玖竜の末裔

加納ひより

文字の大きさ
1 / 1

透瑛の青年

しおりを挟む
 ニホンという国のチャイナタウンに、龍気を取り込め、他者へ与えられる一族の生き残り、透瑛とうあの青年がいる。
 素色しろいろの髪に、透き通った白い肌がより神秘性を感じさせる青年瑛刀えいとは、萬屋を生業としあらゆる情報を取り扱い、時には闇に紛れて暗殺も請け負う。
 そのために狩りをする猟犬を飼っている。名をろうといい、れっきとした人間である。

「そう、逃げられちゃったの。なら、仕方ないね」
 昨晩、透瑛の屋敷に銀髪に赤い目をした小賢しく動き回る不審者が侵入し、そのまま取り逃がした狼は、瑛刀の前に片膝をつきうなだれていた。
「僕、昨日の騒動で眠いから、夜まで寝ることにするよ」
 瑛刀は狼を追い出すように寝室のドアを開け大きく欠伸する。いつもならネチネチと嫌味を言いつつ構ってくれる飼い主を不思議に思いながら、狼は瑛刀の執務室を後にした。
「さて、と⋯」
 瑛刀は、のんびりとした雰囲気に似合わず、有無を言わせない態度で人払いすると、寝室へと立て籠もった。
 寝台の帳に手をかけると素早く中に入り込み腰を下ろし、人の寝台ですやすやと小気味いい寝息を立てる青年の三つ編みを指で弄んだ。
「まったく呑気に寝ちゃって」
「なんだよ、寝ていいって言ったのはお前だろ」
 瑛刀のボヤキに答えるように、寝息を立てていたはずの青年は目を開け、寝台に腰掛け自分を見下ろす素色の髪を乱暴に掴むと引き寄せた。
 出会って間もないとは思えないほど気安い態度の青年は、名を白銀しろがねと言い、昨夜、瑛刀の寝台に不躾にも侵入し、寝首をかこうとした不審者だった。
「いいよ、どんな目的で僕の寝所に忍び込んだのか教えてくれたらね」
 白銀を跨ぐように乗りかかると身動きが取れないように体重をかけた。格闘技をやっている人間でなければ逃げ出すことはかなわない。
 誰とでも一線を引いて付き合っている瑛刀にとって、垣根なしに人の中に土足で踏み込んでくる白銀に戸惑いつつも、楽しくて仕方なかった。
「ばーか、それ教えたら面白くないだろ?」
 軽口を叩いてニヤリと唇を歪ませた白銀は、いつの間にか瑛刀と場所を入れ替えるように押し倒し、首元に顔を埋める。
 首筋の匂いを嗅ぐ仕草にくすぐったさをおぼえながら、瑛刀は白銀の思うがまま自由にさせ、身体から力を抜いて目を閉じた。
「おい、寝たら食っちまうぞ」
 体の力が抜けた瑛刀を警戒させるように語気を強め、今まで匂いを嗅いでいた首元を片手で締めるように手を置いた。

 その途端、不穏な雰囲気を嗅ぎ取った狼が、睡眠の邪魔にならないよう気配を消して、寝室のドアを遠慮がちにノックした。
「⋯ボス、なにかありましたか?」
「なにも⋯まだ寝たい」
「はい」
 室内から衣擦れの音がして寝返りを打つ気配と、瑛刀の返事を聞いて、狼は短く返事を返した。ホントは瑛刀以外の気配を感じ、すぐさま飛び込みたい衝動を抑え、瑛刀がよしと言うまで別部屋で待機するべく、部屋を後にした。

「⋯うちのわんちゃんは番犬の役目は忘れないみたい、ふふっ食べたいんでしょう」
 白銀から伝わる緊張感を無視し、命の危険を感じる場面だというのに、艷やかに微笑んだ瑛刀は自身の首元のボタンを開け、首だけでなく鎖骨辺りまで外気に触れさせるように晒した。
「お前⋯」
「瑛刀だよ、今から食べる人間の名前くらい覚えて」
 白銀の首を締めていた手を握りしめ、誓いを立てるように指先に軽く口付けをする。
「ちっ、興ざめだ、食わねーよ!」
 口付けられた手を払い退け、投げやりな態度で白銀は瑛刀の上から身を起こした。
「なんだ、食べたいかと思ったのに、いらないの?」
 瑛刀は上半身を起こすと、神経を逆なでするように煽情的な笑みを浮かべて、白銀の耳元でしっとりとした声音で誘った。
「いらねーって言ってんだろ!」
 瑛刀に殴りかかる勢いで身体を振り払い、逃げ出すように寝台の帳に手をかけた。
「またね、今度はちゃんと会いに来て、目的を果たしてね」
 荒々しく寝室を後にする白銀の背に誘いの声を掛けるが、立ち止まることも返事もなく白銀は誰に見つかることもなく出ていった。

「次は、あるかな?」
 誰に言うでもなく独りごちて、瑛刀はいつも手にしている黒壇の扇子を取り出し、ニヤけた口元を隠すように黒壇の扇子で唇を撫でた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜

紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...