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しおりを挟む「懐かしいよな。数年前まで、俺たちここに通ってたんだぜ。」
「うん…。本当懐かしいね。」
「あの頃は、バカばっかやってたよな。」
「あははっ。やってたやってた。私もたまに思い出すんだ。」
あ…
梨紗が笑った…
可愛いな…もっと…見たい…
「楽しかったよな。本当に…。」
「だねー。」
「戻りてーなー。当時やり残したこととか、後悔してることとか、全部やり直したい。
そしたら…今頃違ってたかもな…。」
「…そんなこと、考えても仕方がないじゃん。」
「…梨紗は戻りたいとか思わねーの?」
「後悔してることはあるよ?
でも…“今を大事に”することにした。」
「“今を大事に”か…。」
「そう…。だってもう戻らないもん。」
「梨紗は前向きなんだな。」
「ううん…。陸が前にそう言ってくれたから…。」
「…陸…か…」
俺は梨紗と久々に2人で話していた。
やっぱり…いいな…。
この感じ…。
さっき笑ってた時も可愛かった。
落ち着くんだよな…。
もしも…入学の頃に戻れたら、俺は真っ先に梨紗に声をかけて仲良くなる。
陸よりも早く…。
もしそれが出来ていたら未来は変わっていたのだろうか…。
戻りたい…。
そんな“たられば”ばかりを考えてしまう。
それが叶わないなら、もういっそのこと、このまま梨紗を連れ去りたい…。
連れ去って、どこか遠くで梨紗と2人で暮らしたい…。
もっと梨紗と…2人の時間を過ごしたい…。
「梨紗…たまにこうやって2人で話さないか?」
「…陸に…心配かけたくない…」
「だよな…。」
やっぱり梨紗はちゃんと陸のこと…。
もう本当に無理なのかもしれない。
頭では分かってる。
もう無理だって…。
でも…やっぱり諦めたくないんだ。
なんで俺はこうも、未練がましいんだ。
諦めてしまった方が楽なのに…。
もうこれ以上は苦しい…
辛い…
なのに何で俺は諦められないんだ。
梨紗の笑顔を見るたび…
その笑顔を独り占めにしたくなるんだ。
もう…諦めたい…
諦めたくない…
諦めたい…
梨紗が陸のことを好きなのが伝わる…
梨紗が幸せなのが伝わる…
陸はちゃんと、梨紗を幸せにしてる。
わかってる…
わかってるのに…
何で俺は…
「太一?」
「…わりぃ…考え事してた…」
「なんかあったの?」
やめてくれ。
俺を気遣わないでくれ。
「なんもねーよ。」
「ならいいけど…」
梨紗は少し心配そうな顔をしていた。
やめてくれ…。
もう…
抱きしめたい…
キスがしたい…
梨紗を…めちゃくちゃにしたい…
もし…
もしも2人が結婚するなんてことになったら…
そんなの耐えられない…
俺は今、必死に自分の強引な部分を抑えてる。
今だって手を伸ばせばすぐ梨紗に触れられる距離にいる。
それなのに俺はちゃんと堪えている。
梨紗の喘ぎ声を聞いてから、梨紗を抱きたい欲が高まってるのに、それなのに俺はその衝動に駆られることなくちゃんと自分を抑え込んでいる。
梨紗に嫌われないように…
梨紗が俺を見てくれるように…
俺はそう考えて、2人の仲を邪魔するようなことはやめていた。
そんなことをしていると、梨紗が離れていく一方だから。
そんなことをしなくてなってから実際に、こうやってまた穏やかに梨紗と話せている。
いつか俺にチャンスが来ないだろうか…。
それでも…梨紗が陸と結婚するなんてことになったら…俺はたぶん自分を抑えられない。
そんな気がする。
それならもう梨紗から離れた方がいいんじゃないか…。
……。
…嫌だ。諦めたくない。
「陸は…どんな感じなんだ?梨紗と2人でいる時。」
…何で俺はこんな事を聞いてるんだ…
そんなこと聞きたくないのに。
「陸?どんな感じって言われてもな。あのままだよ?優しいし。」
「そっか。」
「あ、自分の気持ちを言うようになったかな。
陸って、何考えてるかよくわからないタイプじゃん?口数も少ないし。でもそれがなくなったかも。」
「へー。そうなんだ。」
「うん。他にも変わったところはあるけど…。」
「どんなふうに変わったんだ?」
「…それは…私にしかわからないことだから…。」
“私にしかわからない”か…
ちゃんと2人の関係が築かれているようで嫉妬してしまう。
そりゃそうだよな。
一緒に住んでるんだから。
「いい方に変わったのか?悪い方か?」
「…いい方…かな…」
そう話す梨紗が少し色っぽく見えた。
可愛い…
俺は梨紗の喘ぎ声を思い出してしまった。
梨紗…あんな声なんだな…
可愛かったな…
だめだ…こんなことを考えてたら…
反応しちまう。
本当は結婚の話が出ているのか聞きたい。
でも聞きたくない。
それに俺がそれを話題にしたことで、“結婚”を意識するよなことにもなって欲しくない。
俺はそんな事をボーっと考えていると、遠くの方に陸と隼人の姿が見えた。
…どんだけ独占欲が強いんだよ…。
…まぁ、俺が陸の立場だったら、同じ事をしているかもしれない…。
「陸…」
「他の2人は…?」
「あれ?どこに行ったんだろう。さっきまであそこにいたのに…。」
梨紗と陸が話している。
その後陸はじっと俺を見た。
何かをさぐるような目だった。
なんもしてねーよ。
少しイラついた。
「どうして来たの?遊んでたんでしょ?」
「…だめだった?」
「だめじゃないよ?」
「…邪魔だった?」
…陸が…俺に嫉妬してる…。
「邪魔なわけないじゃん。」
「…。」
「陸?」
俺は少しだけ気持ちがよかった。
その時、いつか見た陸の勝ち誇ったような顔を思い出した。
確かに…そんな顔もしたくなるな。
梨紗と付き合ってるのはお前なのに、なんでそんなに俺を警戒すんだ?
梨紗もちゃんとお前のことが好きなんだろ?
余裕がねーのか?
俺は陸に挑発したくなった。
ずっとそんな自分を抑え込んでいたのに。
だめだとわかっていたのに…陸のそんな顔を見たら…
「お前、余裕ねーのな。そんなんじゃいつか梨紗に呆れられるんじゃね?ちょっと重いわ。」
「太一っ。なんでそんなこと言うの?」
梨紗は少し怒ったようにそう言っていた。
陸の顔がイラつきはじめた。
梨紗と付き合ってから、陸は感情を少しだけ表に出すようになっていた。
俺は陸がイラついてるのを見て気持ちがよかった。
だめだ…本当は梨紗の前でこんなこと言いたくないのに。
「…梨紗は…ずっと…俺と一緒にいてくれる。」
「そんなことわかんねーだろ。」
「…わかる。」
「わかんねーよ。」
「もうやめなよ2人とも。」
隼人が話に割って入ってきた。
梨紗は悲しそうにずっと黙っていた。
何に対して悲しんでいるのかわからないけど、俺は後悔した。
せっかく梨紗と、前のように話せるようになったのに…
これでまた、梨紗の笑顔が見られなくなるかもしれない…
俺はバカだ…。
「わりぃ。仕事でうまくいかない事があって、八つ当たりしちまった。」
俺は嘘を吐いた。
「…別に…。」
陸はそれだけを言った。
梨紗を見てみると、少しホッとした表情になっていた。
それからマキと優奈が戻ってきて、6人で思い出話をしていた。
陸はずっとイラついている様子だった。
本当にいつか梨紗が陸のことを重いと思ったり、呆れてくれたらいいのにな…
梨紗は心配そうに陸を見ていた。
…陸…お前しっかりしろよ。
梨紗に心配かけんなよ。
梨紗と付き合ってるのはお前だろ…?
せっかく6人が集まったってことで、俺たちは近くの店で飯を食いに行くことにした。
移動中、陸はずっと梨紗の手を握っていた。
店に着くと当たり前のように梨紗の隣には陸がいる。もう見慣れた光景だ。
俺は想像した。
梨紗の隣に俺がいるところを。
俺が梨紗と手を繋いでいるところを。
そう…なりたかった…。
陸を見てみると、さっきのイラつきは治っているようだった。
梨紗のことを優しい顔をして見ていた。
そんな顔もできるんだな…陸…
また皆んなで大学の頃の話で盛り上がった。
懐かしくて…なんだか切なかった。
俺はトイレに向かった。
すぐに陸も来た。
「…梨紗に…ちょっかい出してないよな…?」
「そんなの梨紗に聞きゃわかることだろ?梨紗のこと信用してねーのかよ。」
「…太一。お前梨紗が好きなんだろ…?諦めてくれ。」
…。
陸の態度からして、俺の気持ちがバレていることはわかっていた。
でも…こうやって、ハッキリ言われるのは初めてだった。
「何でお前にそんなこと言われなきゃなんねーんだよ。」
「…梨紗と付き合ってるのは俺だから。梨紗の彼氏は俺だから。」
「別に手ぇ出したりしてねーよ。」
「諦めてくれ。」
「だからお前に言われる筋合いねーっての。」
「ある。梨紗は俺の彼女だから。」
「…話すくらい別にいいだろ?髪の毛一本も触れてねーよ。」
「…だめだ。」
「諦めるタイミングは自分で決める。」
「…今すぐ諦めろ。諦めるって言え。」
「…お前なー、手ぇ出す気なんてないって言ってんだろ?それにお前らが別れるかもしんねーじゃん。」
「別れないよ。」
「…お前…自分がフラれることとか、考えたことねーの?」
「…。」
陸は黙った。それに眉間に皺を寄せて、あからさまに怒ったような顔をしていた。
こんな陸の顔を初めて見た。
「それでも…」
陸は口を開いた。
「それでも、俺は梨紗を手放さない。」
「…それはお前の願望だろ?」
「…別れない。」
「梨紗が別れたいって言っても?」
「別れない。」
「…陸…それは梨紗の幸せを考えてないことになるんじゃないか?」
「…。」
「お前の一方的な願望を梨紗に押し付けんなよ。」
「…梨紗が…別れたいって言ってたのかよ。」
「言ってないよ。“もしも”の話をしてるだけだ。」
「そんなの…考える必要ない。」
「不安になったりしねーの?他にも梨紗のことを好きになる奴がいてもおかしくねーだろ。」
「…ちゃんと…俺は梨紗を大事にしてる。」
「それでもだよ。何があるかなんてわかんねーだろ?梨紗が他の奴を好きになる可能性だってあるんだから。」
俺は自分でも何がしたいのかわからなかった。
ただ、陸がムキになっていたから、俺もムキになっていた。
「梨紗は俺のことが好きだよ。」
「今はな。」
「これからも。」
「…だからそんなことはわかんねーだろっ。」
「約束した。」
「は?」
「だから、別れない。」
「その場の雰囲気でした、ただの口約束だろ。」
「お前ら…いい加減にしろよ…。」
隼人が呆れながら来た。
「早く戻ってこい。雨宮が心配してるぞ。」
「まだ…太一の口から聞いてない。」
陸は俺に“諦める”という言葉を言わせようとしている。
「…しつけーな。」
「聞いてない。言えよ。」
「勝手に言ってろ。」
俺は陸を無視してテーブルに戻った。
「…何かあった?」
梨紗が心配そうに聞いてきた。
俺は答えに迷った。
「…陸から聞いて。」
結局俺は何も言えなかった。
梨紗は俺の気持ちに気がついているかわからないけど…
さっき陸と話して俺の気持ちが明白になった以上、陸はきっと梨紗に話すだろう…。
最悪だ…。
せめて自分の口から言いたかった…。
もうこれで…梨紗は俺のことを避けるかもしれない。
告白もせずにフラれたのか俺は…
最悪だ…。
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