花が落ちても

頼守 シロロ

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やっぱりね。こうなると思った。

鼻歌を歌いつつ、送信されて来たメッセージを思い出して、つい、ニヤニヤしてしまう。

休日の今日にしか出来ない時間の掛かるお菓子作りをこなしつつ、待ち時間に、くるくると踊っていた私は、頭を左右から手で挟まれてピタリとその場に止まった。

「ちょっと危ないでしょ。」
「危ないのはお前の方。」

下を見ろ、と言われて目を向けた先には、プルプルと震えていた従姉妹の子供が二人、私の足元の直ぐ側で床に座っていた。
わあ、あと3歩もしたら踏んじゃいそうな距離感。

サクの手をベリッと剥がし、二人に慌てて謝ると、もう我慢出来ないと言う風に笑い出しながらも大丈夫だと返された。

そんなに可笑しかったかな。

「こっち見んな。」
「いやでも、どっちだと思う?鼻歌と踊り。」
「いつも思ってるけどどっちも面白い。」

……参考にしない程度に参考にしよう。もう一回やって、と、纏わり付いて来たチビちゃん達の頭を撫でつつ、また後でねと約束してから、良い匂いのして来たキッチンに戻った。

中学が同じだったものの、高校から友人になった私の友人、花村真梨と兄のカグロの結婚式の招待状が送られて来たのは、その日から二週間後だった。

「何でめでたい席に出たその日に、ここに来てるんだよ。」
「やばいなって。全然、男のおの字も無い娘に焦って見合いを寄越して来る親戚のおばちゃんまで味方に付けた親ほど面倒なものは無いってしってるでしょ。」

と言うかそれを言うならサクもそうじゃん、とも付け足しておいた。

いつもの川原。二人して、こうして、座っていると、あの時の事を思い出してしまう。

前に家を出てしまうんじゃと心配していた方が、早々に家を出て更には結婚まで一番早く済ませて、心配されていた方がいつまでも家に居残っているーーいや、仕事の関係でよく海外とか地方に遠征に行くし、家に居るのも半年位なんだけどーーなんて、とんだ笑い話だ。

何故か、あの日の翌日から、単なるシスコンとブラコンに成り下がってしまった隣の兄は、今日は割と昔みたいな感じがした。
ドライで、クールで、ちょっとブラコンで、私との見えない壁を作っている、同じ家に住んでいるだけの人。よりかは、大分、身近な存在になったけれど。いや、なり過ぎた。

「結婚したいの?お兄さん悲しいなー、弟だけでなく妹まで出て行っちゃうなんて。」

はぁ?とか言いたくなったが、本気でそう思ってはいないので我慢我慢。

「もし、気になる奴が居るなら早く教えろよ?俺よりも格好良くて金持ちで性格が良くないと駄目だからな。」

はい優勝。既に性格の点に置いては、この時点で私の見知らぬ結婚相手の方が勝ちが確定しまいたハイ拍手ー。もっと良いよーほら拍手もっとしてー。

「痛っ。」

いや、そのデコピン何?唐突過ぎて驚いたんだけど。

「下らない事考えてたろ。」
「話聞いてなくてすみませんでした。」
「素直に謝って宜しい。」
「ぷっ。」

社会人にもなって、こんなやり取りが出来る兄妹なんて珍しいんだろうか。

ま、そんなのどうでも良いんだけどね。ああそうだった。今が良いタイミングかも。

「あのさ。」
「ん?」

やっぱりあの日みたいだとこっそりと笑う。

「アキラ君って知ってる?」
「それって、カグロの親友だったやつ?」
「そう。それで、今は親戚になった人。」

私の友達の真梨の兄でもあったその人とよく話す様になった切っ掛けは、サクのブラコンムーブに嫌気が差した当時のカグロが原因だった。
彼は、しつこいブラコンから何かと逃げる為に、囮として私を使う様になりーーあの真面目一直線さんだった子がね。ほろりーー、その度に、それぞれがお互いによく一緒に居た相手、詰まりは、真梨とカグロ、そして、私とアキラ君とが頻繁に顔を合わせていたからだったと思う。

帰宅部だった私と彼とが、偶に帰り道に一緒になって、駅まで歩いたりとかもあって、そう言う事が小さく積み重なっていって。それで。

「ほーん。で?そいつが何だって?」

シスコン味がじんわりと顔を覗かせた表情をしている男の鼻を突きたくなりつつも、世界的に有名になりつつある男の顔に何かしたら恨みを買いかねないと、小心者らしく慎ましやかに大人しく口を開いた。

「アキラ君の移籍が決まったから。」

ヘッドハンティングされたとかで。

「私もそれに付いていこうかなって話になって。」

何だそれって顔がちょっと面白かった。

「だから、結局、最後に家を出る、いや、出ないのはサクになるねって思ったって話。」
「そうじゃないだろうが。」

あてっ。チョップされるとは思わなかった。シスコンの癖に。




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