双子の妹の保護者として、今年から共学になった女子高へ通う兄の話

東岡忠良

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【38-2】和葉。一般的な試験の計算方法と言いながら胸のサイズをテストの点数に加え始める。

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──【38-2】──

「ウソ……。あんなに勉強したのに……」

 と八組の隣りの空き教室の窓に貼り出された、上位五十名の試験結果を見て、相生優子は愕然がくぜんとしていた。

 一位。新屋敷和葉。五〇〇点。
 二位。相生優子。四八二点。
 三位。橘一子。四八〇点。
 四位。瀬川薫。四七八点。
 同四位。園田春樹。四七八点。

「それも……。私、和葉とは十八点も差があるの……」
 とその場に座り込んでしまいそうなショックの受け方の優子に、

「さすがは優子ね。単独二位、おめでとう。さあ、握手をしよう」
 と一位の新屋敷和葉は笑顔で握手を求めてきた。

「な! 何によ! 握手なんてする訳ないでしょう~!」
 と和葉に言いつつ、

「それにしても、もしかして和葉は満点なの……」
 と言うと、

「そうだけど」
 と当たり前の出来事のように言う。

「でもね。普通の年なら優子の点数だと、トップ間違いなしみたいよ」
 と和葉。

「えっ? そうなの? と言うかどうしてそれを?」
 と優子。

「実は昨日、前田先生から家に電話があってね」
「うん」

「私はてっきり、ついに前田先生が卒業前にお兄ちゃんとの婚約のお願いの電話かと思ったんだけど」

「ええ~! そんな話が出ているの!」
 と優子は驚いたが、
「ううん。私が勝手に想像していただけなんだけど」
 と和葉は言う。

「何よ、それ。びっくりするじゃない」
「で私、お兄ちゃんを呼ぼうとしたらね」
「うん」

「前田先生は私に用事があるっていうのよ」
「うん。それで」
「私は前田先生にね」
「どうせ、変なことを言ったんでしょう」
 と優子は呆れ気味に言うと、

「『前田先生は女の子の方が好きだったんですか?』って言ったらね」
「よくそんなことを言うわね」
「『あなた。教師に何を言っているの!』と注意を受けたわ」
「そりゃ、言われるでしょうね」

「そしてね。『和葉さんはもう少し思春期方面で落ち着いて下さい』って言われちゃってさ」
「前田先生ってよく分かっているわね」
 と優子は感心する。

「それで要件って言うのがね」
「うん」
「中間試験の満点のお知らせだったのよ」
「へえ~。ふう~ん。凄いのねえ~」

 と優子は、悔しい気持ちを込めながらも、試験のために努力をした和葉を讃える言い方をした。
「で私は『そうですか』って言ってね」
「え! それだけ!」

「うん。だって試験を終えた時に、自己採点である程度、予想は付いていたから」
 と言うと、

「それで私、前田先生へついでに質問したのよ」
「何を訊いたの?」
「『優子は何点だったんですか?』ってね」

「な! 何、人の点数を訊いてるのよ!」
 と優子は怒った。
「でも前田先生は教えてくれなかったわ。『いくらお友達でもテストの点数は教師として教えることはできません』ってね」

「よかった。前田先生ってきちんとしているのね」
 と安堵する。
「だから私、『先生、良かったですね。先生のクラスに一位と二位がいるなんて、職員室でも鼻が高いでしょう』って言ったらね」

「え? そんなことを言ったの!」
「そうしたらね。『そうなのよね~。普段の年なら相生さんの成績なら充分にトップ……。ちょっ! 今のなし!』って焦っておられたわ」
「あなた、それ。誘導尋問じゃない」

「でね。『今のことは忘れて。特に相生さんにはくれぐれも秘密にしといてね』って言われたから、私『はい! 分かりました!』って言って電話を切ったのよ。そしてたった今、すべてを優子に報告したわ」
「和葉。一日も黙っていなかったのね」
 と優子は複雑そうな顔を向けた。

「へえ~。先生からそんな電話があったのね!」
 と橘一子がひよっこりと話に入ってきた。
「おお。これは単独三位の一子ちゃん。おめでとう。では握手をしよう」
 と和葉が右手を出すと、

「仕方がないわね……。今回は私が三位だったけど、次は負けないからね」
 と顔を背けているが頬を赤らめながら、和葉と握手をした。

「まあ、私よりもまずは優子を倒さないといけないわね」
「な!」
 と一子の顔が見る見る真っ赤になる。

「ただし、相生優子は我らが四天王の中でも最も最弱」
 と和葉が言うと、
「四天王って私と和葉しかいないんだけど」
 と優子が言うと、横から、
「和葉さん、凄いですね。満点の一位ですか」
 と話に入ってきたのは瀬川薫だった。

「薫ちゃんも惜しかったわね。春樹君と同一四位って凄いわ。それ、握手をしよう」
 と右手を差し出すと、

「ありがとうございます。私、皆さんとの勉強会のお陰で、こんな上位に行けたと思うんです。あれから家に帰ったら、ずっと旅館の手伝いの日々だったので」
 と笑顔の薫を見て、

「え? 薫ちゃんって、あれから勉強出来なかったの?」
 と優子。

「はい。急に慰安旅行の予約が入っちゃいまして、旅館は大忙しだったんですよ」
 と嬉しそうに話すが、

「もしかして、しっかりと勉強時間を取ったら、薫ちゃんってもっと上位を狙えるんじゃないの」
 と和葉が言うと、優子は焦りを隠せない様子である。

「あはは。今までそんなことは一度もなかったので、これからも何とか時間を作りながら頑張りますね」
 と小さくガッツポーズをした。

「瀬川薫ちゃん。あなどれないわ」
 と一子がつぶやいた時である。

「それにしても、同一四位の園田春樹君はどこに? あ。いたいた」
 と和葉は廊下の端にいる二人組を見つけた。

「また、二人っきりで何かを話しているわね」
 と和葉。

「本当に仲がいいですよね」
 と薫。
「それにしても凄い取り巻きね」
 と優子は言った。

 春樹と一緒にいる新屋敷竜馬との二人を取り囲むように、女子生徒らが少し離れて、その様子を見つめている。

「ねえ。あの取り巻きの中に、上級生も交じってない?」
 と一子。

「確かに上級生もいるわね」
 と優子は少し嫉妬気味である。
 すると、

「二人共、そんな端っこにいないで、こっちに来なさいよ!」
 と和葉は大声を出した。

 竜馬と春樹は和葉の呼びかけに反応して、
「ああ」
 と竜馬は手を上げて和葉の方に歩いてくる。

 集団の女の子達の間を抜けるさいに、
「ごめんね。ちょっと通して」
 と声をかけると、

 はいっ! どうぞ! どうぞ!
 ちょっと! 今のは私に言ったのよ!
 そんなことない! 私よ!
 と小競り合いが始まったが、

喧嘩けんかしないで。僕は皆さんに言ったんだから」
 と竜馬が言うと、揉めていた三人から黄色い声が聞こえた。

「お兄ちゃん。そんな隅っこで何を話していたの?」
 と和葉は竜馬に擦り寄る。

「隅っこって。さっきまで春樹と二人で小夏を力付けていたんだよ。なあ」
 と春樹に同意を求めると、

「うん。そうなんだけどね。三上さん、この五十人の中に自分だけ名前がないからって、また落ち込んじゃってね」
 と春樹は残念そうに言うと、

「小夏。この上位五十人のテスト結果を見るまでは、まあまあ元気だったんだけどさ、僕の名前があるの知ってから、とてつもなく落ち込んじゃってさ」
 と竜馬が言うと、

「多分、小夏ちゃんはお兄ちゃんと一緒に補習を受ける予定だったんでしょうって! え? お兄ちゃん、ここに名前があるの?」

 と和葉はそれに一番驚いた様子である。
「え。ああ。お陰様で十三位に名前があったんだよ」
 と恥ずかしそうに後ろ頭を掻いた。

「えっ! えっと十三位、十三位……」
 と和葉は貼り出された中間テスト上位五十名の一覧を指で追っていくと、

「本当だ! お兄ちゃんの名前があるわ!」
 ととても驚いている。

「す……。凄い……」
 と中間テスト一位で満点だった和葉が、かなりの動揺をしていた。

「あの……。和葉さん……。学年トップのあなたが、何で僕の十三位に驚いているのかな?」
 と竜馬は落ち着いた様子で言うと、

「だって……。だって正確に計算したら、お兄ちゃんが学年一位だからよ!」
 と和葉が言うと、その場にいたみんなは、

 は?
 と一瞬、時間が止まったかのように、全員が和葉の方を見た。

「いや……。何を言っているんだよ。一位は和葉だろう」
 と竜馬は、また何を言い出すのか分からない妹を警戒気味に言った。

「仕方がないわね。じゃあ、この一般的な試験の計算方法を教えてあげるわ」
 と言うと、

「まずは、この私。新屋敷和葉よ」
「お。おう」
 と竜馬。

「私の順位は一位。そして私の胸のサイズはGカップ」
 と言った時点で、

「おい! ちょっと待てよ。何で試験の結果に胸のサイズが関係してくるんだよ」
 と竜馬は思わず突っ込んだが、

「お兄ちゃん。今からとても重要な話をするから邪魔しないで」
 と珍しく真剣な表情を向けてきたので、

「わ、分かったよ」
 と竜馬は取り敢えず話を聞くことにした。

「いい。まずは私の胸のサイズはGカップ。つまりマイナス七なのよ」
 と言うと、
「おい! ちょっと待てよ!」
 とさすがにまた竜馬は止めた。

「それはどういうことなんだ? 意味が分からないんだけど?」
 と竜馬が言うと、和葉は自分の右手を竜馬の目の前に出して、

「ABCDEFG」
 と声に出して言うと、
「つまり、七よね」
 と言う。

「え? まあ、七だけど? えっ。それを試験結果に反映させるのか?」
 と竜馬。

「そうよ。だから私は一位の一。Gカップでマイナス七。つまり総合得点はマイナス六なのよ」
 と言うのだった。

「さ。さっき、和葉って『一般的な試験の計算方法』って言ってなかった?」
 と優子は指摘した。

2025年6月26日

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