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アメリカ地区
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「お誕生日おめでとう、エリック。」
恋人のソニアはチキンとポテトを焼き、手頃で美味しいワインを用意してくれていた。
更にプレゼントまで。
食事を堪能した後に渡された小箱にはバングルが入っていた。
太い十字線が中央を走り、周囲は細い直線が放射状に伸び、緑色の石が嵌め込まれている。
ズニ族の幾何模様をモチーフにしたようなデザインだ。
「ありがとう、ソニア。気に入ったよ。」
学生の僕たちが出来る誕生日祝いとしては上等だった。
その後は語らい―いつしか専攻を同じくする経済学の話となっていき―随分遅くまで討論し、彼女の家を出たのは0時を回っていた。
2ブロック先のアパルトヘイトへ向かい部屋に着くと、服を脱いでそのままベッドに潜り込んだ。
巨大な眼が僕を見ていた。
その眼に見つめられるだけで呼吸が止まり、心臓を握り潰されるかのような感覚が襲った。
ぎょろぎょろと動く様子から目と推測しているが、目そのものや同行の形状が異常であった。
このような眼を持つ生き物がいるとすれば、それはどのような姿形なのだろう と思う反面、このような眼を持つ生き物の全貌を目の当たりにしてはいけない という警鐘が鳴り響いていた。
この化け物は途轍もなくく危険だ。
そしてとても悍ましい。
折角の誕生日だったのに夢見が悪いのは安ワインのせいだろうと考えた。
それまでは楽しい夜だったのだ。
僕は重い頭を振り、シャワーを浴びて身支度を整え部屋を出た。
大学へ向かうバスに乗り、外の景色を眺めようと何気に窓へ首を向けると、夢で見たあの眼が映り込んでいた。
振り返ってもそれらしいものはない。
しかし窓を見ていると景色の中に透けるように、僕の背後にあの眼が存在していたのだ。
大学にいてもアパルトヘイトに戻っても、あの眼は鏡やガラスの反射越しに側に在り続けた。
「顔色が悪いわ。エリック。」
昼休みソニアと会った。
ソニアは何ともなさそうなので、ワインに粗悪な混ぜ物があるわけではなさそうだ。
心配はされたが、一時的な幻視と思われるため特に言う必要はないと判じ、疲れているため少し休めば良くなると答えた。
なるべく鏡屋窓を見ないようにと気を遣い、くたびれた足取りで家路につき、机に突っ伏した。
君の悪い眼に怯えてこれから過ごさねばならないのだろうか。
一度医者に行こう。
頭がおかしくなりそうだ。
額にひやりと硬い感覚が当たった。
ソニアに貰ったバングルだな と思い、ふと視線を上げると、太いラインで記されていた十字が開き、あの眼が覗いていた。
僕は叫びながらバングルを取り外そうとしたが、指はおろか身体が一切動かせなかった。
そうして気が付くとまたあの眼と対峙していた。
今度は眼とやや距離があり、しかも次第に距離が開いているようだった。
「やめてくれ…。」
自分でも驚くほどくぐもった声だった。
ヒューヒューと空気が漏れるような声ばかりとなり、麻痺しているのか発音も発生も上手く出来なくなってしまった。
眼の少し下には無数の触腕が生えており、通常であればそれだけで卒倒しそうなものだが、脳のどこかでこれを知っていると理解していた。
ギルマン家の者は皆、この奉ずる神がおわす神殿を守護する役目なのだから。
ゴムのように膨れ上がり、鱗に覆われた胴体へと向かって泳ぎ始める。
泳ぐ?
気が付けば海水の中だった。
水かきもエラもある体に変化しており、自在に泳ぎ回ることが出来ていた。
エリック・ギルマンの失踪について恋人のソニア・マーシュは、誕生日は通常通りだったため心当たりがない と語った。
部屋には持ち出されたものも特にないようで、机の上には参考書と、彼女が誕生日プレゼントとして渡したという十字と放射線のラインが入ったバングルがあるだけであった。
恋人のソニアはチキンとポテトを焼き、手頃で美味しいワインを用意してくれていた。
更にプレゼントまで。
食事を堪能した後に渡された小箱にはバングルが入っていた。
太い十字線が中央を走り、周囲は細い直線が放射状に伸び、緑色の石が嵌め込まれている。
ズニ族の幾何模様をモチーフにしたようなデザインだ。
「ありがとう、ソニア。気に入ったよ。」
学生の僕たちが出来る誕生日祝いとしては上等だった。
その後は語らい―いつしか専攻を同じくする経済学の話となっていき―随分遅くまで討論し、彼女の家を出たのは0時を回っていた。
2ブロック先のアパルトヘイトへ向かい部屋に着くと、服を脱いでそのままベッドに潜り込んだ。
巨大な眼が僕を見ていた。
その眼に見つめられるだけで呼吸が止まり、心臓を握り潰されるかのような感覚が襲った。
ぎょろぎょろと動く様子から目と推測しているが、目そのものや同行の形状が異常であった。
このような眼を持つ生き物がいるとすれば、それはどのような姿形なのだろう と思う反面、このような眼を持つ生き物の全貌を目の当たりにしてはいけない という警鐘が鳴り響いていた。
この化け物は途轍もなくく危険だ。
そしてとても悍ましい。
折角の誕生日だったのに夢見が悪いのは安ワインのせいだろうと考えた。
それまでは楽しい夜だったのだ。
僕は重い頭を振り、シャワーを浴びて身支度を整え部屋を出た。
大学へ向かうバスに乗り、外の景色を眺めようと何気に窓へ首を向けると、夢で見たあの眼が映り込んでいた。
振り返ってもそれらしいものはない。
しかし窓を見ていると景色の中に透けるように、僕の背後にあの眼が存在していたのだ。
大学にいてもアパルトヘイトに戻っても、あの眼は鏡やガラスの反射越しに側に在り続けた。
「顔色が悪いわ。エリック。」
昼休みソニアと会った。
ソニアは何ともなさそうなので、ワインに粗悪な混ぜ物があるわけではなさそうだ。
心配はされたが、一時的な幻視と思われるため特に言う必要はないと判じ、疲れているため少し休めば良くなると答えた。
なるべく鏡屋窓を見ないようにと気を遣い、くたびれた足取りで家路につき、机に突っ伏した。
君の悪い眼に怯えてこれから過ごさねばならないのだろうか。
一度医者に行こう。
頭がおかしくなりそうだ。
額にひやりと硬い感覚が当たった。
ソニアに貰ったバングルだな と思い、ふと視線を上げると、太いラインで記されていた十字が開き、あの眼が覗いていた。
僕は叫びながらバングルを取り外そうとしたが、指はおろか身体が一切動かせなかった。
そうして気が付くとまたあの眼と対峙していた。
今度は眼とやや距離があり、しかも次第に距離が開いているようだった。
「やめてくれ…。」
自分でも驚くほどくぐもった声だった。
ヒューヒューと空気が漏れるような声ばかりとなり、麻痺しているのか発音も発生も上手く出来なくなってしまった。
眼の少し下には無数の触腕が生えており、通常であればそれだけで卒倒しそうなものだが、脳のどこかでこれを知っていると理解していた。
ギルマン家の者は皆、この奉ずる神がおわす神殿を守護する役目なのだから。
ゴムのように膨れ上がり、鱗に覆われた胴体へと向かって泳ぎ始める。
泳ぐ?
気が付けば海水の中だった。
水かきもエラもある体に変化しており、自在に泳ぎ回ることが出来ていた。
エリック・ギルマンの失踪について恋人のソニア・マーシュは、誕生日は通常通りだったため心当たりがない と語った。
部屋には持ち出されたものも特にないようで、机の上には参考書と、彼女が誕生日プレゼントとして渡したという十字と放射線のラインが入ったバングルがあるだけであった。
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