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3. 黄金の先行者:帝天蜂
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図1. 生存している帝天蜂個体の写真(事案10902時に密かに撮影)
#### 1. 名前
- **和名**: 帝天蜂(ててんばち)
- **学名**: *Apis imperialis panoptica*
- **別名**: 南極蜂、金色の房蜂
---
#### 2. 基本情報
- **全長**: 2~4 cm(標準的な蜂と同程度)
- **形状**:
基本的には地球の蜂に似るが、グラフェンとキチン質、貴金属が層状に融合した外骨格によって強化され、外観上金属光沢を持つ。
触覚や複眼は高感度センサー化され、情報処理能力が極めて高い。翅(はね)にもエネルギー収集や通信機能(微小電気機械システム(MEMS)アンテナによる)が付加されている。
電波による遠隔的なエネルギー供給を備え、更に背部に内蔵された、高周波振動を発生させるアクチュエーターにより強力な推進力を持つ。
サーモクロミック材料(温度応答性色素)により、極端な温度変化に適応しており、また酸素を必要としない代謝システム(バイオ電磁共鳴と仮称)を構築しているため、無線エネルギー供給を受けることで真空環境下でも生存可能。これらから、宇宙空間での活動に適応していると見られる。
- **生息地**: 南極上空成層圏に漂う巨大な巣が主な営巣地。巣は金属光沢を帯びた「ブドウの房」状の構造。
- **個体数**: 1巣あたり1,000万~1億匹以上の蜂が生息すると推測される。現在、確認されている巣は4つ以上、各巣が独立した集団知性を形成している。
---
#### 3. 概要
- **特殊性・異常能力**:
帝天蜂の最大の特徴は、【巣の構造と役割分担に基づく集団知性と超効率的な生産性】である。パノプティコン型の巣構造により、すべての個体を監視可能な環境が実現され、非効率な行動が完全に排除されている。
ぶどうの房状の巣の「実」に当たる各セクションには中央部に監視球が配置され、監視蜂(特定のオス蜂)が周囲のすべての働き蜂の活動をリアルタイムで監視している。
監視球には高度な演算機能が搭載されており、生産効率や行動パターンを分析して不適合な行動を是正する(食料供給の遮断や直接的な処刑が行われているとみられる)。これにより全個体が完全に生産的な活動に従事し、通常では働き蜂の中に生じる「怠け者」の蜂が発生しない。 監視球は時に二重、三重に形成される。
また、セクションの生産性を最大化することに成功した優秀な監視蜂が女王蜂と交配することで、性淘汰による知能強化が進行し、集団全体の工業力や知識が爆発的に発展したと見られる。現時点での帝天蜂の科学力は人類に匹敵し、一部ではそれを凌駕する可能性がある。
注
パノプティコン:
パノプティコンは、18世紀の哲学者ジェレミー・ベンサムが提唱した設計思想で、中央から全方向を監視できる円形構造のことを指す。この構造では、監視される側が常に「見られているかもしれない」という意識を持つため、効率的な管理が可能になる。帝天蜂は進化の過程で偶然に三次元的な(球状の)パノプティコン構造を完成させ、全個体の行動を最適化することで、生産性を飛躍的に向上させたと考えられている。
- **習性・食性・繁殖**:
現在は地上資源への依存を完全に断ち切り、巣内でエネルギーと物資を循環させる自給自足型のシステムを構築している。
帝天蜂は巣内で培養された「疑似植物」と共生しており、高度なエネルギーと資源の循環を果たしている。この疑似植物は、金、パラジウム、有機物を基に作られた効率的な光合成機構を持ち、巣全体のエネルギーと栄養供給の中枢を担う。疑似植物は巣内で光をエネルギーに変換し、帝天蜂の消化器官に適合した栄養素を直接生成する。結果として、一部の貴金属を除いてほとんど地上の資源に依存していない。
この疑似植物は帝天蜂が何らかの植物または菌類を家畜化したうえで、遺伝子的/光学的な改造を加えたものと思われるが、詳細は明らかになっていない。
また巣の内部には「監視蜂」と「働き蜂」の他にも、技術開発、戦闘、通信など多様な役割が存在すると見られる。
女王蜂のみが卵を生むと見られるが、女王蜂が直接観察されたことがなく、繁殖行為の実態はよく分かっていない。
- **工業活動の規模**:
巣全体が1つの空中工場として機能し、ナノスケールの部品からロケットなどの大型構造物までをも製造。巣内の自動生産ラインで、人工外骨格やセンサー、通信機器などを製造している。
---
#### 4. 発見
- **最初の記録**:
西暦1000年頃に中世ヨーロッパの航海記録で「南極の空に浮かぶ金色の房」が言及されている。この記録が帝天蜂の巣の初期観測である可能性が高い。
南極へは、それ以前に南米もしくは南アフリカから進出したとみられるが、帝天蜂はすでに自分自身の遺伝子改変を行っているうえ、自らの起源・歴史に全く興味を持たないので、どの現生種に由来するのかは不明確である。いずれにせよ、極限環境や高高度への対応能力を得たことで、天敵のいない南極上空に進出したものと思われる。
- **地上落下個体の発見と解剖**:
西暦1952年、南極遠征隊が地上に落下した帝天蜂の死骸を回収。解剖の結果、外骨格の内部には微細な回路とバイオメカニカルな構造が確認され、生物と人工機械が融合した存在であることが判明した。
- **宇宙活動の進展**:
西暦1700年頃には、既に宇宙への進出を開始していた痕跡がある。20世紀以降、成層圏での観測技術が発達すると同時に、その異常な生活様式が徐々に明らかとなった。
---
#### 5. 実験記録の抜粋
- **試みられた接触**:
後述の記録を参照。
- **巣材の分析**:
回収された微細な巣材断片から、貴金属(主に金とパラジウム)の骨格構造と蜜蝋由来の有機物質が検出された。これらが極めて高度に結合している。
---
#### 6. 仮説と理論
- **現象の影響**:
帝天蜂の存在は地球上の生態系に直接的な影響を与えていない。しかし、その科学技術力は人類に匹敵するか、それを超える可能性がある。宇宙への進出を果たしており、太陽系外の探査を進行中であると推測される。最新の観測機器によれば、木星の衛星エウロパの南極点付近には、既に光学迷彩を装備した帝天蜂の巣が存在しているとみられる。
---
###付録: 帝天蜂との初接触記録
**交信方法:**
- 知性体の巣に向けて、レーザー通信装置を用いた光信号による接触を試みた。
- 人類側が知性の確認のためにフィボナッチ数列と素数列を用いたメッセージを送信している間に、蜂側は英語をもとにした簡単な暗号通信を送信。人類側は同様の形式を用いて返信した。
---
**交信記録(抄録)**
**日付:** 1984年2月15日
**場所:** 南極大陸、ノースリッジ観測基地
**交信対象:**
---
#### **人間側:**
```
[送信]
This is a message from the human species. We mean no harm and wish to communicate peacefully. Can you understand us?
(こちらは人類です。我々は害をなす意図はなく、平和的な意思で通信を試みています。理解できますか?)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
I know.
(分かっている。)
```
---
#### **人間側:**
```
[送信]
We have observed your hive's advanced technology. Your presence is extraordinary. Can we learn from you?
(我々はあなた方の巣の高度な技術を観測しました。その存在は驚異的です。学ばせていただけませんか?)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
No.
(だめだ。)
```
---
#### **人間側:**
```
[送信]
Our civilization is exploring space. Cooperation with you could benefit both of us.
(我々の文明は宇宙を探求しています。あなた方との協力は双方に利益をもたらすでしょう。)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
Irrelevant.
(無関係だ。)
```
---
#### **人間側:**
```
[送信]
Conflicts between us would only result in mutual misfortune. We prefer coexistence.
(我々の間での衝突は相互の不幸にしかなりません。我々は共存を望みます。)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
Understood.
(理解した。)
```
---
#### **人間側:**
```
[送信]
We noticed that your hive floats in the sky. Can you explain this technology?
(あなた方の巣が空中に浮かんでいるのを観測しました。この技術について説明していただけますか?)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
No explanation.
(説明しない。)
```
---
**交信後の出来事:**
- 帝天蜂は、2時間後には光学迷彩を完成・起動させ、巣全体が地上から完全に見えなくなった。
---
### 帝天蜂との交渉記録
**日時:** 1984年3月10日
**場所:** 南極大陸ノースリッジ観測基地
**目的:** 環境問題、資源利用、宇宙開発における相互理解と技術協力の可能性について交渉
---
**交信記録(抄録)**
#### **人間側:**
```
[送信]
This is humanity speaking again. We wish to discuss pressing global issues: the ozone layer, sustainable energy, and space development.
(再び通信します。我々はオゾン層、持続可能なエネルギー、宇宙開発といった差し迫った地球規模の問題について話し合いたいと思います。)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
Swellheads. Talk too much.
(膨れ頭ども。話が多い。)
```
---
#### **人間側:**
```
[送信]
We recognize the seriousness of our environmental impact. Can you provide us with technology to repair the ozone layer?
(我々は環境への影響の深刻さを認識しています。オゾン層を修復する技術を提供していただけませんか?)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
No. Not ours to fix.
(いや。それは我々の問題ではない。)
```
---
#### **人間側:**
```
[送信]
Humanity's energy crisis is growing. Do you have knowledge of sustainable energy systems, like clean nuclear power?
(人類のエネルギー危機は深刻化しています。クリーンな原子力発電のような持続可能なエネルギーシステムの知識をお持ちではないでしょうか?)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
You burn. Your problem.
(お前たちが燃やしている。それはお前たちの問題だ。)
```
---
#### **人間側:**
```
[送信]
We are planning to develop lunar colonies. Can you assist us in improving spaceflight technology?
(月面植民地の開発を計画しています。宇宙飛行技術の改善を助けていただけませんか?)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
Moon is dull. No interest.
(月は退屈だ。興味ない。)
```
---
#### **人間側:**
```
[送信]
Then at least consider the possibility of exchanging information for mutual benefit.
(せめて相互利益のために情報交換の可能性を検討していただけませんか?)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
No exchange. We remain. You remain. No explanation.
(交換しない。我々はここに留まる。お前たちはお前たちの場所に留まれ。何も共有する情報はない。)
```
---
#### **人間側:**
```
[送信]
If we cannot exchange, we propose a non-interference pact. Mutual avoidance of conflict is the only rational course.
(交換できないのであれば、相互不干渉条約を提案します。衝突を避けることが唯一の理性的な道筋です。)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
Rational. Do not disturb.
(理性的だ。邪魔するな。)
```
---
上記交信の直後、帝天蜂側からの追加通信。
#### **帝天蜂:**
```
[送信]
Swellhead, additional matter requires discussion.
(脳腫れよ、追加の問題について議論が必要だ。)
```
#### **人間側:**
```
[応答]
We are listening. What matter do you wish to discuss?
(伺います。どのような問題について議論したいのですか?)
#### **帝天蜂:**
```
[送信]
Extraterrestrial life. Discuss.
(地球外生命体。議論せよ。)
```
#### **人間側:**
```
[送信]
We understand the possibility of extraterrestrial life. Do you know something we don’t?
(地球外生命体の可能性は理解しています。何か我々が知らないことを知っていますか?)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
……(しばらくの沈黙)
No. But prepare. Representation.
(知らない。だが備えよ。代表権。)
```
---
#### **人間側:**
```
[送信]
Are you suggesting we discuss who should act as Earth's representative if contact is made?
(地球外生命体からの接触があった場合、地球の代表を誰が務めるべきかという話ですか?)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
Yes.
(そうだ。)
```
---
#### **人間側:**
```
[送信]
Are you proposing that you should represent Earth? This is a significant issue. Humanity believes it should represent itself. However, if you wish, we could negotiate a shared representation through consensus.
(あなた方が地球を代表したいという提案ですか?これは重大な問題です。人類は自分たちを代表するべきだと考えています。ただし、望むのであれば、合議による共同的な代表権を交渉する余地はあります。)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
No. Swellheads must do it.
(いや。膨れ頭どもがやれ。)
```
#### **人間側:**
```
[送信]
We are grateful that you trust me, but……, why do you insist we take on this responsibility? Surely your intelligence and technology would make you more suited for such a role.
(なぜこの責任を我々に押し付けるのですか?あなた方の高度な知性と技術なら、むしろこの役割に適しているはずです。)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
No. Representation must be Swellhead.
(違う。代表は脳腫れでなければならない。)
```
#### **人間側:**
```
[送信]
We need to understand. What risks are associated with such representation? Why are you so insistent?
(我々は理解する必要があります。この代表にはどのようなリスクが伴うのですか?なぜそこまで強く主張するのですか?)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
(笑うような断続的な信号の後※に、しばらく沈黙があって)
No risk for us. High risk for you. Essential you proceed.
(我々にはリスクなし。お前たちには高リスク。しかし、お前たちが進むことが不可欠だ。)
```
※:通信分析官には威圧的なユーモア、もしくは警告と解釈された。
#### **人間側:**
```
[送信]
If you know anything, could you please explain that to us?
(なにか知っているなら、そのことについて我々に説明いただけないですか?)
```
#### **帝天蜂:**
```
[送信]
No explanation.
(説明しない。)
```
#### **人間側:**
```
[送信]
Understood. If extraterrestrial contact occurs, we will assume the role of representatives. We hope to avoid unnecessary risks.
(分かりました。地球外生命体との接触が発生した場合、我々が代表を務めます。不要なリスクを避けられることを願います。)
```
#### **帝天蜂:**
```
[送信]
Wise. Suitable.
(賢明だ。適任だ。)
```
上記はこれまで帝天蜂と行われた中で最長のインタビューである。
### 7. 文献と脚注
- **S. Hawthorn**
「南極成層圏における未知生物の生態調査」
*生態科学年報* 第27巻, 1978年
- **G. Martín, E. Kalder**
「帝天蜂の疑似植物: 生物と人工構造の境界」
*Journal of Synthetic Biology*, 2019年
- **L. Beaumont**
「監視球の機能とパノプティコン構造の効率化」
*科学技術レビュー*, 2015年
- **T. Hargreaves**
「帝天蜂の進化過程における性淘汰の影響」
*進化生物学会報告*, 2013年
- **S. Hawthorn**
「南極の空に漂う金属巣: 帝天蜂の工業活動についての考察」
*国際科学通信*, 1986年
- **M. A. Dobbs**
「帝天蜂とその集団知性システム」
*知的生命体*, 2001年
- **H. Kurosawa**
「帝天蜂と地球外探査の関係」
*宇宙生態学会誌*, 2020年
- **C. van der Veen**
「地上落下した帝天蜂の解剖報告」
*南極探査報告書*, 1955年
- **E. Wagner**
「帝天蜂のエネルギー循環: 太陽光と疑似植物の役割」
*再生可能エネルギー研究報告*, 2011年
- **S. Nakamura**
「帝天蜂の巣材: 貴金属と蜜蝋ハイブリッドの詳細解析」
*材料科学レビュー*, 1993年
- **A. Bertrand**
「帝天蜂の宇宙活動: 未確認飛行物体の追跡」
*国際宇宙探査会報告*, 1977年
- **F. Mori**
「南極上空の帝天蜂: 歴史と伝承の再検証」
*世界伝承研究*, 1982年
- **J. Conway**
「南極の生態的異常: 帝天蜂が及ぼす潜在的影響」
*環境科学ジャーナル*, 1995年
- **Z. Albrecht**
「帝天蜂の工業力」
*知的生命体*, 2014年
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#### 1. 名前
- **和名**: 帝天蜂(ててんばち)
- **学名**: *Apis imperialis panoptica*
- **別名**: 南極蜂、金色の房蜂
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#### 2. 基本情報
- **全長**: 2~4 cm(標準的な蜂と同程度)
- **形状**:
基本的には地球の蜂に似るが、グラフェンとキチン質、貴金属が層状に融合した外骨格によって強化され、外観上金属光沢を持つ。
触覚や複眼は高感度センサー化され、情報処理能力が極めて高い。翅(はね)にもエネルギー収集や通信機能(微小電気機械システム(MEMS)アンテナによる)が付加されている。
電波による遠隔的なエネルギー供給を備え、更に背部に内蔵された、高周波振動を発生させるアクチュエーターにより強力な推進力を持つ。
サーモクロミック材料(温度応答性色素)により、極端な温度変化に適応しており、また酸素を必要としない代謝システム(バイオ電磁共鳴と仮称)を構築しているため、無線エネルギー供給を受けることで真空環境下でも生存可能。これらから、宇宙空間での活動に適応していると見られる。
- **生息地**: 南極上空成層圏に漂う巨大な巣が主な営巣地。巣は金属光沢を帯びた「ブドウの房」状の構造。
- **個体数**: 1巣あたり1,000万~1億匹以上の蜂が生息すると推測される。現在、確認されている巣は4つ以上、各巣が独立した集団知性を形成している。
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#### 3. 概要
- **特殊性・異常能力**:
帝天蜂の最大の特徴は、【巣の構造と役割分担に基づく集団知性と超効率的な生産性】である。パノプティコン型の巣構造により、すべての個体を監視可能な環境が実現され、非効率な行動が完全に排除されている。
ぶどうの房状の巣の「実」に当たる各セクションには中央部に監視球が配置され、監視蜂(特定のオス蜂)が周囲のすべての働き蜂の活動をリアルタイムで監視している。
監視球には高度な演算機能が搭載されており、生産効率や行動パターンを分析して不適合な行動を是正する(食料供給の遮断や直接的な処刑が行われているとみられる)。これにより全個体が完全に生産的な活動に従事し、通常では働き蜂の中に生じる「怠け者」の蜂が発生しない。 監視球は時に二重、三重に形成される。
また、セクションの生産性を最大化することに成功した優秀な監視蜂が女王蜂と交配することで、性淘汰による知能強化が進行し、集団全体の工業力や知識が爆発的に発展したと見られる。現時点での帝天蜂の科学力は人類に匹敵し、一部ではそれを凌駕する可能性がある。
注
パノプティコン:
パノプティコンは、18世紀の哲学者ジェレミー・ベンサムが提唱した設計思想で、中央から全方向を監視できる円形構造のことを指す。この構造では、監視される側が常に「見られているかもしれない」という意識を持つため、効率的な管理が可能になる。帝天蜂は進化の過程で偶然に三次元的な(球状の)パノプティコン構造を完成させ、全個体の行動を最適化することで、生産性を飛躍的に向上させたと考えられている。
- **習性・食性・繁殖**:
現在は地上資源への依存を完全に断ち切り、巣内でエネルギーと物資を循環させる自給自足型のシステムを構築している。
帝天蜂は巣内で培養された「疑似植物」と共生しており、高度なエネルギーと資源の循環を果たしている。この疑似植物は、金、パラジウム、有機物を基に作られた効率的な光合成機構を持ち、巣全体のエネルギーと栄養供給の中枢を担う。疑似植物は巣内で光をエネルギーに変換し、帝天蜂の消化器官に適合した栄養素を直接生成する。結果として、一部の貴金属を除いてほとんど地上の資源に依存していない。
この疑似植物は帝天蜂が何らかの植物または菌類を家畜化したうえで、遺伝子的/光学的な改造を加えたものと思われるが、詳細は明らかになっていない。
また巣の内部には「監視蜂」と「働き蜂」の他にも、技術開発、戦闘、通信など多様な役割が存在すると見られる。
女王蜂のみが卵を生むと見られるが、女王蜂が直接観察されたことがなく、繁殖行為の実態はよく分かっていない。
- **工業活動の規模**:
巣全体が1つの空中工場として機能し、ナノスケールの部品からロケットなどの大型構造物までをも製造。巣内の自動生産ラインで、人工外骨格やセンサー、通信機器などを製造している。
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#### 4. 発見
- **最初の記録**:
西暦1000年頃に中世ヨーロッパの航海記録で「南極の空に浮かぶ金色の房」が言及されている。この記録が帝天蜂の巣の初期観測である可能性が高い。
南極へは、それ以前に南米もしくは南アフリカから進出したとみられるが、帝天蜂はすでに自分自身の遺伝子改変を行っているうえ、自らの起源・歴史に全く興味を持たないので、どの現生種に由来するのかは不明確である。いずれにせよ、極限環境や高高度への対応能力を得たことで、天敵のいない南極上空に進出したものと思われる。
- **地上落下個体の発見と解剖**:
西暦1952年、南極遠征隊が地上に落下した帝天蜂の死骸を回収。解剖の結果、外骨格の内部には微細な回路とバイオメカニカルな構造が確認され、生物と人工機械が融合した存在であることが判明した。
- **宇宙活動の進展**:
西暦1700年頃には、既に宇宙への進出を開始していた痕跡がある。20世紀以降、成層圏での観測技術が発達すると同時に、その異常な生活様式が徐々に明らかとなった。
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#### 5. 実験記録の抜粋
- **試みられた接触**:
後述の記録を参照。
- **巣材の分析**:
回収された微細な巣材断片から、貴金属(主に金とパラジウム)の骨格構造と蜜蝋由来の有機物質が検出された。これらが極めて高度に結合している。
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#### 6. 仮説と理論
- **現象の影響**:
帝天蜂の存在は地球上の生態系に直接的な影響を与えていない。しかし、その科学技術力は人類に匹敵するか、それを超える可能性がある。宇宙への進出を果たしており、太陽系外の探査を進行中であると推測される。最新の観測機器によれば、木星の衛星エウロパの南極点付近には、既に光学迷彩を装備した帝天蜂の巣が存在しているとみられる。
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###付録: 帝天蜂との初接触記録
**交信方法:**
- 知性体の巣に向けて、レーザー通信装置を用いた光信号による接触を試みた。
- 人類側が知性の確認のためにフィボナッチ数列と素数列を用いたメッセージを送信している間に、蜂側は英語をもとにした簡単な暗号通信を送信。人類側は同様の形式を用いて返信した。
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**交信記録(抄録)**
**日付:** 1984年2月15日
**場所:** 南極大陸、ノースリッジ観測基地
**交信対象:**
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#### **人間側:**
```
[送信]
This is a message from the human species. We mean no harm and wish to communicate peacefully. Can you understand us?
(こちらは人類です。我々は害をなす意図はなく、平和的な意思で通信を試みています。理解できますか?)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
I know.
(分かっている。)
```
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#### **人間側:**
```
[送信]
We have observed your hive's advanced technology. Your presence is extraordinary. Can we learn from you?
(我々はあなた方の巣の高度な技術を観測しました。その存在は驚異的です。学ばせていただけませんか?)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
No.
(だめだ。)
```
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#### **人間側:**
```
[送信]
Our civilization is exploring space. Cooperation with you could benefit both of us.
(我々の文明は宇宙を探求しています。あなた方との協力は双方に利益をもたらすでしょう。)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
Irrelevant.
(無関係だ。)
```
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#### **人間側:**
```
[送信]
Conflicts between us would only result in mutual misfortune. We prefer coexistence.
(我々の間での衝突は相互の不幸にしかなりません。我々は共存を望みます。)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
Understood.
(理解した。)
```
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#### **人間側:**
```
[送信]
We noticed that your hive floats in the sky. Can you explain this technology?
(あなた方の巣が空中に浮かんでいるのを観測しました。この技術について説明していただけますか?)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
No explanation.
(説明しない。)
```
---
**交信後の出来事:**
- 帝天蜂は、2時間後には光学迷彩を完成・起動させ、巣全体が地上から完全に見えなくなった。
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### 帝天蜂との交渉記録
**日時:** 1984年3月10日
**場所:** 南極大陸ノースリッジ観測基地
**目的:** 環境問題、資源利用、宇宙開発における相互理解と技術協力の可能性について交渉
---
**交信記録(抄録)**
#### **人間側:**
```
[送信]
This is humanity speaking again. We wish to discuss pressing global issues: the ozone layer, sustainable energy, and space development.
(再び通信します。我々はオゾン層、持続可能なエネルギー、宇宙開発といった差し迫った地球規模の問題について話し合いたいと思います。)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
Swellheads. Talk too much.
(膨れ頭ども。話が多い。)
```
---
#### **人間側:**
```
[送信]
We recognize the seriousness of our environmental impact. Can you provide us with technology to repair the ozone layer?
(我々は環境への影響の深刻さを認識しています。オゾン層を修復する技術を提供していただけませんか?)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
No. Not ours to fix.
(いや。それは我々の問題ではない。)
```
---
#### **人間側:**
```
[送信]
Humanity's energy crisis is growing. Do you have knowledge of sustainable energy systems, like clean nuclear power?
(人類のエネルギー危機は深刻化しています。クリーンな原子力発電のような持続可能なエネルギーシステムの知識をお持ちではないでしょうか?)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
You burn. Your problem.
(お前たちが燃やしている。それはお前たちの問題だ。)
```
---
#### **人間側:**
```
[送信]
We are planning to develop lunar colonies. Can you assist us in improving spaceflight technology?
(月面植民地の開発を計画しています。宇宙飛行技術の改善を助けていただけませんか?)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
Moon is dull. No interest.
(月は退屈だ。興味ない。)
```
---
#### **人間側:**
```
[送信]
Then at least consider the possibility of exchanging information for mutual benefit.
(せめて相互利益のために情報交換の可能性を検討していただけませんか?)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
No exchange. We remain. You remain. No explanation.
(交換しない。我々はここに留まる。お前たちはお前たちの場所に留まれ。何も共有する情報はない。)
```
---
#### **人間側:**
```
[送信]
If we cannot exchange, we propose a non-interference pact. Mutual avoidance of conflict is the only rational course.
(交換できないのであれば、相互不干渉条約を提案します。衝突を避けることが唯一の理性的な道筋です。)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
Rational. Do not disturb.
(理性的だ。邪魔するな。)
```
---
上記交信の直後、帝天蜂側からの追加通信。
#### **帝天蜂:**
```
[送信]
Swellhead, additional matter requires discussion.
(脳腫れよ、追加の問題について議論が必要だ。)
```
#### **人間側:**
```
[応答]
We are listening. What matter do you wish to discuss?
(伺います。どのような問題について議論したいのですか?)
#### **帝天蜂:**
```
[送信]
Extraterrestrial life. Discuss.
(地球外生命体。議論せよ。)
```
#### **人間側:**
```
[送信]
We understand the possibility of extraterrestrial life. Do you know something we don’t?
(地球外生命体の可能性は理解しています。何か我々が知らないことを知っていますか?)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
……(しばらくの沈黙)
No. But prepare. Representation.
(知らない。だが備えよ。代表権。)
```
---
#### **人間側:**
```
[送信]
Are you suggesting we discuss who should act as Earth's representative if contact is made?
(地球外生命体からの接触があった場合、地球の代表を誰が務めるべきかという話ですか?)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
Yes.
(そうだ。)
```
---
#### **人間側:**
```
[送信]
Are you proposing that you should represent Earth? This is a significant issue. Humanity believes it should represent itself. However, if you wish, we could negotiate a shared representation through consensus.
(あなた方が地球を代表したいという提案ですか?これは重大な問題です。人類は自分たちを代表するべきだと考えています。ただし、望むのであれば、合議による共同的な代表権を交渉する余地はあります。)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
No. Swellheads must do it.
(いや。膨れ頭どもがやれ。)
```
#### **人間側:**
```
[送信]
We are grateful that you trust me, but……, why do you insist we take on this responsibility? Surely your intelligence and technology would make you more suited for such a role.
(なぜこの責任を我々に押し付けるのですか?あなた方の高度な知性と技術なら、むしろこの役割に適しているはずです。)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
No. Representation must be Swellhead.
(違う。代表は脳腫れでなければならない。)
```
#### **人間側:**
```
[送信]
We need to understand. What risks are associated with such representation? Why are you so insistent?
(我々は理解する必要があります。この代表にはどのようなリスクが伴うのですか?なぜそこまで強く主張するのですか?)
```
#### **帝天蜂:**
```
[応答]
(笑うような断続的な信号の後※に、しばらく沈黙があって)
No risk for us. High risk for you. Essential you proceed.
(我々にはリスクなし。お前たちには高リスク。しかし、お前たちが進むことが不可欠だ。)
```
※:通信分析官には威圧的なユーモア、もしくは警告と解釈された。
#### **人間側:**
```
[送信]
If you know anything, could you please explain that to us?
(なにか知っているなら、そのことについて我々に説明いただけないですか?)
```
#### **帝天蜂:**
```
[送信]
No explanation.
(説明しない。)
```
#### **人間側:**
```
[送信]
Understood. If extraterrestrial contact occurs, we will assume the role of representatives. We hope to avoid unnecessary risks.
(分かりました。地球外生命体との接触が発生した場合、我々が代表を務めます。不要なリスクを避けられることを願います。)
```
#### **帝天蜂:**
```
[送信]
Wise. Suitable.
(賢明だ。適任だ。)
```
上記はこれまで帝天蜂と行われた中で最長のインタビューである。
### 7. 文献と脚注
- **S. Hawthorn**
「南極成層圏における未知生物の生態調査」
*生態科学年報* 第27巻, 1978年
- **G. Martín, E. Kalder**
「帝天蜂の疑似植物: 生物と人工構造の境界」
*Journal of Synthetic Biology*, 2019年
- **L. Beaumont**
「監視球の機能とパノプティコン構造の効率化」
*科学技術レビュー*, 2015年
- **T. Hargreaves**
「帝天蜂の進化過程における性淘汰の影響」
*進化生物学会報告*, 2013年
- **S. Hawthorn**
「南極の空に漂う金属巣: 帝天蜂の工業活動についての考察」
*国際科学通信*, 1986年
- **M. A. Dobbs**
「帝天蜂とその集団知性システム」
*知的生命体*, 2001年
- **H. Kurosawa**
「帝天蜂と地球外探査の関係」
*宇宙生態学会誌*, 2020年
- **C. van der Veen**
「地上落下した帝天蜂の解剖報告」
*南極探査報告書*, 1955年
- **E. Wagner**
「帝天蜂のエネルギー循環: 太陽光と疑似植物の役割」
*再生可能エネルギー研究報告*, 2011年
- **S. Nakamura**
「帝天蜂の巣材: 貴金属と蜜蝋ハイブリッドの詳細解析」
*材料科学レビュー*, 1993年
- **A. Bertrand**
「帝天蜂の宇宙活動: 未確認飛行物体の追跡」
*国際宇宙探査会報告*, 1977年
- **F. Mori**
「南極上空の帝天蜂: 歴史と伝承の再検証」
*世界伝承研究*, 1982年
- **J. Conway**
「南極の生態的異常: 帝天蜂が及ぼす潜在的影響」
*環境科学ジャーナル*, 1995年
- **Z. Albrecht**
「帝天蜂の工業力」
*知的生命体*, 2014年
---
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