悪の献身 〜アイドルを夢見る少年は、優しい大人に囲まれて今日も頑張ります〜

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第53話 悪夢は夜にやってくる

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「どうも、パラニュイのシグと」
「Ayo What's up! ダウンでーす」
 
 二人で来た公開ラジオ撮影所。始まった生放送は、壁一面にいるファンたちに囲まれている。
 見たことのないファンもいるので、随分新規の人が増えたのかなとファンたちに視線を配りながら感じる。
 勿論、ファンたちの中にはよく見る子たちも居て、俺のマスターである『Hey! Take see』さんや、枝のお兄さんもそこにいた。ダウンのマスターさんもいる。
 
 一昨日にアップロードした「ナイトタイムコール」は、奇跡の連続による爆発的な流行を起こした。
 まず、人気のストリーマーがK-POPを聞いていて、たまたまコメントにあったこの曲を聞いてくれたのだ。
 
「え、あの蛇姫様ルックの子の!? 男が女装とかイロモノだと思ってたけど、めっちゃいい声してるし、歌上手いやん」
 
 そして、何度も繰り返し聞いては、その度に巻き起こる絶賛の言葉。
 しかも、その様子はすぐに切り抜き動画となり、別の動画サイトでも投下され、その再生数もとんでもないことに。(ちなみに、俺は動画サイトでその切り抜きを見ました。嬉しかったです)
 
 どんどんと拡散され、他のSNSでもすぐに話題となり、ミックステープの試聴数もとんでもない数値を叩き出した。
 
 勿論、それを黙って見てないのが韓国メディア。すぐにうちの事務所に出演依頼が殺到。
 宿舎で休みを満喫しようとしていた俺とダウンは、無事に休み返上、こうして仕事をこなしている。
 
「わあ、今日はシグさん、ワンレンショートヘアも素敵です」
「ありがとうございます。イメチェン期間ですよ、ファンの皆さん似合ってますか?」
 
 ラジオ番組の月間アシスタントである女性アイドルグループ『REDDY B』元メンバーのジャスミン先輩が、褒めてくれたのを受けて俺は嬉しくなりつつも、今の髪型をアピールする。
 
 本当ならば姫カットすべきだが、生憎ユドンさんは故郷に帰省中で、他のメイクさんも時間がなく、捕まえられなかった。
 しかも、服も用意できず、俺はジノ兄さんが買ってくれたものを、ダウンは私服を着て、この場に臨んでいる。
 
「凄い、久しぶりの二人ですねー! いやー、プレデビューしてた時以来のシグくんと、パンチラインの時以来のダウンくんですね。いやー二人があんな胸キュンソングを出すなんて、驚きですよ」
 
「ありがとうございます」
「あーざいます」
 
 久々に会った『ロキシー』のイムスンファンサン先輩。セファン兄さんと会った日に出演したラジオ番組に、デビューして戻ってこれるとは、なんとも感慨深い。
 
「シグくん、やっぱこう見るとかっこいいよね。かぐや姫にも、イケメンにもなれるし、羨ましいわ。ダウンくんも今日はごりごりっていうよりはマイルドだし」
「曲もダウンくんのちょっと情けない男心のラップと、シグくんの優しい歌声がきゅんきゅんさせられました~」
 
 MC二人の言葉を聞きながら、俺たちは「ありがとうございます。嬉しいです」とお礼を言う。
 
 ただ、本当は正直、有り難い気持ち半分複雑な気持ち半分。
 
 たしかに、今回ので名が売れた実感があるが、俺としてはメンバーと……特にジウと一緒にこの番組に帰ってきたかった。他のメンバーたちから今回のことは祝福されているが、ジウだけは拍手している桃のキャラクターのスタンプが送られてきたっきり。
 
 ダウンには個人的に何かメッセージが送られてきたらしいが、俺には何も来ていない。
 
 怒らせてしまったのでは、機嫌を損ねてしまったのでは、少し悪いことを考えればどんどんと坩堝にハマっていく。ラジオの進行半分、考え半分の状態だ。
 
「シグレさんは、仲良い先輩とかいますか?」
 
 そのせいで急に振られた話題にワンテンポ遅く対応する羽目になった。
 
「え? あ、仲良い先輩はディートキシックのセファン兄さんです」
 
 特に隠す必要もあまりないかとセファン兄さんの名前を出す。
 
(あれ?)
 
 俺の回答に、イムスンファンサン先輩とジャスミン先輩が少しだけ、困惑したように一瞬だけ動きを止めた。
 
「おお、セファンと仲良いんですね、それは意外かも」
 
 最初に反応したのは、イムスンファサン先輩。ジャスミン先輩もハッとした顔をした後、我に返ったのか口を開く。
 
「意外ですねー! 他には仲良いアイドルいる?」
 
「あ、あーと、同い年なのもあって、エストラガンのオーガストくんとは連絡取ってます」
「おおーあの子仲いい子多いよねー」
 
 オーガストくんの名前を出すと一気に空気は和む。あの一瞬だけ凍りついた時間は気の所為だったのでは? と思ってしまうが、このことがまるで魚の骨のように喉に突っかかりを感じさせる。
 
 
 こうして、突然のバズによって休みを返上して働くことになり、3週間が経過した。
 そのうち、メンバー達休暇も終わり、また練習漬けの日々が始まる。ジウもまた、今回のダウンのミックステープのこともあったからか、新曲のためにと作業室に籠もっている。
 
「ジウ、あんまり、根を詰めないでね」
 扉越しに彼に声を掛けるが、返事はない。ここ最近は、夜食へのお礼しか彼と会話をしていない。
 
 それでも、メンバーのところに投下される彼の新曲のデモテープはすごく良くて、この才能を感じるたびに憧れは強くなっていく。
 
 歌も、曲も、本人も、ジウはとても魅力的なのだ。
 
 新しいカムバックに向けて動く周りの中、俺は一旦仕事が落ち着いたため、いつものようにジノの夜食を用意した後、宿舎から出ていく。そして、事務所に用意された車に乗って、テレビ局の近くのお店の駐車場に向かった。
 
 首にはあのネックレスを着けて、服の下には乳首ピアスも。
 
 会いに行くのは、勿論ジノ兄さんだ。
 
 バンに乗り込んできたジノ兄さんは、前にも増して、「よくしてくれる」お兄さん。
 会う頻度も最初に比べてとても増え、隙あらばこうして会っている。結果、最近は週ニほどであっている計算になる。
 
「いいアイドルになるように、お兄さんがお仕置きしてください」
 
 最近、ジノ兄さんが気に入っている睦言を口ずさめば、ジノ兄さんは嬉しそうに笑う。そして、事務所のバンは次のお目当ての場所へと向かっていく。それは、ジノ兄さんのいつものお店だ。
 
 今日もまた、こうして夜が過ぎていくのだ。 
 
 そんな日々が続くと思っていた。
 ただ、終わりは近づいていた。
 
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