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【4-1】伊織。「雷さんは霊か人か? どちらだと考えているんですか?」
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──【4-1】──
国道から側道に入ると、何度か道を間違えながらも何とか、たどり着いた。
「ここみたいですね」
「そうね」
到着したのは夕方午後四時くらいであったが、林間にぽつんと作られたその別荘は、木々によって光が遮られているせいか薄暗い。
資料の写真の建物はリフォームして間もない時に撮られたものだったようで、庭が綺麗に整備されていて、まさに金持ちの別荘という雰囲気だったのだが、数年の年月が経って白いコンクリートは灰色の汚れが目立ち始めていた。
その建物の周りには多くの雑草が生えており、それが枯れてまた生えてを繰り返したのだろう。背の低い緑の雑草と、灰色に枯れた草と、背は低いが葉を落とした若木もあった。
「明るいうちに建物の周りを見ましょう。伊織さん、写真をお願い」
「はい」
と雷と伊織はぐるりと一周する。
写真は行ったと依頼者に報告するためのものである。
「資料通りプロパンガスなのね。事前に連絡すれば使えるらしいけど、今回は一泊二日だけだからね。カセットコンロで十分よ」
「そうですね」
と一周し終わると、
「じゃあ、お邪魔しましょうか」
と預かった鍵で伊織は玄関を開ける。
中はところどころにホコリが溜まっていた。昼間晴れていたからか室内は意外と寒くない。
伊織は室内も撮影する。それが終わると資料に書いてあったブレーカーを見つけて上げた。壁にあるスイッチを押すと電気がついた。
「電気が使えるのはあり難いわね」
と部屋の中を見回すと、
「これはまずは掃除からかな」
と雷はつぶやく。
電気が付いた状態で写真を取ると、伊織は『3LDK』という間取り図を眺めて、
「まずは室内の点検をやりますか?」
と雷に言うと、
「そうね。一通り見ていこうかしら」
と二人で見ていく。
玄関を入って靴を脱ぐ。
「お邪魔します」
と二人は中に入る。
「構造的に別荘というよりも、普通の鉄筋平屋の家みたいな感じですね」
と伊織。
「建てられたのはキャンプブーム前みたいよね。築年数はここには書いていないけど、田舎に住みたい都会人がここに家を建てて、その人がいなくなって放置されていた建物を、別荘にリフォームして売り出されたものを、依頼者の社長さんが購入したってとこかしら?」
玄関のすぐ横にはトイレがあったが、
「ここがトイレね。伊織さん。後でも構わないかしら」
と雷は訊いた。
「ええ。そうですね」
と後で撮影に行くことにして、左の扉を開けて一つ目の部屋に入る。
そこにはホコリで真っ白なテレビが置かれていて、分厚いカーテンが夕日の光を遮っていた。
「ここはリビングって感じね。上等なソファーが置かれているわ。ホコリだらけだけど」
と雷は咳込み、ポーチからマスクを出してはめた。
撮影を終えると、
「掃除道具は持ってきているので、この部屋は食事が出来るくらいには清掃します」
と伊織。
「そうですね。私も手伝うわ」
と雷。
両側に開けられる戸襖を開けると、広い畳部屋があった。左には大きな磨りガラスのサッシ窓があり、開けば雑草だらけの庭が見える。そしてほとんど物は置かれていない。
「ここは拭き掃除をすれば、すぐにでも使えそうですね」
「そうね」
次は奥の部屋へ向かう。
広い畳部屋の右の戸襖を開けた。
そこは八畳ほどの畳部屋だったが、畳まれていない服の入ったいくつかの衣装ケースや、錆びたダッチオーブン。すでに開けられた缶詰やレトルト食品があった。
「資料には自由に使ったり、食べてもらっていいと書かれていますが……」
と伊織は含みを持たせた言い方をした。
「どうしたの?」
と雷。
「これを見て下さい」
と資料に載っている画像を見せた。
「これは……。とても綺麗に整理整頓されているわね。というか、缶詰もレトルト食品も段ボールに入ったままだわ……」
「はい。フィラさんの話だと、この社長さんはとてもきちんと整理整頓をする方のようで、食料が中途半端に余るようなら、必ず持ち帰る人のようです」
「ちょっと待って!」
と雷は右手を顎に当てて、
「社長さんの依頼って夜中になると女の声が天井からするってことだったわよね」
「ええ」
「……これ。霊の仕業なのかしら?」
「それがですね。この社長さんの話だと天井から『出ていけ~』と女の声が聞こえたので、誰かが無断で天井に住んでいるのかと思って、天井裏をすぐに見たらしいんです」
「勇気があるわね。その社長さん」
「そうしたら、広々とした天井裏を懐中電灯で照らして、隅々まで確認しても……」
「誰もいなかった……」
「そうみたいです。資料によれば、それで霊の仕業だと思って怖くなり、長期滞在を予定していたのに、次の日の朝に急いで逃げ帰って、そのままなのだと言うことです」
「荷物はそのまま……。つまり、この衣服や食品は長期滞在のために用意した真新しい物だったってことね」
「そうなんです。それが……」
「明らかに荒らされた形跡があるわね……」
少しの沈黙の後、
「これって霊の仕業なのかしら?」
「でももし人間なら天井裏に隠れていたら、懐中電灯に照らされてすぐに見つかると思うんです」
「そうよね……。う~ん」
と雷は思案し、ポーチから素早くメモ帳を取り出して、スラスラと書くと伊織に見せた。
伊織がメモ帳を読むと、
天井裏にいるのは霊の可能性もあるし、人の女の可能性の両方あるので、聞かれないように調査に関してのことは、このメモでやり取りしましょう。
と書かれていた。
黙ったまま伊織は頷くと、特に念入りに写真を撮ると、
「次はお風呂と台所とトイレを見に行きましょうか?」
とわざと明るく言った。
「そうね。そうしましょうか!」
と雷もわざと明るく答えた。
霊なのか?
人なのか?
雷は書いたメモを伊織に見せた。
人ならお風呂や台所そしてトイレは使われた形跡があるはずです。
それを読んだ伊織は黙って頷いた。
そして二人は風呂と台所とトイレを見たが、使われた形跡が全くなかったのである。
一通り写真を取り終えると、フィラ宛にメッセージと画像を送った。
内容は、
荒らされた形跡あり。
として奥の八畳間の衣装ケースと食料の画像を送った。
すると、
分かったわ。他の画像も送って頂戴。私から社長さんに送るから。
と素っ気ない返事が帰ってきた。
そのメッセージを雷に見せると、
「フィラさん。余り良いことがなかったみたいね……」
と心配そうな表情になった。
それから二人は素早くリビングの掃除を済ませた。
雷は買ってきた材料で、カセットコンロを使って鍋料理を作る。電気が通っているので三合炊きの炊飯器でご飯も炊いていた。
「今、畳部屋の拭き掃除が終わりました」
と埃っぽくなった伊織がリビングに戻ってきた。
「お疲れ様。プロパンガスが使えないからお風呂やシャワーは無理だけど、これを食べたら車で温泉に行きましょう。八時過ぎまで開いているみたいなので」
「あ。それいいですね」
と食事を始めると、
「あれ。たくさんご飯を炊いたんですね。それに鍋も量が多い」
と伊織が言うと、雷はメモを書いて見せた。
わざと多目に作ったの。これを残して温泉に行くわ。
読み終わって顔を上げた伊織に、雷はニヤリと笑って見せる。
伊織もメモに書き込む。
つまり残りがなくなっていたら人だと言うことですね。
それを読んだ雷は頷く。
二人は食事を終えると、
「とても美味しかったです。雷さんは料理が上手ですね」
と伊織が言うと、
「フィラさんほどじゃないけどね。じゃあ、早速準備して行きましょうか?」
「はい」
と温泉に車で向かった。
しばらく車で走り出すと、
「これで自由に話せますね」
と伊織は言った。
「そうですね」
と助手席の雷は素っ気なく答える。
「雷さんは霊か人か? どちらだと考えているんですか?」
「そうね……。どちらも可能性はあるんですけど……」
「あるけど?」
「どちらでもない可能性もあるかな? と……」
と言ったので伊織は少し驚き、
「どちらでもないのですか?」
「ええ……」
「何か根拠があるのかな?」
と尋ねると、
「霊の根拠って、すぐに天井裏を確認した時に、誰もいなかったからよね」
「はい……」
「そして風呂と台所とトイレを使った形跡がないことよね」
「はい」
「でも衣服の入ったケースは荒らされ、レトルト食品や缶詰は食べられた形跡があった」
「はい」
「それって物の怪じゃないかと思うのよ」
と雷は言った。
2024年1月28日
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また、まとめサイト等への引用をする場合は無断ではなく、こちらへお知らせ下さい。許可するかを判断致します。
国道から側道に入ると、何度か道を間違えながらも何とか、たどり着いた。
「ここみたいですね」
「そうね」
到着したのは夕方午後四時くらいであったが、林間にぽつんと作られたその別荘は、木々によって光が遮られているせいか薄暗い。
資料の写真の建物はリフォームして間もない時に撮られたものだったようで、庭が綺麗に整備されていて、まさに金持ちの別荘という雰囲気だったのだが、数年の年月が経って白いコンクリートは灰色の汚れが目立ち始めていた。
その建物の周りには多くの雑草が生えており、それが枯れてまた生えてを繰り返したのだろう。背の低い緑の雑草と、灰色に枯れた草と、背は低いが葉を落とした若木もあった。
「明るいうちに建物の周りを見ましょう。伊織さん、写真をお願い」
「はい」
と雷と伊織はぐるりと一周する。
写真は行ったと依頼者に報告するためのものである。
「資料通りプロパンガスなのね。事前に連絡すれば使えるらしいけど、今回は一泊二日だけだからね。カセットコンロで十分よ」
「そうですね」
と一周し終わると、
「じゃあ、お邪魔しましょうか」
と預かった鍵で伊織は玄関を開ける。
中はところどころにホコリが溜まっていた。昼間晴れていたからか室内は意外と寒くない。
伊織は室内も撮影する。それが終わると資料に書いてあったブレーカーを見つけて上げた。壁にあるスイッチを押すと電気がついた。
「電気が使えるのはあり難いわね」
と部屋の中を見回すと、
「これはまずは掃除からかな」
と雷はつぶやく。
電気が付いた状態で写真を取ると、伊織は『3LDK』という間取り図を眺めて、
「まずは室内の点検をやりますか?」
と雷に言うと、
「そうね。一通り見ていこうかしら」
と二人で見ていく。
玄関を入って靴を脱ぐ。
「お邪魔します」
と二人は中に入る。
「構造的に別荘というよりも、普通の鉄筋平屋の家みたいな感じですね」
と伊織。
「建てられたのはキャンプブーム前みたいよね。築年数はここには書いていないけど、田舎に住みたい都会人がここに家を建てて、その人がいなくなって放置されていた建物を、別荘にリフォームして売り出されたものを、依頼者の社長さんが購入したってとこかしら?」
玄関のすぐ横にはトイレがあったが、
「ここがトイレね。伊織さん。後でも構わないかしら」
と雷は訊いた。
「ええ。そうですね」
と後で撮影に行くことにして、左の扉を開けて一つ目の部屋に入る。
そこにはホコリで真っ白なテレビが置かれていて、分厚いカーテンが夕日の光を遮っていた。
「ここはリビングって感じね。上等なソファーが置かれているわ。ホコリだらけだけど」
と雷は咳込み、ポーチからマスクを出してはめた。
撮影を終えると、
「掃除道具は持ってきているので、この部屋は食事が出来るくらいには清掃します」
と伊織。
「そうですね。私も手伝うわ」
と雷。
両側に開けられる戸襖を開けると、広い畳部屋があった。左には大きな磨りガラスのサッシ窓があり、開けば雑草だらけの庭が見える。そしてほとんど物は置かれていない。
「ここは拭き掃除をすれば、すぐにでも使えそうですね」
「そうね」
次は奥の部屋へ向かう。
広い畳部屋の右の戸襖を開けた。
そこは八畳ほどの畳部屋だったが、畳まれていない服の入ったいくつかの衣装ケースや、錆びたダッチオーブン。すでに開けられた缶詰やレトルト食品があった。
「資料には自由に使ったり、食べてもらっていいと書かれていますが……」
と伊織は含みを持たせた言い方をした。
「どうしたの?」
と雷。
「これを見て下さい」
と資料に載っている画像を見せた。
「これは……。とても綺麗に整理整頓されているわね。というか、缶詰もレトルト食品も段ボールに入ったままだわ……」
「はい。フィラさんの話だと、この社長さんはとてもきちんと整理整頓をする方のようで、食料が中途半端に余るようなら、必ず持ち帰る人のようです」
「ちょっと待って!」
と雷は右手を顎に当てて、
「社長さんの依頼って夜中になると女の声が天井からするってことだったわよね」
「ええ」
「……これ。霊の仕業なのかしら?」
「それがですね。この社長さんの話だと天井から『出ていけ~』と女の声が聞こえたので、誰かが無断で天井に住んでいるのかと思って、天井裏をすぐに見たらしいんです」
「勇気があるわね。その社長さん」
「そうしたら、広々とした天井裏を懐中電灯で照らして、隅々まで確認しても……」
「誰もいなかった……」
「そうみたいです。資料によれば、それで霊の仕業だと思って怖くなり、長期滞在を予定していたのに、次の日の朝に急いで逃げ帰って、そのままなのだと言うことです」
「荷物はそのまま……。つまり、この衣服や食品は長期滞在のために用意した真新しい物だったってことね」
「そうなんです。それが……」
「明らかに荒らされた形跡があるわね……」
少しの沈黙の後、
「これって霊の仕業なのかしら?」
「でももし人間なら天井裏に隠れていたら、懐中電灯に照らされてすぐに見つかると思うんです」
「そうよね……。う~ん」
と雷は思案し、ポーチから素早くメモ帳を取り出して、スラスラと書くと伊織に見せた。
伊織がメモ帳を読むと、
天井裏にいるのは霊の可能性もあるし、人の女の可能性の両方あるので、聞かれないように調査に関してのことは、このメモでやり取りしましょう。
と書かれていた。
黙ったまま伊織は頷くと、特に念入りに写真を撮ると、
「次はお風呂と台所とトイレを見に行きましょうか?」
とわざと明るく言った。
「そうね。そうしましょうか!」
と雷もわざと明るく答えた。
霊なのか?
人なのか?
雷は書いたメモを伊織に見せた。
人ならお風呂や台所そしてトイレは使われた形跡があるはずです。
それを読んだ伊織は黙って頷いた。
そして二人は風呂と台所とトイレを見たが、使われた形跡が全くなかったのである。
一通り写真を取り終えると、フィラ宛にメッセージと画像を送った。
内容は、
荒らされた形跡あり。
として奥の八畳間の衣装ケースと食料の画像を送った。
すると、
分かったわ。他の画像も送って頂戴。私から社長さんに送るから。
と素っ気ない返事が帰ってきた。
そのメッセージを雷に見せると、
「フィラさん。余り良いことがなかったみたいね……」
と心配そうな表情になった。
それから二人は素早くリビングの掃除を済ませた。
雷は買ってきた材料で、カセットコンロを使って鍋料理を作る。電気が通っているので三合炊きの炊飯器でご飯も炊いていた。
「今、畳部屋の拭き掃除が終わりました」
と埃っぽくなった伊織がリビングに戻ってきた。
「お疲れ様。プロパンガスが使えないからお風呂やシャワーは無理だけど、これを食べたら車で温泉に行きましょう。八時過ぎまで開いているみたいなので」
「あ。それいいですね」
と食事を始めると、
「あれ。たくさんご飯を炊いたんですね。それに鍋も量が多い」
と伊織が言うと、雷はメモを書いて見せた。
わざと多目に作ったの。これを残して温泉に行くわ。
読み終わって顔を上げた伊織に、雷はニヤリと笑って見せる。
伊織もメモに書き込む。
つまり残りがなくなっていたら人だと言うことですね。
それを読んだ雷は頷く。
二人は食事を終えると、
「とても美味しかったです。雷さんは料理が上手ですね」
と伊織が言うと、
「フィラさんほどじゃないけどね。じゃあ、早速準備して行きましょうか?」
「はい」
と温泉に車で向かった。
しばらく車で走り出すと、
「これで自由に話せますね」
と伊織は言った。
「そうですね」
と助手席の雷は素っ気なく答える。
「雷さんは霊か人か? どちらだと考えているんですか?」
「そうね……。どちらも可能性はあるんですけど……」
「あるけど?」
「どちらでもない可能性もあるかな? と……」
と言ったので伊織は少し驚き、
「どちらでもないのですか?」
「ええ……」
「何か根拠があるのかな?」
と尋ねると、
「霊の根拠って、すぐに天井裏を確認した時に、誰もいなかったからよね」
「はい……」
「そして風呂と台所とトイレを使った形跡がないことよね」
「はい」
「でも衣服の入ったケースは荒らされ、レトルト食品や缶詰は食べられた形跡があった」
「はい」
「それって物の怪じゃないかと思うのよ」
と雷は言った。
2024年1月28日
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