白石斗羽の苦悩 ー移りゆく色ー

優月ジュン(ゆづき じゅん)

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16 もうどうでもいい。



気がつけば日々は過ぎ新しい年を迎えていた。
年末年始、茜は実家に帰っていたから僕はひとりぼっちだった。
茜の実家は遠いから、こういう時にしかなかなか帰れないようだった。
僕は寂しかった。

早く…茜帰って来ないかな。

茜は元日には帰ってきた。休み中実家にいるようなことを言っていたから、僕は嬉しかった。それにすぐに僕の家に来てくれた。

「どうしたの?帰ってくるの早くない?」
「斗羽くんに会いたくなっちゃって。迷惑だった?」

僕は目の前の茜を抱きしめた。

「ううん。嬉しい。僕寂しかったから…。」
「…寂しい思いさせちゃってごめんね。」
「大丈夫。今茜が僕の腕の中にいるから、もう大丈夫。」
「…斗羽くん、好きだよ。」
茜も僕を抱きしめてくれた。
「うん…。ありがとう。」


茜と残りの休日を楽しむと、あっという間に仕事が始まった。


茜とは今まで通り、週に数回一緒にランチをして、週末は僕の家で過ごすか、どこかに出掛けたりしていた。

「今週末は特に寒いみたいだから、僕家にいたい。寒いの嫌いなんだ。」
「いいよ。じゃあお家でゆっくり過ごそうか。」
「うん。ありがとう。」

茜は僕のわがままに付き合ってくれた。
土曜日は朝から茜を抱いた。茜にこうするのは初めてだった。
茜にたっぷりと愛撫をした。
もう入れたい…早く茜の中に…
僕は茜にゆっくりと入っていった。

「茜…」

気持ちいい…

その後も僕は自分を抑えられなくなって、長く茜を抱いてしまった。

大丈夫かな…茜嫌だったかな…。
僕は茜を抱きよせたまま話しかけた。

「ねぇ、僕いっぱい抱いちゃったけど嫌だった?」
「ううん。嬉しかったよ。」
「本当?」
「本当だよ。」
「まだ…抱き足りないんだ。あとでまた抱いてもいい?」
「うん…いいよ。」

よかった。
茜は嫌がっていないようだった。
よかった…。

結局この日は休憩を挟みつつ、茜の様子を見ながら一日中ほぼベッドの中で過ごした。
夜には僕がご飯を作って茜に振る舞った。

温かい。
最近僕の心はずっと温かい。

ご飯を食べ終わるとまた茜を捕まえベッドへと向かった。
抱き終わるとそっと抱きよせ茜の頭を撫でた。

「僕と一緒にいてくれてありがとう。」
「私がそうしたいから、そうしてるだけ。」
「うん。嬉しい。」

僕は茜の顔を見つめた。
茜もしっかりと僕を見てる。

「茜…」

僕は茜にそっとキスをしてからまた抱きしめた。

茜。
茜…。




久しぶりに仕事終わりにリオちゃんと会った。
席に着くなり早速リオちゃんが口を開いた。

「あのね、私も彼氏ができたんだ。」
「そうなの?もうタケルくんのことは吹っ切れたの?」
「…ううん。斗羽くんと同じ。忘れられない人がいるって言ったんだけど、『それでもいいから』って言ってくれて…『もしどうしても俺を好きになれなかったら、その時は諦めるから』って…。」
「そっか。いつ付き合ったの?」
「1週間前。」
「まだ始まったばかりなんだね。」
「うん。斗羽くんは?その後どう?」
「僕は、まだよくわからないんだ。でもまだ茜は僕のそばにいてくれてる。」
「よかったね。順調じゃん。葵ちゃんのことは?今も思い出す?」

…。

葵…

そういえば最近思い出していなかった。
正確に言えば頭の中にはいつも葵はいる。
それに夢の中で葵とおしゃべりはしている。
でも…葵を想うことを最近はしていない。
僕はまた、少し前に進めたのかもしれない。葵を想って苦しくなったりもしていない。

僕は今考えていたことを、そのままリオちゃんに話した。

「ほんと?」
リオちゃんの顔が明るくなった。

「よかったね。斗羽くん。前に進んでるね。」
「そうみたい。」
「…私も…前に進めるといいな…。」

リオちゃんの顔が切なくなった。
僕はリオちゃんの隣に移動し肩を抱いて、顔を覗き込んだ。

「きっと大丈夫だよ。僕だって前に進めたんだ。あんなに苦しかったのに。時間は掛かったけど進めたんだ。リオちゃんだってきっと大丈夫だよ。」

リオちゃんは泣きだした。
僕はそのまま抱きしめた。「大丈夫だよ」と何度も言いながら。


リオちゃんと解散した後、僕は帰りながら考えていた。リオちゃんもちゃんと前に進めますように。もうリオちゃんの悲しい涙を見ることがありませんように…。



…僕…最近泣いてない。
あんなに苦しくて、あんなに泣いていたのに…。

茜のおかげだ。
茜がそばにいてくれたから。
次に茜に会ったらまた“ありがとう”と伝えよう。そうしよう。

葵…僕少しずつ前を向いてるよ。
葵は元気?ちゃんと笑ってる?

僕は家に帰ると久々に葵の服を着た枕をクローゼットから引っ張り出した。
それをぎゅっと抱きしめる。

葵、僕頑張ってるよ。えらい?
最近は君を想って泣いてないよ。
えらいでしょ?すごいでしょ?
今色々と勉強してるから。僕が欠けているものを少しずつ拾い集めて、理解しようと頑張ってるから。だから褒めて?葵…
葵の優しい声で“よく頑張ってるね”って、“えらいね”って僕のことを褒めて…。

僕は久しぶりに葵を想って眠りについた。



「斗羽くん。」
「なぁに?」
「最近変わったね。」
「そう?」
「うん。変わったよ。」
「どんなふうに?」
「前みたいに、強引じゃなくなった。」
「ほんと?僕ね、今ね、頑張ってるんだ。僕は子どもっぽいし、足りないところがたくさんあるから。」
「そっか。えらいね。」
「ふふっ。僕葵にそうやって褒めてもらいたかったんだ。」
「ははっ。そうなの?えらいね。よく頑張ってるね。斗羽くんはきっと、もう大丈夫だね。」
「…なんで…?なんでそんな、どっか行っちゃうみたいに言うの?」
「斗羽くんくはもう大丈夫だから。」
「…やだよ…。まだ行っちゃだめ。僕にはまだ葵が必要だから。少しだけ眠ってて欲しいだけだから。」
「ううん。もう大丈夫だよ。」
「大丈夫じゃない。葵が勝手に決めないで。」
「…わかった。それじゃあもう少しだけ眠ってるね。」
「うん。出て行くのはだめだよ。眠ってて。」

僕はそこで目が覚めた。

…。

葵に…褒めてもらえた。たかが夢だ。僕の願望が頭の中で無意識に映像化されただけだ。
それでも僕はやっぱり嬉しかった。
最近、夢の中でこうやって葵とおしゃべりをすることが増えた。僕の記憶でもなんでもない。ただ本当におしゃべりをするだけ。
僕は仕事のことや街中を散策している時に見つけた可愛いお店のこと、公園を散歩している時に見かけた光景なんかの話をした。
葵はいつも優しい笑顔で僕の話を聞いてくれていた。

抱いていた枕をまた、クローゼットへとしまい、仕事に行く準備をした。

今日は茜とランチをする約束をしていた。
待ち合わせ場所に行くと、茜は先に着いていて…

元気がなかった。

「どうしたの?具合悪い?」
「…ううん。大丈夫だよ。」

茜は無理して笑っているように見えた。
なんで…。

「嘘つかないで?元気ないよ。」
「大丈夫だから。午前中ちょっと忙しかったの。」
「そう?食欲はある?」
「うん。」

僕たちはいつものお店に向かった。
でも結局、茜はご飯を残していた。

「今日僕の家に来れる?」
「…うん。大丈夫だよ。」

仕事が終わると茜を連れて帰った。
僕はすぐに茜をベッドへと押し倒し、両手を押さえ込んだ。

「なに?言って?」
「え…?」
「茜、何か僕に言いたいことがあるんじゃない?今日ずっと変だよ。僕と別れたくなった?」
「…。」
「ねぇ、どうなの?僕と別れたい?」
「…そう…なのかな…。わからなくなっちゃった…。」

茜は苦しそうにそう言った。
僕は手を離し、ベッドを背もたれにして床に座り込んだ。

また…僕から離れて行く…。
僕のそばには誰もいてくれない…。 
とうとうこの日が来てしまった。
ずっと怖かった。
この日が来ることが。

もう…疲れた。

僕疲れちゃった…。

最近頑張ってたのに。
頭の中の葵にも褒めてもらったのに。

少しずつ…色々わかってきてたのに。

結局…

結局何も変わらないんだ。
頑張ったって無駄。
何にも報われない。
だったら頑張りたくなんてない。
疲れるから。

僕は久しぶりに泣いていた。

もういい。
どうでもいい。

疲れた。
僕もう疲れちゃったよ。

「ははっ、はははっ。」

もうどでもいいや。
どうでもいい。

「…斗羽くん?」
「なぁに?」
「なんで笑ってるの。」
「もうどうでもいい。」
「…。」
「もうどうでもいいんだ。ははっ。」

茜はベッドから降りて僕の隣に座った。

「泣いてる。」
「そうだね。」
「どうして。」
「そんなの僕が知りたいよ。」
「…。」

もうどうでもいい。
僕はもういなくなりたい。

また心が寒くなる。
もうそんなの耐えられない。
耐えられないんだ。

子どもの頃からずっとそう。
ずっと寒いまま。
これが続くならもうこんな人生僕いらない。

いらない。

「もう疲れた。僕疲れちゃったんだ。もうどうでもいい。全部全部どうでもいい。」
「そんな…」
「ごめんね。君を僕に縛りつけちゃって。半年以上も。今までありがとう。」
「…違う…。」
「なにが。」
「違うの。」
「なにも違わないよ。元々そういう約束だったからね。辛くなったら僕から離れるって。」
「違うっ。」
「違くない。君はさっき苦しそうな顔をした。」
「違うの。斗羽くんに聞きたいことがある。」
「なに。」

茜はそう言ったのに、なかなか次の言葉が出なかった。僕は催促するように声を掛けた。

「何が聞きたいの?」
「斗羽くん、私以外に付き合ってる人いる?」
「なにそれ。そんなのいないよ。」
「…昨日…女の人と会ってた?」
「会ってたよ。」

リオちゃんのことだ。どこかで見られていたのだろうか。

「その人とは、どういう関係?」
「友達。」
「斗羽くんは、友達にも肩を抱いたり抱きしめたりするの?」
「しちゃだめなの?その子と僕は同士なんだ。茜と出会う前からお互いを励まし合ってきた大事な友達なんだ。その子が苦しい思いをして泣いていたから励ましたかった。だから抱きしめた。」
「…そっか。でも私は、斗羽くんには私以外の女の人に触れてほしくない。」

…。

そうだった…。

僕もそうだった。

葵が僕以外の男に手を握られてるのを見て、やきもちを焼いたことがあった。嫉妬した。

やっぱり僕は欠けている。
茜からハッキリと言われなければわからなかった。なにがだめなのか。

僕だって嫌な思いをしてたじゃないか。
葵に触れていいのは僕だけだって。
他の男に触れられたらだめだよって、葵にそう言ったことがあったじゃないか。

茜に…気遣いができていなかった。僕が悪い。
せっかく僕と一緒にいてくれてるのに。

「ごめんね茜。僕が間違ってた。」
「…まだ…斗羽くんと一緒にいていい?」
「こんな僕なのに一緒にいてくれるの?」
「うん。一緒にいたい。」
「茜…」

僕は茜の優しさに触れ、また泣いてしまった。
そっと茜を抱きよせる。

「ごめんね。嫌な思いをさせちゃって。」
「ううん。大丈夫。」

僕は茜に質問をした。
僕とリオちゃんの姿を見かけたのかと。
どうやら茜の職場の相馬さんが僕たちのことを見かけたらしく、今日「白石くんと別れちゃったの?」と聞かれたらしかった。それで詳しく話を聞いて不安になってしまったと…。

「本当にごめんね。僕軽率だったね。」
「でも…大切なお友達なんだよね?」
「うん。」
「そうしたら…手を握る程度にしてもらえると嬉しいな。」

僕はあの時、葵が手を握られていただけでも嫌だった。

「ううん。もう彼女には触れない。」

僕とリオちゃんの関係は、元々セフレだったから触れ合うことが普通になり過ぎていた。だからだめなんだ。きっちりと線引きをしないと。

「茜…抱かせて?」
「うん…。」

僕は茜にすがるように抱いた。
まだ僕と一緒にいて…。
僕を1人にしないで…。

ごめん。ごめんね茜。

茜は何度も僕が好きだと伝えてくれた。


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