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21 最低だ。
イチョウの葉が黄色く色づきはじめた頃…僕はまた1人で散歩をしていた。特に何かを考えていたわけではない。ただなんとなく…そうしていただけだ。もともと散歩が好きだったから。
もうすぐ僕が苦手な季節がくる。
寒くなりたくない。寂しくなるから。
でも…僕のそばには茜がいてくれる。今も変わらずいてくれている。
僕たちは順調に付き合っていた。
ありがとう…。
ありがとう茜…。
散歩をしながら僕はそんなことを考えていた。
「お待たせ。」
僕は茜の姿を見つけると駆け寄った。
「そんなに待ってないよ。」
茜は白い息を吐きながらそう言った。
今日は仕事が終わった後、ご飯を食べに行くことになっていた。昨日まではそこまで寒くなかったのに、今日になってぐっと気温が下がった。
すぐに茜の手を握る。
冷たい…早く温めないと…。
僕は自分のマフラーを外すと茜の首に巻いた。
「大丈夫だよ?」
「だめ。ちゃんと温かくして。」
それからまた茜の手をぎゅっと握った。
歩きながら茜とのおしゃべりを楽しみ、お店でも茜とのおしゃべりを楽しんだ。
「今日茜の家に行ってもいい?」
「いいよ。」
よかった…。僕はまだ茜と一緒にいたかった。今日は特に寒いから。
「シャワーにする?湯船に浸かる?」
茜は帰りながらそう聞いてきた。
「湯船に浸かりたいな。」
「わかった。帰ったらすぐに準備するね。」
茜と一緒に湯船に浸かる。僕は茜を後ろから抱きしめながら、またおしゃべりを楽しんだ。
目の前の茜のうなじが僕を欲情させ、そこにキスをして舌でなぞる。
「ん…」
茜からかわいい声が漏れる。
「さっきまで普通に話してたのに…。」
「茜のうなじにそそられた。」
僕は正直にそう言いながら、手を両胸の先へと移動した。そこはすぐに形をはっきりとさせ、茜からまた声が漏れる。
それから片方の手を下に移動しそこをなぞる。ゆっくりと指を入れて少し慣らすと、僕は我慢ができなくなり茜の腰を持ち上げ僕のを当てがった。
「ゆっくり腰落として。」
「…うん…。」
それからお風呂を出ても僕は茜を抱いた。
「とわくんっ、明日も仕事だからっ…」
僕は気がついたら夢中になって茜を抱いていた。
僕の悪いところだ…。
葵のこともこうやって夢中で抱いていた。次の日が仕事だろうがなんだろうが、とにかく葵の中にいたくてそうやって抱いていた。葵が僕で気持ちよくなっているのを…葵が僕でイク姿を見たくてそうやって抱いていた。
こんなんじゃだめだ…。
「ごめん茜…。」
僕は茜からそっと離れた。
「ううん、違うの。だからこれで最後にしようって言いたかったの。斗羽くんまだイッてないでしょ?いいよ、続けて。」
茜は少し息を切らしながらそう言ってくれた。
僕はその言葉に甘えて、また茜の中に戻った。
終わるとすぐに茜を抱き寄せる。
茜はすぐに眠りについた。
茜…ごめんね。ありがとう…。
「好きだよ。」
眠る茜に僕はそう呟いた。
また…思い出していた。
葵とあの男の2人の会話を。
これもお昼休憩の時のことだ。
僕はそんな2人にこっそりと近づき会話を盗み聞きしていた。
「お、今日はタコさんウインナーなんだな。」
…タコさんウインナー…
僕もそれが食べたい。
葵が作ったお弁当を食べたい。
羨ましいな…。
僕はそんなのお弁当に入れてもらったことない。子どもの頃の僕のお弁当のおかずは全て冷凍食品だった。クラスの中にはコンビニのパンやおにぎりを持ってきている子もいたから、まだマシだったのかもしれないけど。
高校の頃はお金だけ渡され、ずっと買い食いをしていた。
「うん。いつもと違うスーパーに行ったら、赤ウインナーが売ってたから。やっぱり赤ウインナーはタコさんにしないとね。」
「ははっ、そうだな。」
「子どもの頃ね、運動会のお弁当にこれが入ってると嬉しかったんだ。」
「俺も子どもの頃、遠足とかの弁当に入ってると嬉しかったよ。」
「はははっ。同じだね。」
「そうだな。同じだな。」
その後も数回2人の会話を聞いたことがあったけど、葵は嬉しそうに優しい声で“同じだね”と言うことが何回かあった。
葵の口癖だろうか…。
「琉佳くん、明日はお家でゆっくりしたいな。」
「俺もそう思ってたよ。」
「よかったぁ。同じだね。」
「あのね、この前私が買おうか迷ってたお皿あるでしょ?」
「うん。」
「あれやっぱり買おうかな。」
「俺もあれいいと思ってたよ?」
「本当?同じだね。」
「日曜日の夜はグラタンにしようかな。なんか食べたくなっちゃった。」
「おっ、俺もちょうど食べたいなって思ってた。」
「ははっ。同じだね。」
“同じだね”…
いいな。
葵と同じ…
いいな…。
僕も葵からそう言われたい。
その時の僕はそんなふうに思っていた。
結局…葵が僕に向かって“同じだね”と言うことは一度もなかった。
「斗羽くん、部屋着借りるよ?引き出し開けていい?」
「いいよー。」
僕はキッチンから茜にそう返事をした。
今僕は夜ご飯を作っていた。
「できたよー。食べよう?」
僕は寝室に向かって茜に声を掛けた。
でも、茜はなかなか戻ってこなかった。
僕は寝室へと向かった。
茜は…葵の服を手にして立ち尽くしていた。
僕は急いでそれを取り上げた。
「それ…なに…?」
僕はこれをまだこれを手放したくなかった。
なんて言おう…。
「もしかして…アオイさんの…?」
僕は何も言えなかった。
「斗羽くん…。」
「…。」
「斗羽くん。」
「…ごめん。茜のことは好き。でもまだこれを手放す気にはなれないんだ。」
「…。」
「こんな僕とは別れたい?」
「…。」
「もう一緒にいたくない?」
「…今日は…帰るね。」
「待ってっ、帰らないでっ。」
僕はずるい。
「ごめん。少し1人になりたいだけ。」
「別れたいの?」
「ううん。違うよ。ちょっと気持ちが…ごめん、1人になって落ち着きたい。」
「…。」
「ごめんね。」
茜はそう言うと僕の家を出て行った。
…。
僕は最低だ。
“ごめん、捨て忘れてただけ”とでも言って、ゴミ箱に捨てることをしなかった。
そうすれば茜を傷つけることにはならなかったのに。
それに、出て行く茜を追いかけることもしなかった。できなかった。
僕はバカ正直に“まだ手放す気にはなれない”と言った。
どうして僕は…。
僕は手にしていた葵の服を抱きしめた。
葵…
久しぶりにこうした。
久しぶりに葵の服を抱きしめた。
僕はまた葵のことを思い出していた。
ー「とわくん…すき…」ー
葵の優しい声…。
ー「美味しい…ありがとう。」ー
そう言って少しだけ笑う葵…。
ー「…斗羽くん…大丈夫だよ…」ー
僕の目をしっかりと見つめながらそう言う葵…。
それから…桜を背景にした美しい葵の姿…。
最低だ…。
茜のことを大事にしたいと思ってるのに。そう思ってるのに…。
僕は不安になるとすぐに葵を思い出してしまう。
葵の優しい声は僕を安心させてくれるから。
僕はアキトくんに電話をした。
アキトくんはすぐに出てくれた。
だからさっきの出来事を僕は話した。
『正直…きついな…。リオちゃんがそうやって忘れられない人の物を大切に持っているのは。』
アキトくんはそう言っていた。
『ただ単に、元恋人の物を思い出として持っているっていうのとはまた違うよね、白石くんの場合は。まだ忘れたくない、今でもその人のことを大切に思っているってことでしょ?』
「うん…。」
「でもね、もしリオちゃんがそういう物を持っていたとしても、俺はそれを無理矢理捨てさせたりはしないと思う。複雑な気持ちにはなるけどね。リオちゃんが自然とそれを手放す気になるまで、俺なら待つ。悔しいから。俺がそれを上回る存在になるんだって、そう頑張る。だからもしかしたら白石くんの彼女もそう思ってくれてるかもよ?ずっと一緒にいてくれてるんでしょ?」
「…アキトくんは…人間ができてるね。僕が今の彼女の立場だったら、たぶん…嫉妬に狂って彼女に酷いことをするかもしれない。おかしいよね。自分はこんななのにさ。」
たぶん本当に僕はそうしていると思う。
葵にもしたから。嫉妬をしては葵をめちゃくちゃに抱いた。
「人間なんて、所詮自分勝手な生き物だと俺は思うよ。今こうやって俺も言ってるけど、実際にそうなったら俺も本当のところはわからない。白石くんが言うように、俺も嫉妬心からリオちゃんを責めたり、酷いことをするかもしれない。」
「…アキトくんもそうなの?」
「そうだよ。俺は別に聖人でもなんでもない。白石くんから見て俺は“できた人間”に見えるかもしれないけど、ただカッコつけてるだけなんだ。”そうでありたい”自分を語ってるだけ。」
…。
以前、リオちゃんが言っていたことを思い出した。
ー「私は“普通の人”なんていないと思うな。みんな何かしら欠けていて、それを必死に克服したり、隠したり…だから普通…というか、“まとも”に見えるだけなんだと思うな。」ー
アキトくんも…。
「僕は…どうしたらいいんだろう…。」
「…俺だったらね、そういう捨てられない物があるなら、絶対に俺の目に触れないようにして欲しいな。」
「でも…見つかっちゃった。」
「んー…そうだよね。その子とは一緒にいたいんだよね?」
「うん。好きだから。」
「…だったら、素直に今の気持ちを伝えればいいんじゃないかな。」
「まだ…忘れられない人を大事に想ってるって?」
「いや。そう言葉ではっきりと言われるのはきつい。…例えば…“まだ心の整理が完全にできていない”…とか、そうやってやんわりと気持ちを伝えて欲しいかも。」
やんわりと…
そっか。自分の気持ちを伝えるにしても、色々な方法があるんだな。
僕はその時、ある会話を思い出した。
ー「僕は君に興味はないかな。」
「ひどいなぁ。ハッキリ言うんだね。」
「僕、ひどい?」
「うん。ひどいよ。断るにしてももっとやんわり言ってほしいな。」ー
やっぱり僕は欠けているんだ…。
「彼女のこと追いかけた?」
「ううん。」
茜は1人になりたいって言っていた。
僕はそれをアキトくんに伝えた。
「そっか。でもそれは強がりなんじゃないかな…。」
僕はそれを聞いても、結局茜の家に行くことはしなかった。
それは僕の気持ちがぐちゃぐちゃだったからだ。こんな中途半端な気持ちでは会えないと思った。
葵とどうこうなりたいだなんて今更思っていない。茜のことはちゃんと好きだし…。
でも、この葵の服はまだ手放せない。
僕はこの服を抱きしめたまま今日は眠りにつくことにした。
本当に僕はどうしようもないやつだ。
「葵が好きな季節は?」
「…春…。」
「僕も春が大好き。あと秋も好き。苦手な季節はある?」
「…冬…。」
「僕も同じ。なんで冬が苦手なの?」
「…寒いから…。」
「それも僕と同じ。僕も寒いの苦手。冬になったらこうやって僕が葵を温めてあげるね。だから葵も僕を温めて?」
「…。」
「ね…葵。…葵の中あったかいから、こうやって僕のことを温めて?」
僕はそう言うと動きだした。
「んあっ…はぁっ…」
「ね?こうやって僕を温めて。僕も葵を温めるから。」
葵の手を握ると指を絡めた。僕のが葵の奥に届くたびに葵はきゅっと僕の手を握った。
それがとてもかわいかった。
僕のが奥に届く度に…。
その時が唯一葵が僕をしっかりと捕まえてくれていたから、僕はそれが嬉しかった。
本当にかわいい…。
僕は葵にピタッとくっついた。
あったかい…。
そのまま葵の背中に腕を回しぎゅっと抱きしめた。
葵…
葵…
ずっと…僕の腕の中にいて…。
寒くなったらこうやって温めてあげるから。
だからずっと僕の腕の中に…。
…。
久々に葵の夢を見た。
僕の記憶だった。
葵の服を丁寧に畳むとそれを袋に入れ、今度は茜に見つからない所にしまった。
それから支度をすませると茜の家へと向かった。
インターホンを押す。
しばらくすると茜が出てきた。
「昨日はごめん。」
「…。」
「僕は茜が好き。でも…完全に気持ちの整理がついてるわけじゃないんだ。」
「…うん…。」
「僕と一緒にいて欲しい。…だめかな…?」
「…ううん。私も一緒にいたい。」
「本当?無理してない?」
「…無理してでも…斗羽くんと一緒にいたい…。」
茜の目には涙が溜まり始めた。
ごめん…。
茜ごめん…。
僕は茜を抱きしめ頭を撫でた。
「ごめんね。ありがとう。」
「…うん。」
「好きだよ。」
「私も好き。」
茜…ありがとう…。
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