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18 僕の大切な人。
今日はいつもと違う居酒屋へ行こうと、繁華街の方まで足を伸ばした。
賑わってそうなお店を見つけるとそこへ入り、楽しくお酒を飲んでいた。
「ねぇ今度遊園地に行かない?」
「遊園地か。僕行ったことないんだよね。」
「え?そうなの?」
僕は行ったことがない。家族ではない人たちと暮らしていたから、連れて行ってもらったことがなかった。大人になってもなんとなく避けていた。ああいうところは家族が多いから…なんだか寂しくなるから…。でも茜と一緒なら大丈夫かもしれない。
「うん。やっぱり楽しいの?」
「楽しいよ。色んな乗り物あるからね。もしかして高い所とか、速い乗り物とか苦手?」
「んー…それもわからない。経験がないから。」
「そうしたらさ、動物園と遊園地が複合してる所があるからそこに行ってみない?乗り物が無理そうだったら動物園を楽しむの。どうかな?」
「そんな所があるんだ…。それいいね。」
僕は少し楽しみだった。
動物園だったら僕も楽しめる。乗り物も少し楽しみだ。怖いのかな…。高い所はたぶん平気だけど、速い乗り物はどうだろう。
それからも色々な話をしていた。
茜は優しい声で楽しそうに話し、かわいい顔で笑っていた。
僕は飲みながら考えていた。
ここに向かう途中に雑貨屋さんがあって、外に向けてディスプレイされている細々とした雑貨の中に、茜が好きそうなガラス製の小さな置物があった。
茜の家に遊びに行った時にこういうものが棚に飾られていたのを思い出す。僕がそれを見ていると、茜が教えてくれた。
『これね、高校生の時に友達と遊びに行った先にあったカプセルトイの景品なの。私それからこういうのが好きになっちゃってさ、見かけるとついつい買うようになっちゃったんだ。』
茜はそう言っていた。
僕はさっき見かけた物を茜にプレゼントしたくなった。それが茜の好みに合うかはわからない。でも僕はプレゼントしたくなった。
繁華街にあるお店だからか、そこの雑貨屋さんの営業時間は長めだった。
そろそろ帰ろうかということになり、僕は時間を確認した。まだあのお店はやってる。
僕は駅に向かう途中で茜に声を掛けた。
「僕さっきの居酒屋に忘れ物しちゃったから先に駅前で待ってて?すぐに取りに行ってくるから。」
「私も一緒に行くよ?」
「ううん。走って取りに行くから先に駅に行ってて?」
「わかった。そんなに急がなくていいからね。」
それから僕は急いであのお店へと向かった。
中に入ると色々なガラスの小物があった。僕はその中から選ぼうと思ってたけど、他にも色々とガラス製品があって、その中にとても綺麗な小物入れがあった。それもガラスでできたものだった。
僕はそれを気に入った。だからさっきの予定を変更し、それを買うことにした。
それからペアのマグカップも目に入り、それも買うことにした。明日はこれで、茜とココアでも飲もう。僕はそれを想像して少し楽しくなった。
今度は茜と一緒にこのお店に来よう。きっと茜は喜ぶだろうな。本当は今日一緒に来てもよかったけど、僕はどうしても茜に内緒でプレゼントしたくなったんだ。帰ったらすぐに渡そう。
僕はそう思いながらレジに向かい、買い終わるとそれをリュックにしまって急いで駅へと向かった。
すると…茜は知らない男に腕を掴まれていた。
男は2人いて、そのうちの1人に腕を掴まれていた。
僕の茜に触らないでよ。
急いで茜の元へと駆け寄る。
「茜っ。」
「斗羽くんっ。」
「なんだぁ。本当に彼氏待ってたんだ。」
「ちょっと。その汚い手を離してよ。」
「は?」
僕は茜の腕を掴んでいる男の腕を掴んだ。
「だから早くその汚い手を離してって言ってるの。君、日本語がわからないの?僕の彼女に触らないで。」
「なんだお前。喧嘩売ってんのか?」
「喧嘩なんて売ってないよ。早く手を離して。彼女に触れていいのは僕だけだから。」
そいつは僕の胸ぐらを掴んできた。酔っているようでお酒の匂いがプンプンとした。
「殴る気?僕痛いの嫌いなんだよね。」
「ははっ。そんなんで彼女守れんのかよ。」
「守るよ。僕の大切な人だもん。」
「おいツヨシ。お前酔いすぎだぞ。彼氏がいるんだからもう諦めろ。揉め事はごめんだ。」
もう1人の男がそいつをなだめていた。
そいつはパッと手を離し、僕を睨みながら離れていった。こんな繁華街の駅で茜を1人にするんじゃなかった。
「茜、大丈夫?何もされてない?」
「うん…大丈夫。」
「ごめんね。こんな所で1人にさせちゃって。」
「……嬉しい…。」
「なにが?」
「さっき斗羽くんが言ってくれたこと…嬉しかった…。」
茜は目に涙を溜めていた。
僕が言ったこと…?
僕はさっき自分が言ったことを思い出していた。
ー「彼女に触れていいのは僕だけだから」ー
ー「守るよ。僕の大切な人だもん。」ー
…。
僕は…確かにそう言っていた。無意識に…。
茜が男に触られているのがすごく嫌だった。
茜に触れていいのは僕だけがよかった。
僕だけ…
僕だけの茜…
茜を守れるならその男と殴り合いになっても別にいいとも思った。
だって茜は僕の大切な人だから。
僕のそばにいて欲しいから。
僕が茜のそばにいたいから。
僕は…
僕は…好きだ…。
茜のことが好きだ…。
茜を手放したくない。
このまま一緒にいて欲しい。
僕は茜に温めて欲しいし、僕も茜を温めたい。
僕は…いつの間にか茜を好きになっていたんだ…
僕はそっと茜の両頬に手を添え、じっと目を見つめた。
「茜…好きだよ。」
僕がそう言うと、茜の目からはとうとう涙がこぼれた。
「私もっ斗羽くんのことが好きっ。大好きっ。」
茜の目からは次々と涙がこぼれていた。
僕の目からも涙があふれ出た。
茜をぎゅっと抱きしめる。
僕は…前に進めたんだ…。
やっと…やっと前に進めたんだ。
ちゃんと茜のことを好きになったんだ。
何度も茜のことを好きになりたいと思っていた。
でもどうしても葵が重なってしまっていた。
いつしかそんなこともなくなり、僕は茜のことをちゃんと見てたんだ。ちゃんと好きになってたんだ…。
「茜…今まで僕と一緒にいてくれてありがとう。時間が掛かっちゃってごめんね。これからも僕と一緒にいてくれる?」
「うん…一緒にいる。」
「好きだよ、茜。」
しばらくそうやって抱きしめ合っていた。
それから手を繋ぎ僕の家へと向かった。
家に着くなりすぐに茜にキスをし舌を絡めた。
口を離すと茜の顔を見た。
「茜…僕茜のことが好き。」
「嬉しい…。」
茜のその言葉を聞くと、また僕は茜の口を塞いだ。
茜のことを好きだと自覚した僕は、もう自分を止められなかった。
「茜…好きだよ…。」
「うん…嬉しい…私も…。」
「好き。」
「…私も斗羽くんが好き。」
丁寧に茜の体にキスを降らし舌を這わせる。
茜が十分に濡れたところでゆっくりと茜の中へと入っていく。僕のが全部入ると、動かずにそのまま茜を見つめた。
「本当に時間が掛かっちゃってごめんね。今までずっと僕のそばにいてくれてありがとう。」
僕は駅前で言ったことと同じことをまた言った。
「ううん。私がそばにいたかったから…。」
「うん。茜がそばにいてくれたから、ずっと寒かった心が温かかった。本当にありがとう。」
茜は僕の左頬に手を触れた。
僕はその手に自分の手を重ねるようにした。
茜…本当にありがとう。
それからそっとキスをした。
「好きだよ。」
「私も好き。」
それから優しく茜を抱いた。今まで茜がたくさん僕にくれた“好き”という言葉のお返しをするかのように、僕は何度も茜に好きだと伝えた。
終わると茜をすぐに抱きよせ頭を撫でた。
茜の温もり…茜の匂い…
安心する。
僕はそのまま眠りについた。
次の日は起きるとすぐに茜に昨日買ったものをプレゼントした。
「これ開けてみて?茜が気にいるといいんだけど。」
茜が包装を解き箱を開ける。
「…キレイ…かわいい…。」
「気に入った?」
「うん。ありがとう。どうしたのこれ?」
「昨日買ったんだ。忘れ物を取りに行くふりをして。」
「そうなの?」
「うん。でもそのせいで茜が男に絡まれちゃった。」
「…でも…そのおかげで今がある。」
「そうだね…。」
本当にそうだ。昨日のことがなかったら、僕はまだ自分の気持ちに気がついていなかったかもしれない。
「あ、あとね、お揃いのマグカップも買ったんだ。ほら。」
「本当だ。嬉しい。」
茜はかわいい顔をして笑った。
僕はその笑顔を見て心が震えた。
久しぶりの感覚だ。葵は重なっていない。
ちゃんと茜に心が震えた。
僕はそれが嬉しかった。
約2年間、僕は苦しんだ。
そのうちの10ヶ月くらい、茜は僕のそばにずっといてくれた。茜も苦しかったはずだ。自分のことを好きではない相手と一緒にいたんだから。
「茜、好きだよ。」
「うん。私も好き。」
僕は早速マグカップにココアを作り茜に手渡した。
「ありがとう。」
茜は嬉しそうにそれを受け取った。
これから…これから始まる。
茜との日々が始まる。
大切にしていかないと。今まで僕を支えてくれた茜を大切にしていかないと。
「ねぇ茜。」
「なに?」
「どうして1年近くも僕と一緒にいてくれたの?辛くなかった?」
「…正直…私じゃだめなのかなって思った時もあった。そういう時は少しだけ辛くなった。」
やっぱり…
ごめんね…茜…
「でもね、私が熱出しちゃった時あったでしょ?」
「うん。」
あの時は怖かった。
茜がなかなか起きなかったから。
「あの時ね、斗羽くん私のことをしっかりと見てたの。」
「…。」
「それがすごく嬉しくて…。」
確かに…あの頃から僕は、葵を想って苦しくなるようなことがなくなった気がする。
それに、あの時の茜は少し変だった。でも悲しそうにしていたり、苦しそうにしていなかったから、僕は考えないようにしていた。
あれは茜が僕のそんな変化に気がついた瞬間だったんだ。
「最初は熱を出した私のことを本当に心配しているだけだと思ってた。でも、斗羽くんはその後も変わらず私を見ていたの。そんなふうに私は感じてた。」
「だからね、もしかしたらって…このまま斗羽くんと一緒にいればいつかはってそう思うようになったんだ。」
「僕を見捨てないでいてくれてありがとう。」
「ううん。私がただ斗羽くんと一緒にいたかっただけだから。」
そう言う茜の声はとても優しかった。
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