セカンドサピエンス ─SランクシークレットエージェントSSA(エス・エス・エー)九条亮介─

東岡忠良

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第二章 A級セカンドの逃亡。

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──1──

 黄色い培養液を散らしながら、四足で迫ってくるセカンドサピエンスは、まさに野生動物そのものだ。長く伸びた髪が、身体に張り付いている。
 そして叫び声とも奇声とも取れる、唸り声を発して真っ直ぐに美佐へ走ってくる。
 研修で習った通りに腰を落とし、しっかりと構える。距離は十メートルはあったが、恐ろしさで引き金を引いたが、固い。
「あっ! 安全装置を外していない!」
 急いで外して構えたら、もう目の前だった。照準も何もかも出来ず、指に力を加えた。
 苦しそうな声と悲しそうな声が混じり、セカンドは苦しんでいた。よく見ると、左足腿(もも)に命中していた。
「これじゃ、足らないわ」
 ショック銃で相手を眠らせるには、心臓に近い方がよいと習った。
 再び、構え直す。
 セカンドは左足を引きずりながら、こちらに近づいてくる。腕で身体を進めて来る。女のセカンドなので、胸から二つの膨らみが垂れている。
「ごめんなさい」
 とつぶやくと同時にショック銃を、相手の左肩に撃ち込んだ。セカンドの動きはすぐに止まった。撃たれたさいに絶叫や苦しみはないようだった。
「確かこれで十二時間は動けないはずよね」
 セカンドサピエンスを捕獲(ほかく)するためにだけ作られたショック銃の効き目は大したものだった。
 美佐は倒れているセカンドに近づいていく。
「やっぱり怪我をしているわ」
 恐らく強化プラスチックのカバーを強引に叩いて壊し、培養カプセルから出てきたのだろう。両手と両肘、両足と両膝(ひざ)が激しく損傷し、血が出ていた。
「こんなにカバーを叩かなくても、内側から開けられる緊急用のレバーがあるんだけど、知識を教えられていないセカンドには無理よね」
 と言い、空中で操作してスマートフォン風の画像端末を表示した。
「え~っと、まずは事務所のコンピュータに報告ね」
 と空中の端末を操作しようとした瞬間だった。
 首の後ろに経験したことのない強い痛みを感じた。足に力が入らなくなり、そのまま前方に倒れ込んだ。
 意識が今にも飛びそうだ。一体、何が起きているのか?
 すると何者かがうつ伏せになっている美佐の合羽の下を脱がした。そして脱がした合羽を履いているようだった。
「な……。何なの……?」
 セカンドであることは間違いない。セカンドは今まで生きてきた経験を持たないために、人体の力加減のリミッターがしばらくは外れている状態なのだ。
 そして身体を右に回され上を向かされた。培養工場の明るい天井が見える。
 そこには黄色い液体の付いた少女が見えた。
 身長は一七〇センチはある。大きく形の良い胸と、女の美佐でも撫でたくなる大きめの腰に、スラリと長い足が見えた。
 そして何と美しい顔だろうか。
 大きな目とそれにぴったりの輝く瞳。鼻の高さはちょうど良く、口元のバランスは大き過ぎず小さ過ぎない。そして髪は茶髪というよりは、ダークブロンドが近い。黄色い液を垂らしながら、合羽の上着を脱がしている。
「ごめんなさい。この雨具をもらうわ。外は雨なので」
 と美佐に話しかけている。
 明らかにおかしかった。セカンドに知識は与えられていない。正確には九十五パーセントのセカンドには培養カプセル内での知識の書き込みはされていないはずなのだ。
 もしされているとしたら?
「五……パーセントのA級ってこと……」
 それを聞いていた美しいセカンドは、美佐の顔を見て首を傾げている。
 美しいセカンドは、美佐の身分証明書を手に取っていた。彼女は長いダークブロンドの髪を掻き上げながら読んでいる。
「まさか……。読めるの……」
 知識を持つA級セカンドなのは間違いなかった。
 さっき美佐が動けなくした無知なセカンドサピエンスとは全く違う。
 見た目は美しい白人とアジア系のハーフだが、野獣の身体に人間の知能を持っているのだ。一時間ほどは人間を超えた存在の化け物と言ってよかった。
 何を考えているのか? 
 何をするつもりなのか? 
 心底、恐怖が襲ってきた。
 美女セカンドは美佐を見て言った。
「乱暴してごめんなさい。合羽は頂くわ。ごめんなさい。そしてこのカードも頂くわ」
 と美佐の眼の前に身分証明書を出すと、
「ごめんなさい」
 と美女セカンドの声と同時に、鳩尾(みぞおち)に激痛が走り、古賀美佐は気を失った。
 美佐が気がついたのは、女性の上司に起こされた時であった。あれから六時間もの時間が経過していた。  

──2──

 昨晩の台風による大荒れの天気は、今朝になるとウソのように快晴だった。
「こりゃ、いい天気だな」
 と武田和人(たけだかずと)は年月の経過のために、建付けの悪くなったアルミ製の雨戸を開けていた。
 和人は背が一六八センチだが、筋肉質の身体なので、ここの開けにくい雨戸は祖父ではなく彼が開閉することが多い。年齢は十七歳である。
「これは酷えな」
 と先祖代々の古い家屋には付きものの、無駄に広い庭にはどこからか飛んできたプラスチックの破片や木切れなどが散乱していた。
 一緒に暮らしている祖父は、風が収まってきたのを見計らって、一足先に自分の漁船の様子を見に出かけていた。
「まあ、漁船は多分大丈夫だよな。こんな時のために空中停止バリア装置を高い金を出して買ったんだから」
 と呟いた。
 『空中停止バリア装置』とは一メートルほど浮かせたまま、二十四時間漁船をバリアで包み込み、船体を守る仕組みの装置である。
 ここ四、五年前に実用化されて、武田家では奮発して去年取り付けた代物だった。
 そして去年来なかった大型台風が、今年来て早速その性能と漁船の状態が気になり、祖父は足早に出かけて行ったのである。
「もし、問題があったとしても、保険をかけているから船は新しくなるからいいのに」
 と和人は言った。
「それにしてもこの庭の掃除って、俺一人でやるのかよ」
 と深い溜め息が出た。
 そんな矢先、庭にある古いスチールで出来た物置の方から、ガタガタと音が聞こえた。
 最初は物置内に立てかけてあった物が、昨夜の強い風の影響で物置が揺れて、いつバランスを崩してもおかしくない物が倒れているのだと思ったのだが、その物音が風の収まった今でも、断続的に聞こえるのだった。
「野良猫かイタチでも入り込んだかな?」
 スチール製の物置は一部、錆(さび)があるが隙間はない。入ったとしたら、真夜中に入口を開けたさいに、するりと隠れて入り込むしかない。
「これは確認するか」
 庭に出るためのサンダルに載った、土や葉っぱを落としてから履いた。
 物置の前に立つと、年月により歪んできて固い戸口は閉まっていた。扉に手をかけ力を込めた。
「それにしても固いな」
 と強引に開けて薄暗い中を見ると、人間が隅にうずくまっていて、和人を見つめていた。
「うわっ!」
「キャッ!」
 とお互いに驚き、和人は物置から離れた。
「な! 人間だった。それも声からして女だった」
 和人は混乱した。台風の後、物置に女がいる。それも何かビニールっぽいものに包まれている。
「何なんだ、一体?……」
 確認しない訳にはいかない。
 ゆっくりと戸を開けながら、
「ごめんなさい。お邪魔します……」
 とゆっくりと開けた。
「……いえ。お邪魔しているのはこっちです……」
 よく見ると合羽を着ている女の子だった。フードを深く被り鼻と口しか見えないが、大きな胸の膨らみと、腰の辺りの合羽がはち切れそうになっており、そこからスラリと長い足が伸びていた。 
 物置の中を簡単に片付けた跡があり、そこで丸まりながら寝ていたようだった。
「えっと。その。何でこんなところに居るのかな?」
 そう言うしかない。すると、
「嵐の中を、迷うというか、どこに行けばいいのか分からなくなって。大雨の中を歩いていたら、段々と寒くなって来て、そうしたらここの小屋の戸が少し開いているのを見つけて。その……」
 とここまでたどり着くまでのことを話し、
「人の家かもしれないと思ったんですけど、風と雨と寒さに耐えられなくて。入って休んでいたんです。ごめんなさい」
 と立ち上がって深く頭を下げた。
 和人は、しばらく呆気に取られていたが、
「あ。ああ! そんなのはいいんだ。それに君、裸足で足が泥だらけじゃないか。うちのシャワーを貸してあげるから浴びなよ」
 と言った。
「……シャワー? ですか?」
 と澄んだ綺麗な声で少女は言った。すると和人は慌てて、
「い! いや! 変な意味じゃないんた。僕はその、女の子の友達もいないし、どちらかと言えば、女子は苦手だし。その、何もしないし。ああ。何て言えばいいんだ」
 と両手をやたらと動かして、何をどう言えばいいのか分からなくなっていた。
「ようするに、シャワーを浴びて、眠いならゆっくり家で休んでいきなよってこと。でも僕は真面目な男だから、君に何もしないから。だから大丈夫だから」
 自分でももう何を言っているのか分からない感じだし、言えば言うほど何だかやたらと怪しげに聞こえてくる。
 すると、
「私、理由は分からないけど、追われているみたいなの……。だから外に出るのが怖い……」
 と俯いた。身体も少し震えていた。
「そうなのかい」
 と言った和人は、戸を開けたまま外へ出て、左右を見た。
「今なら誰もいないよ。出てすぐに雨戸を開けた廊下があるから、そこから家に上がるといい」
「でも……。私、足が泥だらけだから上がったら床が汚れるわ……」
「大丈夫。君がシャワーを浴びている間に、僕が床を掃除するからさ」
 と説得した。
「いいの?」
「いいよ!」
 と和人は笑顔で言った。
「わかったわ」
 と少女は立ち上がった。
 和人は物置の出入り口に立った。左右を見て、
「さあ、早く!」
 と手招きをした。
 少女は合羽のフードを深く被り、急いで駆け出した。うまく水たまりを避けていたが、元々庭の土がぬかるんで泥になっているので、足の乾いた土の上に、湿った泥がついた。
 和人からすると見ていて、木切れやプラスチックの破片を踏んで、足を怪我しないか心配になった。
 廊下を上がって、素早く家へ入った少女の姿を確認してから、
「よく考えたら、オレのこのサンダルを貸してやればよかったんだよな」
 と後悔した。それだけ余裕がなかったのだろう。
 和人も家に上がると、廊下から畳の敷かれた部屋の向こうまで、泥の足跡が続いている。
「そう言えば、風呂の位置を教えなきゃ」
 年季の入ったこの家は、田舎では一般的な古いタイプの家屋である。だだっ広く初めて上がった者は分かりにくいと思った。
「君、どこだい?」
 と泥の足跡を辿(たど)りながら探すと、余程見られたくないのか、外からは見えない二階に上がる階段の隅に蹲(うずくま)っていた。
「どうしたんだい?」
 身体が小刻みに震えている。余程、恐ろしい体験をしたのか? 
 それとも余程、恐ろしい相手に追われているのか?
「君、こっちだから」
 と風呂場に連れて行こうとしたが、
「窓が恐いわ。誰かに覗かれている気がして……」
 と蹲(うずくま)ったまま動かない。
「分かったよ。ちょっと待ってて」
 と言い残し、まず和人は風呂場の浴槽に湯を張るスイッチを押した。その後、開けた雨戸と、カーテンのある窓の全てのカーテンを閉じ、カーテンのない窓には、ダンボールとガムテープで窓を隠した。
「ほら、もう怖くないよ」
 と家の中の全ての電灯を点けた。
 女の子は顔を上げて和人を見た。
 明るい茶髪の長い前髪だが染めているのではないようだった。生え際まで綺麗な同じ色だったからだ。
 大きな瞳をこちらに向けて、少しだけ微笑んだ。微笑む口元の唇は薄めのピンク色で、口紅など化粧っ気はない。
 いや、だからこそかもしれない。和人は今までこんなに美しい女性は見たことがなかった。
「ありがとう」
 と言い、今度は嬉しそうに微笑んだ。
 和人は一瞬、ぼんやりと彼女を見ていたが、我を思い出した。顔と耳が真っ赤になっていくのが自分でも分かり、心臓の鼓動が早くなり、何だか身体がフワフワと軽くなる感じがした。
「そ、その。なんだ……。あ! そうそう、僕の名前は武田和人。この家で爺ちゃんと二人だけで住んでいるんだ」
「たけだかずと、さん?」
 と呟く。
「そうそう。字はこう書くんだ」
 と近くにあったメモにボールペンで『武田和人』と書いた。
「武田和人さんね」
 と微笑む。
「さん、なんていらないよ。俺なんて和人でいいよ」
「和人でいいの?」
「そうそう。それでいいよ。で、君の名前は?」
 と聞くと、しばらく黙っていたが、
「古賀ミサ。私の名前は古賀ミサ。ミサと呼んで下さい……」
 とメモとボールペンを取って『古■ガミサ』と書いた。『古』と『ガ』の間に何か字を書こうとしたようだったのだが、上手く書けなかったようで、黒く『■』このように塗りつぶしていた。
 この時、和人は、
「自分の名前なのに名字を上手く書けないって、恐怖で手が震えているからなんだな」
 と思った。
「古ガミサさんか。えっと、ミサさんって呼べばいいかな?」
 日本人離れしたその容姿を見ると、十七歳の和人の方が年下に感じた。
 すると頭を静かに横へ振り、
「ミサって呼んで下さい。和人」
 とはに噛んだ。
「それで、その……」
 と話しかけようとすると、お風呂が湧いたことを教えるチャイムが鳴った。
 ミサは一瞬、身体をピクリとさせたが、
「あ。お風呂が湧いたよ。さあ、入った、入った」
 とミサの右手を、左手で掴み、引っ張って立たせた。そうすると、一六八センチの和人よりも、背が高かった。
「君、モデル体型ってやつだね。スタイルいいね」
 と言うと、
「それは、和人は嬉しいこと?」
 と訊いた。
 和人は少し戸惑ったが、
「う、うん。僕も男だからね。ミサみたいに綺麗な女性を見ると、嬉しいよ」
「本当! よかった!」
 と和人の左手に抱きついた。細い身体だが思った以上に大きな胸の膨らみが当たった。
「あっ! ちょ、ちょっと!」
 と和人が慌てると、ミサは不思議そうに和人の赤い顔を見つめた。
「もしかして。私、悪いことをした?」
 と申し訳なさそうにしている。
「いや! 悪いことはしていないよ。何というか、ミサに申し訳ないというか、僕のような男の腕に、女の人の大切な胸を、その……。当てたりするって、その……。そうそう。よっぽど、仲の良い男女しかしないと思うから、そういうのは! 俺、何を言ってんだろう」
 と動揺した。
「もしかして、嫌なことをした?」
 と聞いてきたので、
「それは全然! 嫌なことじゃないよ、全然嫌なことじゃない!」
「そう……。よかった……」
 と今度は、和人の左肩に首を曲げて顔を預けた。その時に被っていた合羽のフードが、後ろに落ちた。その拍子にミサの腰まである長い髪が背中へ流れ落ちた。
 和人はどうしたらいいか分からず、しばらく動けなかったが、
「さあ。風呂に入って来なよ。その間に服も用意するからさ」
 と話しかけた。
 ミサは、
「はい。和人」
 と微笑んで、二人は手を繋いだまま、風呂場に向かった。
 風呂場に続く古い家の廊下を、手を繋いだ二人は歩いて行く。途中の窓のダンボールの隙間から、微かな太陽の光の筋が入っていた。
 一瞬だけ、ミサの額が太陽光に照らされる。『A111989』のナンバーが浮かび上がったが、
「あそこがお風呂だよ」と前を向いていた和人は見ていなかった。 

──3──

 武田和人はます、祖父に怒られないように、廊下から和室の畳そして階段の隅から、風呂場に続く廊下にある泥と砂を、雑巾で拭いていった。乾いたところは少し取れにくくなっていたが、少し多めに水を含ませた雑巾で何度も拭いて綺麗にした。
「さて、問題は……」
 と奥の部屋に行く。
 そこには二年前に亡くなった父親と母親の残した遺品があった。
 箪笥やクローゼットを開けると、母親が使っていた衣服や鞄などが無造作に入っている。
 これを見ると、ここに住むことになった経緯(いきさつ)を思い出すのだった。
 突然のことだった。
 夫婦で漁師をしていた和人の両親だったが、死亡原因は交通事故だった。早朝に漁へ向かう途中、反対車線から突然飛び出してきた、大型トラックと正面衝突したのである。片側一車線の道で民家の塀があり、逃げ場はなかった。
 現在、交通刑務所に入っている犯人の男は、酒気帯び運転だった。アルコールを感知してエンジンを始動させない装置はあったが、アルコールを消去するマスクを付けるという違反をしていた。
 その上に居眠り、そして自動運転装置を切っていたのだった。自動運転装置を切っていた理由は、
「自分の運転技術のプライドを守るために、自分のトラックを機械ごときにハンドルを預ける気にならなかった」
 というあまりに馬鹿馬鹿しい理由だった。
 祖母は八年前に心筋梗塞で突然、その日の午前中に亡くなった。当時は祖父母の二人暮らしで、漁から帰った祖父が倒れていた祖母をすぐに救急車を呼んで病院に搬送したが手遅れだった。
 つまり二年前に、たった一人になった和人を、一人暮らしの祖父が引き取る形になっての同居だった。和人は優しい祖父に甘えたくなくて、両親の遺品はすべて処分するつもりだったが、
「無理はするな。空き部屋はある。そこに全て置けばいい」
 とローンの残っていたマンションを引き払い、父母の荷物と和人は一緒に祖父の古民家にやってきたのである。
「まさか、遺品が役立つ時が来るとはね」
 まずは女物の服だが、一七〇センチもあるミサには、少し小さいように感じる。デザインも古く、若いミサには合いそうにない。
「これは困ったなあ」
 身体は普通の女性よりも大きいが、ウエストは細そうなので、一番大きそうなスカートを選ぶ。そして伸び縮みするTシャツにした。そして問題は、
「下着、だよな……」
 正直、考えても分からない。何も考えず、そこにあった下着を適当に取り出して、服と一緒にビニール袋に入れてた。
「おっと、タオルとバスタオルもいるな」
 急がないと、ミサが風呂から出てしまう。服と下着とタオルなどでいっぱいに膨らんだビニール袋を、駆け足で風呂場まで持っていく。
 風呂場の脱衣所の前に立った。一呼吸して、
「ミサ。服とタオルを持ってきたよ。入っていいかな?」
 と声をかけた。
「和人なの?」
 と湯をかける音と一緒に、ミサの声がした。
「そうだよ。着替えの入ったビニール袋を置いておくからね。ごゆっくり」
 と平静を装う。
「ありがとう。和人」
 と明るい声がした。
「この着ていた合羽は取り敢えず、凄く汚れているから大きなビニール袋に入れておくよ。後で洗って渡すから」
 と言うと、
「和人が洗ってくれるの?」
「ああ。そうだけど?」
 少し間が空き、
「出来たら、洗った後は外には干さないで欲しいの……」
 と心配そうに言った。
「分かっているよ。僕の部屋で干すから安心して」
 すると明るい声で、
「ありがとう。和人」
 と返事が帰ってきた。
「じゃあ、ごゆっくり」
 と脱衣所から出て、扉を閉めた。
 脱衣所の扉を背にして、和人はしばらく考えていた。
「そこの部屋で待っていようか。扉の開く音が聞こえたら『こっちだよ』って声をかけたらいいか」
 と廊下を歩いて行った。

2022年9月10日

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