白石斗羽の苦悩 ー移りゆく色ー

優月ジュン(ゆづき じゅん)

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6 君に会いたい。



気分転換をしようと、僕は緑の多い大きな公園を散歩していた。
季節は移り変わり、ひんやりとした冷たい空気が漂っていた。今日は風がない。
晴れていたから太陽の光が柔らかく僕を暖めてくれていた。
公園へ向かっている途中で買ったホットコーヒーを片手に、僕は近くにあったベンチに腰を下ろした。

目線を下げて少し遠くの地面をボーっと見つめ考える。

君のことを…

僕は…
僕は…

まだ君のことが大好きだよ…

頭の中に君の姿を巡らせる。

ふと視線を上げると僕の目は少し遠くにある木を捕らえた。

…。

桜の木だ…。

もう葉はすっかりと散ってしまっていた。
その姿がとても寒々しく見えた。

僕の心と同じだね…。

その桜の木に、僕は心の中でそう話しかけた。

少し風が出てきた。
冷たく乾いた風が僕の体温を奪っていく。
手の中のコーヒーも、もうすっかりと熱を奪われぬるくなっていた。
僕はそれを一気に飲み干すと立ち上がり、公園内をゆっくりと歩いた。

雲が太陽を隠した。

たったそれだけで寒さは増した。

やめてよ。
僕を暖めてよ。
太陽を隠さないで。
風も吹かないで。

僕寒いから。
すごく寒いから。
暖めてよ。


誰か…


誰か僕を…
温めてよ…

結局あれから太陽は一向に姿を表さなかったから、僕は家に帰ることにした。
家に着くとすぐにお風呂を準備して湯船に浸かった。また君を思い出し、目の前にいることを想像してそれをそっと抱きしめる。

お風呂から上がると部屋着が入っている引き出しを開けた。

…。

こんなの持ってたっけ?

僕はそれを手に取り広げた。

…。

君の服が紛れ込んでいた。
今まで全然気がつかなかった…。

僕はそれをぎゅっと抱きしめた。

その服からは柔軟剤の香りがした。

君と過ごしていた時、君の服も僕の服も一緒に洗濯していたから、2人の洋服からはいつも同じ柔軟剤の香りがしていた。当時の僕はたったそれだけのことで嬉しくなっていた。
ボディーソープもそう。
お風呂上がりには君の体からも、僕の体からも同じ匂いがした。

僕はその服をベッドへと持っていき、今は使われていないもう一つの枕に着させると、それをまたぎゅっと抱きしめた。

心が…少しだけ温かくなった…。





「起きて。」

「起きて、斗羽くん。」

目を開けるとそこには君がいた。
かわいい…。

「遅刻しちゃう…。」

僕は君の腕を引っ張り抱き寄せた。
それから体を撫でまわす。

「ん…離して…」
「やだ。」
「遅刻しちゃうから…」
「…。」
「私も寝坊したから、今日はお弁当ないよ。」
「…今日は外で食べよっか。」
「あっ…やめてっ」

僕は下着の中に手を入れ指で目的のところを撫でていた。
すぐに濡れたから指を入れる。

「だめっ。本当に遅刻しちゃうからっ。」
「このままだと中途半端で嫌でしょ?」
「大丈夫だからっもうやめてっ」

僕はムキになった。
だめだよ。ちゃんとイカないと。

「あっんっ…ぁあっっ…」
「ふふ。かわいい。イケたね。」


…。

夢だ。これは僕の記憶。実際にあったこと。
最近は見ることがなかった君の夢。

僕は嬉しかった。

確かあの日は結局遅刻しちゃったんだっけ…。
それに…僕は朝から君に触れてしまったから、抱きたくて仕方がなくなって…お昼になると会議室に君を連れ込み嫌がる君を無理矢理抱いた。
それでも足りなくて、帰ってからもまた抱いた。

短い期間で本当に君をたくさん抱いた。
短い期間だったけど、僕には濃厚な時間だった。

君が言ってくれた嬉しい言葉は、全て僕が言わせていた。君の本心ではなかったけど、やっぱり君の声で…君の口から“好き”や“気持ちいい”という言葉を聞くと、僕は嬉しくて仕方がなかった。





会社に着くと、僕に仕事を教えてくれた先輩が飲みに誘ってくれた。

仕事が終わり早速店に向かうと席に着き乾杯をする。色々と雑談をしていると、先輩から質問された。

「白石くんは彼女いるの?」

避けたい話題だった。

「いないです。」
「そっかぁ。俺もいないんだ…というか…
元カノに未練があってさ、よりを戻したいんだよね。」

…。
よりを戻す…。
僕もそうしたい。
でも僕の場合は無理だ。
君ははなから僕のことを好きじゃなかったから…。

そう思うと悲しい気持ちになった。

「戻れそうですか?」
「んー、まだわからない。でも連絡は取ってるんだ。」
「そうなんですね。」
「うん。でもやっぱり難しいかなー。
別れた後は男は未練がましい、女はサッパリってよく言うじゃん?」
「そうなんですか?」
「そうそう。知らない?
男の方は別れた後、最初は羽を伸ばすんだけど、徐々に未練がわいて、女の方は最初落ち込むけどしばらくすると吹っ切れる…みたいな話。」
「知らなかったです…。」
「まぁ、俺は振られた立場だから最初から未練たらたらなんだけどね。
でも元カノは俺のことなんかもう何とも思ってないのかなって…。」

未練…。
まさしく僕だ。
未練たらたらだ。

「なんで別れちゃったんですか?」
「俺が男友達とよく飲みまわってたから。それが原因で何度も喧嘩して、でも毎回元カノは最終的には許してくれてたから、ついついそれに甘えちゃったんだよな。それでとうとう呆れられて別れた感じ。」
「…なら…まだ望みはあるかもしれないですね。」

僕はそう言った。
だって…
その元カノさんは誰かを好きになって別れたわけではないから。

いいな…。

僕だったらすぐにでも迎えに行く。
それで捕まえて僕の家に連れ帰って…

…。

…こういう考えだから僕はいけないんだ…。

「今少しずつまた距離を縮めてるんだ。そうしたら連絡の頻度が増えてきて…。」

僕は胸が痛かった。
最近ずっとそれで後悔していたから。
僕もそうやって君に近づけばよかったって。
君が何かの用事で僕の所に来たのをキッカケに、社内で会えば挨拶をする仲にはなっていた。
あとは少しの雑談。
でもなかなか君を誘うことができなくて…


それから僕はいつもは2杯でやめているお酒を飲み続けた。

先輩と解散すると、すぐにいつもの子に連絡をした。リ…リ…なんだっけ。

それからその子の家に向かった。

「…珍しい…酔ってるの?」
「抱かせて。」
「いいけど、大丈夫?」
「すぐに入れていい?」
「…どうしたの?」
「ちゃんと濡らすから。」
「いいよ。」

僕はその子をベッドに押し倒すとその子の弱点を攻めた。すぐに濡れたから僕はその子の脚を広げて入れた。

「あっ…そんな最初から激しくしないでっ」

僕はそんな言葉は無視して続けた。

苦しい…
苦しい…

後悔ばかりが募っていく。

ー「もっと他にやり方があったんじゃないのか?相手の気持ちをもっと考えろよ。」ー

僕は前にこう言われたことがあった。

その言葉が追い打ちをかけるように僕を苦しめた。

苦しい…
苦しい…

「ぁあっだめっ…もうイクッッ…」

僕はそれでも動きを緩めなかった。

「まってっ…今はだめっ」
「やめないよ。」
「いやっあっ…」

僕は動き続けた。

「あんっ…またイクッッ…」
「ははっ。すぐイッちゃったね。」

苦しい…
苦しい…

「だめっ…いったんとまってっ」
「ごめんね。止められない。」

苦しい…
苦しい…

僕は目の前の子を犯すようにめちゃくちゃに抱いた。

それから家に帰るとすぐに、君の服を着せた枕を抱きしめる。

戻りたい…


僕はまた君を思い出していた。


「ねぇねぇ、お弁当にタコさんウィンナー入れて。」
「…わかった。」
「あと甘い卵焼き。」
「うん。」

僕は君にそうお願いした。
次の日のお弁当にはちゃんとそれが入っていて僕は嬉しかった。
君が作るお弁当は美味しくて僕は大好きだった。
なによりも君が作ってくれたっていうことがすごく嬉しかった。
僕は何度も美味しいと伝えた。

また…君が作ったお弁当が食べたい…。

僕はそう思いながら眠りについた。




次の日、お風呂に浸かりながら考えていた。

ー「もっと他にやり方があったんじゃないのか?相手の気持ちをもっと考えろよ。」ー

あの言葉には続きがあった。

ー「怖がらせてどうすんだよ。」ー

…。

僕はあの時、君の後をつけていた。
家が知りたかった。
いわゆるストーカーだ。
その時の僕は君を怖がらせているだなんて微塵も思っていなかった。
それに…君を脅した。
君を手に入れるために、君の弱みを握り無理矢理僕と付き合うように仕向けた。

今ならわかる。
そんなことしちゃいけないって。

でも当時の僕は、何が何でも君を手に入れたかった。どんなことをしてでも。

それほど君が欲しかった。

どうしても欲しかったんだ。

それくらい…大好きだった。
誰にも取られたくなかった。

欲しかった。
欲しかった…。

君のことが欲しくて欲しくてたまらなかった。

後悔が僕の胸を押しつぶす。

涙が出てきたから湯船のお湯を手で掬い顔を洗う。それでも…とめどもなく涙は流れ続ける。

何をしても満たされない。
忘れたいのに忘れられない。
忘れたいのに忘れたくない。

ずっとその繰り返し…。



また、淡々とした日々が流れていく。



僕はまたあの先輩に誘われて飲みにきていた。
先輩の機嫌はよかった。

「ちょっと聞いてよ白石くん。」
「どうしたんですか?」
「前に話してた元カノ、元カノじゃなくなった。
また付き合えることになったんだ。」

僕はその話を聞いて胸がギュッと掴まれたように痛くなった。

羨ましかった。
羨ましくて羨ましくて仕方がなかった。

僕は平静を装ってこう聞いた。

「どんな流れでよりが戻ったんですか?」
「前に距離を縮めているところって言っただろ?あれからも粘り強く、でも焦って強引にならないように連絡を取り続けて、やっと会えることになったんだ。それで会った時に自分の気持ちを伝えたら、OKしてくれた。ちゃんと飲むのを控えることも約束して。」

…“焦って強引にならないように”…

僕にはそのスキルがなかった。

愛し方も、距離の縮め方も、恋の駆け引きも、何もかも当時の僕にはわからなかったから。

ただただ子どものように君のことが欲しいと、心の中で駄々をこねていた。

僕はどうやら、体だけが大人になってしまったようだ。

どうして…

なんで僕は…

やっぱり僕は僕を責めた。

その後は先輩の惚気話を聞いていた。
今の僕はそんな話を聞いてもダメージを受けるばかりだった。

「んでさぁ、その日さっそく俺の家に来たんだけど、部屋着として俺のTシャツを貸してさ、それを着た彼女の姿が可愛くって。今までも散々見てきた姿なんだけど…自分が着ればちょうどいいサイズのTシャツがさ、彼女が着るとぶかぶかなの。あれ可愛いよな。」

わかる…。
僕も君に僕のTシャツを着てもらっていた。
すごくかわいかった。
僕の頭の中にその時の君の姿が浮かぶ。

「それから彼女の寝顔を久々に見て、俺さぁすごくホッとしたんだよね。またこの寝顔が見れたって嬉しかった。寝顔って家族とか彼氏とかしかなかなか見れないじゃん?」

僕は君の寝顔を思い出した。
僕もよく、君の寝顔を見ていた。
ぐっすりと眠る君の顔を…。
このままずっと君の寝顔を見続けられますように。こんな毎日が続きますようにと願いながら。

「あとはさ、寝起きの声。あれも俺好きで…」


寝起きの声…。
君の寝起きの声を思い出す。
耳が心地いい…。
寝起きの声で喘ぐ君もかわいかった。

さっきまで先輩を羨ましく思っていたけど、先輩の話を聞いてたくさん君を思い出すことができた。
僕が幸せだと感じた瞬間の君を…。

僕は先輩にバレないようにこっそりとスマホの中の君の寝顔を見ていた。

かわいい…。

それから気づけば職場の話になり、その後解散した。

会いたい…

君に会いたい…。

僕は久しぶりに、君を想って少しだけ幸せな気持ちになった。



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