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透瑛の青年
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ニホンという国のチャイナタウンに、龍気を取り込め、他者へ与えられる一族の生き残り、透瑛の青年がいる。
素色の髪に、透き通った白い肌がより神秘性を感じさせる青年瑛刀は、萬屋を生業としあらゆる情報を取り扱い、時には闇に紛れて暗殺も請け負う。
そのために狩りをする猟犬を飼っている。名を狼といい、れっきとした人間である。
「そう、逃げられちゃったの。なら、仕方ないね」
昨晩、透瑛の屋敷に銀髪に赤い目をした小賢しく動き回る不審者が侵入し、そのまま取り逃がした狼は、瑛刀の前に片膝をつきうなだれていた。
「僕、昨日の騒動で眠いから、夜まで寝ることにするよ」
瑛刀は狼を追い出すように寝室のドアを開け大きく欠伸する。いつもならネチネチと嫌味を言いつつ構ってくれる飼い主を不思議に思いながら、狼は瑛刀の執務室を後にした。
「さて、と⋯」
瑛刀は、のんびりとした雰囲気に似合わず、有無を言わせない態度で人払いすると、寝室へと立て籠もった。
寝台の帳に手をかけると素早く中に入り込み腰を下ろし、人の寝台ですやすやと小気味いい寝息を立てる青年の三つ編みを指で弄んだ。
「まったく呑気に寝ちゃって」
「なんだよ、寝ていいって言ったのはお前だろ」
瑛刀のボヤキに答えるように、寝息を立てていたはずの青年は目を開け、寝台に腰掛け自分を見下ろす素色の髪を乱暴に掴むと引き寄せた。
出会って間もないとは思えないほど気安い態度の青年は、名を白銀と言い、昨夜、瑛刀の寝台に不躾にも侵入し、寝首をかこうとした不審者だった。
「いいよ、どんな目的で僕の寝所に忍び込んだのか教えてくれたらね」
白銀を跨ぐように乗りかかると身動きが取れないように体重をかけた。格闘技をやっている人間でなければ逃げ出すことはかなわない。
誰とでも一線を引いて付き合っている瑛刀にとって、垣根なしに人の中に土足で踏み込んでくる白銀に戸惑いつつも、楽しくて仕方なかった。
「ばーか、それ教えたら面白くないだろ?」
軽口を叩いてニヤリと唇を歪ませた白銀は、いつの間にか瑛刀と場所を入れ替えるように押し倒し、首元に顔を埋める。
首筋の匂いを嗅ぐ仕草にくすぐったさをおぼえながら、瑛刀は白銀の思うがまま自由にさせ、身体から力を抜いて目を閉じた。
「おい、寝たら食っちまうぞ」
体の力が抜けた瑛刀を警戒させるように語気を強め、今まで匂いを嗅いでいた首元を片手で締めるように手を置いた。
その途端、不穏な雰囲気を嗅ぎ取った狼が、睡眠の邪魔にならないよう気配を消して、寝室のドアを遠慮がちにノックした。
「⋯ボス、なにかありましたか?」
「なにも⋯まだ寝たい」
「はい」
室内から衣擦れの音がして寝返りを打つ気配と、瑛刀の返事を聞いて、狼は短く返事を返した。ホントは瑛刀以外の気配を感じ、すぐさま飛び込みたい衝動を抑え、瑛刀がよしと言うまで別部屋で待機するべく、部屋を後にした。
「⋯うちのわんちゃんは番犬の役目は忘れないみたい、ふふっ食べたいんでしょう」
白銀から伝わる緊張感を無視し、命の危険を感じる場面だというのに、艷やかに微笑んだ瑛刀は自身の首元のボタンを開け、首だけでなく鎖骨辺りまで外気に触れさせるように晒した。
「お前⋯」
「瑛刀だよ、今から食べる人間の名前くらい覚えて」
白銀の首を締めていた手を握りしめ、誓いを立てるように指先に軽く口付けをする。
「ちっ、興ざめだ、食わねーよ!」
口付けられた手を払い退け、投げやりな態度で白銀は瑛刀の上から身を起こした。
「なんだ、食べたいかと思ったのに、いらないの?」
瑛刀は上半身を起こすと、神経を逆なでするように煽情的な笑みを浮かべて、白銀の耳元でしっとりとした声音で誘った。
「いらねーって言ってんだろ!」
瑛刀に殴りかかる勢いで身体を振り払い、逃げ出すように寝台の帳に手をかけた。
「またね、今度はちゃんと会いに来て、目的を果たしてね」
荒々しく寝室を後にする白銀の背に誘いの声を掛けるが、立ち止まることも返事もなく白銀は誰に見つかることもなく出ていった。
「次は、あるかな?」
誰に言うでもなく独りごちて、瑛刀はいつも手にしている黒壇の扇子を取り出し、ニヤけた口元を隠すように黒壇の扇子で唇を撫でた。
素色の髪に、透き通った白い肌がより神秘性を感じさせる青年瑛刀は、萬屋を生業としあらゆる情報を取り扱い、時には闇に紛れて暗殺も請け負う。
そのために狩りをする猟犬を飼っている。名を狼といい、れっきとした人間である。
「そう、逃げられちゃったの。なら、仕方ないね」
昨晩、透瑛の屋敷に銀髪に赤い目をした小賢しく動き回る不審者が侵入し、そのまま取り逃がした狼は、瑛刀の前に片膝をつきうなだれていた。
「僕、昨日の騒動で眠いから、夜まで寝ることにするよ」
瑛刀は狼を追い出すように寝室のドアを開け大きく欠伸する。いつもならネチネチと嫌味を言いつつ構ってくれる飼い主を不思議に思いながら、狼は瑛刀の執務室を後にした。
「さて、と⋯」
瑛刀は、のんびりとした雰囲気に似合わず、有無を言わせない態度で人払いすると、寝室へと立て籠もった。
寝台の帳に手をかけると素早く中に入り込み腰を下ろし、人の寝台ですやすやと小気味いい寝息を立てる青年の三つ編みを指で弄んだ。
「まったく呑気に寝ちゃって」
「なんだよ、寝ていいって言ったのはお前だろ」
瑛刀のボヤキに答えるように、寝息を立てていたはずの青年は目を開け、寝台に腰掛け自分を見下ろす素色の髪を乱暴に掴むと引き寄せた。
出会って間もないとは思えないほど気安い態度の青年は、名を白銀と言い、昨夜、瑛刀の寝台に不躾にも侵入し、寝首をかこうとした不審者だった。
「いいよ、どんな目的で僕の寝所に忍び込んだのか教えてくれたらね」
白銀を跨ぐように乗りかかると身動きが取れないように体重をかけた。格闘技をやっている人間でなければ逃げ出すことはかなわない。
誰とでも一線を引いて付き合っている瑛刀にとって、垣根なしに人の中に土足で踏み込んでくる白銀に戸惑いつつも、楽しくて仕方なかった。
「ばーか、それ教えたら面白くないだろ?」
軽口を叩いてニヤリと唇を歪ませた白銀は、いつの間にか瑛刀と場所を入れ替えるように押し倒し、首元に顔を埋める。
首筋の匂いを嗅ぐ仕草にくすぐったさをおぼえながら、瑛刀は白銀の思うがまま自由にさせ、身体から力を抜いて目を閉じた。
「おい、寝たら食っちまうぞ」
体の力が抜けた瑛刀を警戒させるように語気を強め、今まで匂いを嗅いでいた首元を片手で締めるように手を置いた。
その途端、不穏な雰囲気を嗅ぎ取った狼が、睡眠の邪魔にならないよう気配を消して、寝室のドアを遠慮がちにノックした。
「⋯ボス、なにかありましたか?」
「なにも⋯まだ寝たい」
「はい」
室内から衣擦れの音がして寝返りを打つ気配と、瑛刀の返事を聞いて、狼は短く返事を返した。ホントは瑛刀以外の気配を感じ、すぐさま飛び込みたい衝動を抑え、瑛刀がよしと言うまで別部屋で待機するべく、部屋を後にした。
「⋯うちのわんちゃんは番犬の役目は忘れないみたい、ふふっ食べたいんでしょう」
白銀から伝わる緊張感を無視し、命の危険を感じる場面だというのに、艷やかに微笑んだ瑛刀は自身の首元のボタンを開け、首だけでなく鎖骨辺りまで外気に触れさせるように晒した。
「お前⋯」
「瑛刀だよ、今から食べる人間の名前くらい覚えて」
白銀の首を締めていた手を握りしめ、誓いを立てるように指先に軽く口付けをする。
「ちっ、興ざめだ、食わねーよ!」
口付けられた手を払い退け、投げやりな態度で白銀は瑛刀の上から身を起こした。
「なんだ、食べたいかと思ったのに、いらないの?」
瑛刀は上半身を起こすと、神経を逆なでするように煽情的な笑みを浮かべて、白銀の耳元でしっとりとした声音で誘った。
「いらねーって言ってんだろ!」
瑛刀に殴りかかる勢いで身体を振り払い、逃げ出すように寝台の帳に手をかけた。
「またね、今度はちゃんと会いに来て、目的を果たしてね」
荒々しく寝室を後にする白銀の背に誘いの声を掛けるが、立ち止まることも返事もなく白銀は誰に見つかることもなく出ていった。
「次は、あるかな?」
誰に言うでもなく独りごちて、瑛刀はいつも手にしている黒壇の扇子を取り出し、ニヤけた口元を隠すように黒壇の扇子で唇を撫でた。
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