね、彼もまた記憶を持って生まれてくる。
──そうして絶望に涙を流し、私の首を締めつける貴方に懇願するのだ。
「もう、赦して……。私を探さないで」
お願い、私のことは忘れて。
「どうして、そんなことを言うんだ」
「貴方は、私の愛した貴方じゃない」
生まれ変わる度に、私は貴方を愛せなくなっていった。今はもう、愛情の一欠片も残されてはいない。
私を解放して──貴方の腕から自由をちょうだい。
「そんな。あれほど愛し合ったのに、どうして」
血の涙をこぼす貴方は、息も絶え絶えの私に口づけをする。
「さようなら」
それが、私が聞いた最期の言葉であり、永遠の別れの証だった──
ああ、私はついに、自由になれたのだ。
終
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