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プロローグ〜かつての日々
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日が暮れ、空がオレンジ色に染まる。
「じゃあな」
「ばいばーい」
同級生たちと遊んでいた小学五年生の真雪は、手を振って彼らと別れた。
「帰ろっか」
真雪は、隣にいる夏尋に声をかけた。夏尋は真雪の弟だ。
「うん」
夏尋はうなずいたが、なにか言いたそうにもじもじしている。兄である真雪には、弟のそういう様子がよくわかるのだ。
「どうした?」
真雪はかがんで夏尋と目を合わせた。内気な弟は、真雪がこうしてやると話し出すことがある。
夏尋は上目遣いで言った。
「あのね、手を繋ぎたくて」
「いいよ」
真雪が夏尋の手を握ってやると、夏尋の顔がぱっと明るくなる。
夏尋は今年小学校に入ったばかりの一年生だ。引っ込み思案で、おとなしい性格をしている。
内気すぎて、夏尋はなかなか心を開かない。例外が、真雪や家族だった。同じ一年生にはうまく関われない夏尋は、真雪には心を開く。
「あ……」
夏尋が急に手を離した。道端の草むらにしゃがみ込む。なにか見つけたらしい。
「夏尋?」
真雪がのぞき込むと、夏尋は草むらを手でごそごそしていた。
「たんぽぽ」
夏尋はたんぽぽを一つ摘んで、立ち上がった。
「いいけどさ。虫ついてない? 虫いたら、母さんが嫌がるから」
真雪はそう言って、夏尋の手をまた取った。
小さい子はマイペースだな、と四歳下の弟を見て真雪は思った。
「ただいま」
真雪は夏尋と家に入った。
リビングに入ると、夏尋が真雪の服の裾を引っ張った。なにか伝えたいようだ。
「夏尋。なに?」
「これ、あげる」
夏尋が真雪に渡そうとしているのは、先ほど摘んだたんぽぽだった。
「ん、ありがと」
真雪はそれを受け取る。
真雪は正直、花をもらっても嬉しくはないけれど、もらわなかったら夏尋がかわいそうだなと思ったので、もらってやった。
「おかえり」
キッチンから母親がリビングに顔を出した。
真雪の手にあるたんぽぽを、母親は不思議そうな目で見た。
「たんぽぽ摘んできたの?」
「夏尋がくれた」
「夏尋が?」
母親は笑顔で、夏尋の目線に合うようにしゃがんだ。
「どうして花をあげたの?」
夏尋はもじもじしながら母親に答える。
「パパがママに花束渡してたから」
「ああ……。結婚記念日のときのこと?」
つい先日、父親が母親に花束をプレゼントしているのを真雪たちは見た。父親は結婚記念日に、毎年母親になにかを贈っている。
夏尋が言った。
「好きなひとには、花をあげるんでしょ?」
「ああ、そういうことね。夏尋は、真雪が好きだもんね」
母親はそう言って笑った。
夏尋は、うんうんと大きく首を振ってうなずいている。
夏尋が真雪のほうを見た。また、なにか言いたそうにしている。
「なに?」
真雪が夏尋に向かってかがんでやると、夏尋は真雪の耳元に口を寄せてきた。
こそこそ声で夏尋が言う。
「真雪、好き」
それは、さっき母親が言っていたから知っている。でも、真雪は夏尋に笑顔で答えた。
「そっか。ありがとな」
真雪が夏尋の頭をなでてやると、夏尋は嬉しそうな顔をした。
真雪は、この内気な弟が自分を慕ってくれるのが嬉しかった。頼られると、真雪はやる気が出るのだった。
友達に、妹と仲の悪い子がいる。その友達は、もっと小さい頃は仲がよかったのに、最近仲が悪くなったらしい。
いつか、夏尋も真雪のことを好きじゃなくなるときがくるんだろうか。
そう思って、真雪は少し切なくなった。
できるだけその日が遠くなるように、真雪は良い兄でいようと思った。
「じゃあな」
「ばいばーい」
同級生たちと遊んでいた小学五年生の真雪は、手を振って彼らと別れた。
「帰ろっか」
真雪は、隣にいる夏尋に声をかけた。夏尋は真雪の弟だ。
「うん」
夏尋はうなずいたが、なにか言いたそうにもじもじしている。兄である真雪には、弟のそういう様子がよくわかるのだ。
「どうした?」
真雪はかがんで夏尋と目を合わせた。内気な弟は、真雪がこうしてやると話し出すことがある。
夏尋は上目遣いで言った。
「あのね、手を繋ぎたくて」
「いいよ」
真雪が夏尋の手を握ってやると、夏尋の顔がぱっと明るくなる。
夏尋は今年小学校に入ったばかりの一年生だ。引っ込み思案で、おとなしい性格をしている。
内気すぎて、夏尋はなかなか心を開かない。例外が、真雪や家族だった。同じ一年生にはうまく関われない夏尋は、真雪には心を開く。
「あ……」
夏尋が急に手を離した。道端の草むらにしゃがみ込む。なにか見つけたらしい。
「夏尋?」
真雪がのぞき込むと、夏尋は草むらを手でごそごそしていた。
「たんぽぽ」
夏尋はたんぽぽを一つ摘んで、立ち上がった。
「いいけどさ。虫ついてない? 虫いたら、母さんが嫌がるから」
真雪はそう言って、夏尋の手をまた取った。
小さい子はマイペースだな、と四歳下の弟を見て真雪は思った。
「ただいま」
真雪は夏尋と家に入った。
リビングに入ると、夏尋が真雪の服の裾を引っ張った。なにか伝えたいようだ。
「夏尋。なに?」
「これ、あげる」
夏尋が真雪に渡そうとしているのは、先ほど摘んだたんぽぽだった。
「ん、ありがと」
真雪はそれを受け取る。
真雪は正直、花をもらっても嬉しくはないけれど、もらわなかったら夏尋がかわいそうだなと思ったので、もらってやった。
「おかえり」
キッチンから母親がリビングに顔を出した。
真雪の手にあるたんぽぽを、母親は不思議そうな目で見た。
「たんぽぽ摘んできたの?」
「夏尋がくれた」
「夏尋が?」
母親は笑顔で、夏尋の目線に合うようにしゃがんだ。
「どうして花をあげたの?」
夏尋はもじもじしながら母親に答える。
「パパがママに花束渡してたから」
「ああ……。結婚記念日のときのこと?」
つい先日、父親が母親に花束をプレゼントしているのを真雪たちは見た。父親は結婚記念日に、毎年母親になにかを贈っている。
夏尋が言った。
「好きなひとには、花をあげるんでしょ?」
「ああ、そういうことね。夏尋は、真雪が好きだもんね」
母親はそう言って笑った。
夏尋は、うんうんと大きく首を振ってうなずいている。
夏尋が真雪のほうを見た。また、なにか言いたそうにしている。
「なに?」
真雪が夏尋に向かってかがんでやると、夏尋は真雪の耳元に口を寄せてきた。
こそこそ声で夏尋が言う。
「真雪、好き」
それは、さっき母親が言っていたから知っている。でも、真雪は夏尋に笑顔で答えた。
「そっか。ありがとな」
真雪が夏尋の頭をなでてやると、夏尋は嬉しそうな顔をした。
真雪は、この内気な弟が自分を慕ってくれるのが嬉しかった。頼られると、真雪はやる気が出るのだった。
友達に、妹と仲の悪い子がいる。その友達は、もっと小さい頃は仲がよかったのに、最近仲が悪くなったらしい。
いつか、夏尋も真雪のことを好きじゃなくなるときがくるんだろうか。
そう思って、真雪は少し切なくなった。
できるだけその日が遠くなるように、真雪は良い兄でいようと思った。
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