偽りから真へ

優月ジュン(ゆづき じゅん)

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29 まだ会わせたくなかったのに。

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また葵の手を温める季節がやってきた。
俺たちは穏やかに過ごしていた。
葵も相変わらずの甘えん坊で、寒くなるとそれに拍車がかかっていた。
たぶん、くっついてると温かいから。
葵は俺で暖をとっていた。

今俺はソファーの下に座り、葵は俺の脚の間に座って大きいブランケットを掛けていた。
そんな体勢で映画を一緒に観ている。
普段の俺たちは恋愛ものは全く観ない。
でも今回は話題になった恋愛映画がサブスクに上がっていたのでそれを観ていた。

見終わると葵は後ろを振り向き俺を抱きしめた。

「この映画、すごくよかったね。たまにはこういうのもいいかも。」

葵はそう言うと俺にキスをした。

「琉佳くん、大好き。」

そう言い終わるとまたキスをした。

葵がこんなに可愛いことをしてくれるなら、また恋愛映画を観てもいいかなと思った。

葵が俺の舌を捕まえ絡ませる。
それだけで俺はスイッチが入り葵を押し倒す。
葵は…潤んだ目で俺を見つめていた…。



また今年も去年同様、年末年始の休みはゆっくりと家で過ごすことにしていた。
また雅人くんを呼んで鍋パをしたり、葵と2人でサブスクでドラマを観たり、ゲームをしたり。それから、1日中ベッドで過ごすこともあった。何度も体を重ね合わせた。
葵がもう無理だと嫌がるまで抱くことがあっても、次の日の朝にはやっぱり、葵は怒ることもなく優しい顔で俺に笑いかけてくれた。



休みが終わってしまった。
仕事中にも関わらず、俺はまだ休みの余韻に浸っていた。
楽しかったな…。
1日中葵とべったりだったから、もう頭の中は葵でいっぱいだ。
葵の優しい声が頭の中に響く。
葵の優しい笑顔が頭に思い浮かぶ。

お昼になり2人で洋食屋へと行った。
葵はやっぱりオムライスを頼んでいた。
俺も同じものを頼んだ。

「ねぇ葵、今度オムライスの作り方教えて?」
「いいよ?どういうのが作りたい?」
「どういうのって?」
「ここのお店みたいにバターライスにトロトロ玉子でデミグラスなのか、ケチャップライスに固めに焼いた玉子なのか。」

…。
確かに。
葵はどっちも作ってくれるな。

「両方。簡単な方から。」
「わかった。今度一緒に作ろうね。」

俺は葵にオムライスを作ってあげたかった。
葵が好きなものだから。

俺は今も料理の勉強中だ。
焼きそば、チャーハン、焼きうどん、野菜炒め、カレーなんかはなんとなく作れるようになっていた。

動画を見ながら作ることもあったけど、やっぱり葵の味付けが好きで、葵から教わりたいと思っていた。揚げ物も一度挑戦してみたけど、ちゃんと火が通っているのか不安になって、ついつい火を通しすぎてしまい、葵が作るようにはできなかった。だからそれ以来、揚げ物には手を出していない。葵があまりにもちゃっちゃと作ってしまうから、俺にもできるかもしれないと思ってしまったんだ。少しだけ色々と作れるようになってきていたから、そう勘違いしてしまった。

俺は自分で料理をするたびに、難しさや手間がかかるのを痛感し、今まで以上に葵に感謝をするようになっていた。


仕事が終わり葵の手を握りながら駅へと向かう。
葵の手が冷たかったら俺はその手を温めた。
家に着くとすぐに風呂を準備し、葵と一緒に温まる。葵はコロコロと笑いながら昨日見た動画の話をしていた。

いいな…こういうのいいな。
俺はなんてことのない日常に幸せを感じていた。





「琉佳ぁ」

会社を出ると俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。

…。
なんでここにいるんだ…?


それは姉の声だった。


俺は振り向いた。

「姉ちゃん…。」
「よっ。久しぶりぃ。元気してた?」
「何だよ急に。来るなら連絡してこいよ。」
「したよ?あんたがそれを無視したんでしょうが。」

…。

そうだった…。
確か3日前に連絡がきていた。俺は後で確認しようと思ってそのまま忘れてしまっていた。

「んで?何か用?」
「おーおー。相変わらずスカしてますなぁ。」
「別にスカしてないだろ。」
「それより隣にいる“かわい子ちゃん”は琉佳の彼女ちゃん?」
「…そうだけど。」

姉は葵のことをキラキラとした目で見つめていた。俺はまだ、葵に姉のことを紹介したくなかった。

「あ、あのっ。はじめまして。琉佳くんとお付き合いさせていただいてる佐倉葵です。」
「葵ちゃんかぁ。かわいいね。琉佳がいつもお世話になってます。姉の“彩芽(あやめ)”です。よろしくね。」

姉はそう言うといきなり葵に抱きついた。

これだから….
まだ会わせたくなかった…。
葵にはちゃんと説明してから会わせたかった。

姉は6歳年上で、彼氏も作らず地下アイドルなどの追っかけをしていた。
とにかく可愛い女の子が大好きなようで、色々なアイドルのライブに行っては推しを見つけ推し活に励んでいる。

「葵が困ってる。離れてくれ。」
「あははっ。ごめんごめん。」
「で、何の用?」
「こっちの方に用事があったからさ、ついでにね。これからご飯食べに行かない?」
「これからって…急だな。」
「メッセージを確認しなかったあんたがいけないんでしょ。」

俺は葵に確認した。

「え…私もいいの?」
葵は目をぱちくりとさせ俺に聞いてきた。
「もちろんだよ葵ちゃん。一緒に行こう?」
姉はそう返事をした。

それから俺たちは適当な居酒屋へと向かった。
席に着き、飲み物が届くなり姉は口を開いた。

「実はね、報告があるの。」
「なに?」
「わたくし彩芽は結婚することに決めましたっ。」
「は?彼氏いたの?」
「んー…」
「簡単な質問だろ?」
「えっとねぇ、いわゆるゼロ日婚ってやつ。」
「は?大丈夫なのかよ。」
「大丈夫大丈夫。」

姉はあっけらかんとしていた。
姉はいつもこうだ。行き当たりばったりで、のらりくらりといつも楽しそうに生きている。
今回もそんな調子で結婚を決めたのだろう。
まぁ姉の人生だから別にいいけど…。
隣に座る葵も驚いていた。

「どこで知り合ったの?」
「ライブで。そこで意気投合しちゃってさぁ、もういっそのこと結婚しちゃおっかって。」
「何歳なの?」
「私の1個上。」
「結婚とか興味あったんだ。」
「ないよ?」
「じゃあなんで。」
「まぁ1回くらいしてみてもいいかなって。人生の経験として。」

やっぱり…姉はこういうやつだ。
まぁいいや。姉には大恋愛だのなんだのって似合わないし、そのくらいの方が案外うまくいくのかもしれない。

「そっか。おめでとう。」
「ふふん。ありがと。今度紹介するねん。」

「葵ちゃんたちはどうなの?」

姉は葵にそう聞いた。“俺”にではなく“葵”に。
本当に俺に興味ないのな。

「え?あ、えっと…仲良しです。」

急に話題を振られた葵は慌ててそう返していた。
姉はずっとにこにこと葵ばかりを眺めていた。

「仲良しかぁ。葵ちゃんかわいいね。琉佳は優しい?」
「はい。すごく優しいです。」
「そっかぁ。ちゃんと愛情表現してもらってる?」
「え?」
「琉佳はちゃんと葵ちゃんに愛情表現してる?」

姉は恥ずかしいことを葵に聞いていた。

「姉ちゃん…やめてくれよ。」

俺はそう口を挟んだ。

「あんたは黙ってて。葵ちゃんどう?」
「はい。たくさん愛情表現してくれます。」

姉はニヤニヤしながら俺を見た。

はぁ…なんで俺はこんな辱めを受けなければいけないんだ…

「2人で会社から出てきたってことは、職場恋愛だよね?2人が付き合ってることは、職場の人たちは知ってるの?」

俺に聞けばいいのに。
姉はまた葵に質問していた。

「はい。知ってます。」
「そっかそっかぁ。ラブラブだねぇ。今日はこの後どっちかの家に行くの?」
「あ…」

葵は俺の顔を見た。

「俺たち一緒に住んでるんだ。」
「え?そうなの?母さん何も言ってなかったけど。」
「あー母さんにもまだ言ってない。」

姉は推し活を存分に楽しむために、実家に住んでいた。だから母の話が出てきたんだろう。

「やだもうっ。知らなかった。ちゃんと琉佳家事やってる?」

姉はまた葵に問いかけていた。
だからなんで俺に聞かないんだよ。

「はい。家事は2人でやってます。」

また姉はニヤニヤしながら俺を見た。
なんなんだよもう…。

「もういいだろ?俺のことなら俺に聞いてくれよ。」
「私はかわいい子とお話したいの。」
「はぁ…あんまり葵を困らせるなよ。」
「そんなことしないよ。私は女の子には優しいんだから。だいたい可愛くもない弟と話して何が楽しいのさ。」

はぁ…。

俺は心の中でため息を吐いた。

「葵ちゃんはきょうだいいる?」
「弟がいます。」
「おっ、うちと同じだね。弟くんとは仲はいいの?」
「いい方だと思います。」
「ははっ。そこはうちとは違うね。」

姉は笑いながらひどいことをサラリと言った。
仲が悪いわけじゃないんだから別にいいだろ。

「葵ちゃんは何歳?」
「琉佳くんと同い年です。」
「好きな食べ物は?」
「オムライスが好きです。」

こんな感じで姉の質問攻めがはじまった。

「もういいだろ。その辺にしておけよ。」

俺はまた口を挟んだ。

「推しのことを知りたいと思うのは自然なことだよ。邪魔しないで。」
「…推しって…葵はアイドルでもなんでもないだろ。」
「甘いね。身近にいる人にも私は推し活をするよ。それで私の人生は潤ってるんだから。」
「葵のことをそんなふうに見るな。」
「別にいいじゃん。あんたがこんなかわいい子を彼女にするからいけないんだよ。」

「ねぇねぇ葵ちゃん。今度2人で買い物にでも行こうよ。」
「おい。葵が困るだろ。」
「やーね。やきもち?」
「そんなんじゃない。」

こんな感じのやり取りをしばらくしていた。
結局葵と姉は連絡先を交換することになった。

「あ、お姉さんのアイコンかわいいですね。」
「やだー。彩芽ちゃんって呼んで?」
「…彩芽ちゃん。」
「やーんもうかわいい。葵ちゃんって透き通った声してるよね。耳が心地いいわ。」

…やっぱり姉弟なのか…。
俺も葵の声が大好きだ。

それから姉は少し落ち着き、俺も会話に混ぜてくれて3人で色々と話してから解散した。

「琉佳くんのお姉さんって明るい人だね。太陽みたい。」
「そんなんじゃないよ。ただあっけらかんとしてるだけ。」
「なんだかこっちまで元気をもらえる感じだよ。」
「そうか?」

俺はそう言いながらも、葵と姉が仲良さそうにしていたのは嬉しかった。
そう思うと姉のあの性格も悪くないかもと、少し思っていた。




「ねぇ、今日の夜何か食べたいものある?」

今俺たちは休憩室で弁当を食べていた。

「んー…」
「何も思い浮かばなくって。」
「じゃあ今日はどっかで食べて帰るか?」
「いいねっ。そうしよっか。」

葵は可愛く笑った。

…。
本当にかわいい。
食べてから帰ろうだなんて言わなきゃよかった。葵の笑顔を見たらすぐにでも抱きたくなってしまった。俺は葵への想いに拍車がかかっていた。

好きで好きで仕方がない。

抱きたい…。

仕事が終わり葵が以前見つけたお店に向かった。

「見て見て、これ美味しそう。」
「そうだな。じゃあそれも注文しようか。」

それから何品か注文し、2人で軽く飲むことにした。

目の前の葵はいつも通りコロコロと笑いながら楽しそうに話していた。

かわいい…。

本当になんでこんな俺のことを好きになってくれたんだろう…。
こんなヘタレな俺を。こんなダメダメな俺を…。
俺はまた白石が言っていた言葉が頭の中に響いた。

「琉佳くん?」
「ん?」
「楽しくない?」

葵が心配そうに俺を見ていた。

「ううん。楽しいよ?」

だめだな俺は本当に。葵に心配させてしまった。
それから気持ちを切り替えて葵と楽しく会話を重ねた。

帰るとすぐに葵を捕まえてベッドへと向かった。

葵の顔をしっかりと見ながら抱いていると、すぐにイキそうになった。
まだ…イキたくない…。
俺は動きを止めた。

「葵…」
「ん?」
「気持ちいい…」
「私も…」

葵の中がうねうねとしている。

「るかくん…」
「ん?」
「わたしまた…っ…」

葵の中はどんどん俺を締めつけてきた。

「イキそう?」
「…うんっ…ぎゅってしてっ…はぁっ…」

かわいい。
俺は葵を抱きしめた。
それから1回だけ奥に押し込んだ。

「…んっ…イク…っ…」
「うん。いいよ。」
「んんっっ…」

葵の体がビクンと震えた。

「また俺動いてないのにイッちゃったね。」
「…うん…。」

本当に可愛すぎる。

「るかくんだいすき。」
「俺も大好きだよ。」

なんて甘い時間なんだ…。
もうとろけてしまいそうだ…。


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