廻る輪舞曲-めぐるロンド-【短編】

河野 る宇

文字の大きさ
1 / 1

絶望と希望は混ざり合う

しおりを挟む
 
「来世で結ばれましょう」

 そんな悲劇の物語に若い頃は心がおどり、漠然とした憧れを抱いていた。儚く、美しい存在だった。
 けれど、そんなものは物語だからこそ輝けるものなのだ。


 一七〇〇年代──彼と私が結ばれなかったのは、身分の違いからだった。

 貴族の彼と平民の私とでは不相応であると互いの親に引き裂かれた私たちは、絶望に泣きはらしながら「来世ではきっと結ばれよう」と誓い合い。

 それぞれの人生を歩みながら、それだけを希望にして天寿を全うした。


 そうして数年後──転生した私は彼を探し回り、見つけた時には彼は余命幾ばくかの状態だった。

 折角、出会えたのに。運命とは、どうしてこうも残酷なのだろうと彼の手を取り涙した。

「ごめんなさい。ごめんなさい。もっと早く見つけていれば……」

 彼は、か細い笑みを私に向けて弱々しく「君は何も悪くない。次こそは必ず結ばれよう」

 それだけ言って世を去った。


 私はそれに絶望し、崖から身を投げた。


 それから数十年後──二度目の転生はそれが災いしたのか、私は不運の中にいた。

 自害が要因なのかは解らない。けれど、私の人生には不幸しか訪れなかった。小さな幸せは、大きな不幸が踏みにじっていった。

 だから、私は彼を探さなかった。彼に私の不幸を背負わせる訳にはいかない。私は不運を背負い続け、気がつけば病床で天井を眺める日々を送っていた。

 立つこともままならなくなった頃、私は偶然にも彼の現状を知る。彼は結婚することもなく一人暮らしではあったけれど、事業が成功し富豪となっていた。

 私はそのとき、これは罰ではなく試練であったのかもしれないと愕然とした。初めの不幸であらがっていれば、こんな未来ではなかったかもしれない。

 これは自害の罰だと、不幸に抗うことなく受け入れた。神は、この試練ではなんともないのだと、新たな試練を私に与え──私はまた、それを受け入れた。

 そんな繰り返しが今の私であるならば、愚かであったと言うしかない。

 余命二年と宣告されてしばらくのちに彼が私を見つけてくれたおかげで、私は苦しまずに最期を迎えることが出来た。

「ごめんなさい。ありがとう」

 それだけは伝えられた。


 さらに数十年後──三度目の転生で彼が変わってしまったことに気がついた。

 私が愛していたあの人は、もういない。

 幾度の転生でも結ばれない事に疲れたのか怒りを覚えたのか、温和だった彼の性格はきつく、瞳には荒々しさが見える。

 彼の豹変した様子に私は怖くなって逃げてしまった。自分が変わってしまった事に気付かないあの人は、私に事情があって遠ざかったのだと思っただろう。

 私を追いかけるうちに彼は重い病をわずらい、再会することもなく他界した。私はそのあと、他の男性と出会い幸せな人生を送った。


 ──誓いを護る必要はあるのだろうか。結ばれなければならないのだろうか。

 それが、本当に正しいことなのか私には解らなくなった。私はもう、彼とは共に人生を歩む気にはなれなくなった。


 十数年を経て四度目の転生で彼と出会ったとき「もう、やめましょう」と話した。

 互いが幸せならば、それで充分でしょうと──けれども、彼は「だめだ。わたしたちは結ばれなければならない。誓い合ったじゃないか」

 彼は私を懇々こんこんさとした。

 どうして結ばれなければならないの? 尋ねたい言葉を、私は飲み込んだ。

 再会したのだから、このまま結ばれるのかと思いきや、この人生でもそれは叶わなかった。

 私が言葉を飲み込んだ瞬間、私につきまとっていたストーカーが彼を刺したからだ。彼は死に、血まみれの笑顔で言い放つ──

「来世で、結ばれよう」


 もういやだ。もうやめて。どうして記憶を残して生まれるの。

 延々と繰り返される転生に私は疲れ果てていた。回数を重ねるごとに何かが壊れていく──そうして、私は彼を探さなくなった。

 けれども、彼は私を探し続ける。


 同性になろうと関係なく、彼は執拗に私を追いかけた。私は安らげるときもなく……。

 一度、彼が犬として生まれ変わった事がある。

 私は直ぐに気付いたけれど、解らない振りをし続けた。そうすれば、言葉の壁が私を護ってくれる。

 どのみち、犬と人では結ばれないのだから。ようやく訪れた安らぎの日々だった。


 彼が、私を咬み殺すまでは──


 死の間際、彼はやはり「来世こそは」と獣の目で訴える。彼は狂気をはらみながらも、私を探すことは止めなかった。

 いいえ、むしろがむしゃらに私を追い求める。


 転生のかずを数えることもやめてしまった。それでも、私は記憶を残し生まれ変わりを重ね、彼もまた記憶を持って生まれてくる。


 ──そうして絶望に涙を流し、私の首を締めつける貴方あなたに懇願するのだ。

「もう、赦して……。私を探さないで」

 お願い、私のことは忘れて。

「どうして、そんなことを言うんだ」

「貴方は、私の愛した貴方じゃない」

 生まれ変わるたびに、私は貴方を愛せなくなっていった。今はもう、愛情の一欠片ひとかけらも残されてはいない。

 私を解放して──貴方の腕から自由をちょうだい。

「そんな。あれほど愛し合ったのに、どうして」

 血の涙をこぼす貴方は、息も絶え絶えの私に口づけをする。



「さようなら」


 それが、私が聞いた最期の言葉であり、永遠の別れの証だった──



 ああ、私はついに、自由になれたのだ。






 終
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...