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3 僕はわからない。
僕は愛し方がわからない。
愛されたことがないから…。
どうすればいいのかわからない。
僕には親がいない。
家族がいない。
僕が生まれてすぐに、僕の親は2人一緒に事故で亡くなったらしい。
僕は少し裕福な遠い親戚の元に引き取られ、そこで育った。
でもそこの家庭では…僕は家族としてではなく居候として育った。
そこの家には僕よりも2つ上の男の子がいた。
物心がついた頃、両親がその彼と僕への接し方に違いがあることに気がつき、そのことを子どもながらに疑問に思った僕は母に質問した。
そうしたら返事はこうだった。
「あなたは家族じゃないから。」
その時の僕はよく意味がわからなかった。
でも…なんだか悲しい気持ちになったのを今でも覚えている。
小さい頃は兄だと思っていた男の子と仲良く遊んだりもしていた。
でも気がつけば彼は僕のことをまるでいないもののように扱うようになっていた。
なんでよ…
今まで一緒に使っていたおもちゃを彼に取り上げられる。
「これは僕のおもちゃだから。」
そう言いながら。
僕はひとつだけ、お気に入りのおもちゃを隠し持った。取り上げられないようにこっそりと。
でもそれがある日彼に見つかってしまい、それもとうとう取り上げられた。
僕の唯一の宝物だったのに…
それは小さい猫のぬいぐるみだった。お腹を押すと“にゃあ”と鳴く猫のぬいぐるみ。
僕の心の拠り所だった、たったひとつの宝物…。
それから数年が経ち、僕は小学3年生になった。
友達の家に遊びに行くともあり、そこで衝撃を受けた。
僕が知っている家族の形ではなかった。
そこで初めて…
ー「あなたは家族じゃないから。」ー
その意味がちゃんとわかった気がした。
寂しい気持ちになった。
僕はまた母に聞いた。
「なんで僕は家族じゃないの?」
「私はあなたを産んでいないから。」
「じゃあ誰が僕を産んだの?」
「あなたのお母さんよ。」
「僕のお母さんはどこにいるの?」
「もうどこにもいない。」
…そんな…
どこにもいないの…?
「お父さんは?」
「お父さんも、どこにもいない。」
じゃあ僕は、1人ぼっちなの…?
家族旅行には一度も行ったことがなかった。遊びにも…。でも、僕を除いて3人は行っていたようだった。その時は育ての母の両親の家に僕は預けられた。僕はそこでも可愛がられることはなかった。
ある時僕は自分の本当の母について、育ての母に聞いてみた。
すると一枚の写真とストールを手渡され、「これがあなたのお母さん。それからこれがあなたのお母さんの遺品。」と、それだけを言われた。父のものはなにもなかった。
当時の僕は“遺品”の意味がわからなかったけど、それがなんとなく自分の母が持っていたものだということは理解した。
そのストールを手に取ると、なんだか温かい気持ちと、寂しい気持ちの両方になった。
毎日それを手にして眠りについた。
でも…
寂しい気持ちの方が日に日に強くなり、僕はしばらくすると、夜泣きをするようになった。
それを疎ましく思った育ての父が、僕の握っていたストールを力尽くで取り上げた。
「待ってお父さんっ。返してっ。」
「こんなものがあるからいけないんだ。」
「お願いっ。返してっ。」
「だめだ。さっさと静かに寝なさい。」
返して…
僕の宝物…
持って行かないで…
僕から取り上げないでっ…。
結局そのまま、そのストールが僕の手元に戻ってくることは二度となかった。
小学5年生になり“孤児院”という存在を知った。
だから僕はそこに行きたいと、育ての両親に言ってみた。すぐに却下された。
今思うと世間体を気にしていたんだ。
それから高校生になると、「大学の学費は払うから、高校卒業と共にこの家を出て行ってくれ」と言われた。
結局、あの2人が僕に愛情を注ぐことは最後までなかった。
高校を卒業すると、僕はすぐに家を出て安いアパートを借りた。初期費用と最初の3ヶ月分の生活費だけは育ての両親が出してくれた。
アルバイトもすぐに見つかった。
“まかない”が出る飲食店だ。
1人になるとホッとしたような気持ちと、寂しい気持ちが襲ってきた。
当時高校卒業間近に付き合った彼女を頻繁に家に呼ぶと、その度に彼女を抱いていた。
でも、2ヶ月もすると彼女は大学で見つけた年上の男を好きになり、そっちに乗り換えていた。
なんで…
誰か僕を愛してよ。
それから寂しさを紛らわすためにたくさんの女性を抱くようになった。
でも…誰も僕を愛してくれない。
恋が実り付き合えても、必ず終わりが来てしまった。
なんでよ…
なんで…
なんで…
あぁ…本当に毎日つまらない。
そんな時、会社の飲み会があった。
参加したい人だけが参加するもので、色んな部署の人と交流することが目的の飲み会だった。
それは定期的に開催されているようだった。
僕は参加することにした。
少しでも気を紛らわしたい。
飲み会当日、1人の女の子と仲良くなった。
「あ、名前言うの忘れてた。私“黒木(くろき )”って言います。」
「僕は白石。よろしくね。」
「わぁ。白石と黒木で白黒コンビですねっ。」
その子は可愛く笑っていた。
それからも話は弾んで、久しぶりに楽しかった。
解散する時にお互いの連絡先を交換した。
僕たちはメッセージのやり取りをするようになった。
この子のおかげで君のことを思い出す頻度が少し減り、僕の心は落ち込みすぎることなく、ぼちぼち平穏に過ごすことができた。
何度かメッセージのやり取りをしていると、今度2人で飲みに行こうということになった。
こうやって…少しずつ君を忘れて行こう…。
今日はあの子と飲みに行く日だ。
僕たちのことを白黒コンビだと言っていたあの子。
名前は忘れた。
目黒?黒井?黒川?なんだっけ。
「お疲れ様です。それじゃあ行きましょうか。」
目の前にいる子が可愛らしい笑顔でそう言った。
居酒屋へ着くと、他愛もない会話を楽しんだ。
気が紛れる。助かる。
落ち込まなくてすむ。
君のことを考えなくてすむ。
よかった…。
この子とのおしゃべりはそこそこ楽しかった。
僕はお酒が強くないから、いつも2杯までと決めていた。今日も3杯目からはソフトドリンクにしていた。目の前の子は次々と頼んでいた。
とても楽しそうだった。
こんなふうに楽しく誰かと過ごすのはいつぶりだろう…。僕はそんなことを考えていた。
解散した後も気分がよかった。
今日も落ち込みすぎることなく、1日を終えることができた。
しばらくはこんな感じで穏やかに過ごしていた。
職場でもみんなと少しずつ打ち解けてきた。
そうなるように僕は努力した。
ちゃんと前を向けるように。
僕が僕らしくいられるように。
それでもふと君を思う。
君は元気?
幸せ?
たまにこうやって、心の中で君に話しかけていた。
でも…ある時また夢を見た。
君の夢を…。
僕は夢の中で君を抱いていた。
僕に抱かれている君は、僕のことを好きだと言っていた。
目覚めた時…僕は泣いていた。
その夢が前に見た夢とは違って、あまりにも鮮明だったから胸が苦しくなった。
当時の僕は、君に僕のことが好きだと言わせていた。
今でもはっきりと覚えている。
ー「とわくん…すき…」ー
優しい声でそう言う君の声を…。
僕はまた彼女のことが恋しくて恋しくて仕方がなくなった。
どうして君は僕の頭の中から出て行ってくれないの?どうして僕を苦しめるの?
あの2人…別れていてくれないかな…。
そしたら僕がすぐに迎えに行くのに。
例え君が嫌がったとしても、無理矢理君を捕まえて、時間を掛けてでも僕のことを好きになってもらえるように頑張るのに。
そう努力するのに…。
別れていてくれないかな。あの2人…。
また…君を抱きたい…。
あの優しい声で、僕の名前を呼んで欲しい…。
会いたい…
会いたい…
君に会いたい…。
その日からまた僕は、落ち込む毎日を過ごしていた。
「白石さんっ。どうしたんですか?なんか元気ないですよ?」
前に飲みに行った子が話しかけてきた。
「ん?大丈夫だよ?」
僕は笑って見せた。
「本当?」
「本当だよ。」
「ならいいんですけど…。」
「心配してくれてありがとう。」
「…今日飲みに行きません?」
「いいよ。」
僕はまたこの子と飲みに行った。
でも…
前のように気が紛れることはなかった。
会いたい…
会いたい…
君に会いたい…
一目でいいからまた君の姿が見たい。
僕はまた、会社を早退して前の職場へと向かった。
少し遠くから会社の出入口を見張る。
…。
…。
…。
出てきた。
今日もあの男が一緒だ。
別れてないか…。
でも…彼女の顔はやっぱりこの前見た時と同じで、穏やかに優しく隣の男に笑いかけていた。
かわいい…
その笑顔を見れただけで、僕は胸がいっぱいになった。
もう帰ろう…。
僕はやっぱり君が好きだ。
そのうちにちゃんと忘れるから。
だから…もう少しだけ君のことを好きなままでいさせて…。
無理矢理忘れようとするからきっと苦しくなるんだ。
好きでいても苦しいけど。
でも今の僕は、君が好きだと素直に認める方が楽かもしれない。
もう…自分でもどうすればいいのかわからない。
とにかく君のことが大好きなんだ。
明日の僕がどうなってるかはわからない。
でも今日の僕は、今の僕は…君のことを好きだと思うと心が温かくなるんだ。
今日はそれでいい。
明日はわからない。
でも今日はそれでいい…。
君を思いながら…
君の笑顔を思い浮かべながら…
今日は眠りにつこう…
「僕のこと好きって言って。」
「んっ…とわくんすきっ…」
「ふふっ。僕も大好きだよ。もっと言って。」
「すきっ…あっん、とわくんすきっ…」
「もっと。」
「んあっ…とわっんんっ…」
「ほら、ちゃんと言って。」
「とわくっ、もうだめっ…」
「僕の名前言いながらイッて。」
「あっ…とわくんっんんっっ。」
「ふふっ。かわいい。」
僕は君がイッても動きを緩めず攻め続けた。
「だめっ…ちょっとまってっ…」
「んー?」
「うごかないでっ。」
「ふふっ。」
君の余裕のない顔が可愛くて仕方なかった。
僕はまたそんな夢を見ていた。僕の記憶の夢…。
久しぶりに幸せな気持ちで目覚めることができた。
まだ君のことを好きだと認めたら…
無理矢理君を、僕の頭の中から追い出そうとしなくなったら…
僕は少しだけ気持ちが楽になった。
苦しくなる日もある。
君のことが恋しくて仕方がなくなる時もある。
でも…
心が温かくなる日もあるんだ…。
そう思える日はとても心地がよかった。
穏やかでいられた。
好きだよ…。
心の中で君にそう伝える。
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