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22 家族の温かさ。
あっという間に年末年始になった。
僕は茜と一緒に茜の実家へと向かった。
家の前に着くと僕は驚いた。
「大きいお家だね。」
「田舎だからね。和室だらけの古い家だよ。」
僕はこういうお家は初めてだったからワクワクとした。育った家は都心のマンションだったし、その後もあまり都心を離れず狭いアパート、それから社会人になってしばらくするとマンションへと引越した。だから田舎でゆっくりと過ごすことなんて今まで経験がなかった。
「やぁ、いらっしゃい。君が斗羽くんだね。」
出迎えてくれたのは酔っ払った茜のお父さんだった。
「もうっ。なんでお昼から飲んでるの。」
茜は少し怒っていた。
「別にいいだろう?いつものことだ。斗羽くんはお酒飲める?」
「僕弱いんです。」
「飲めないわけじゃないんだな。」
茜のお父さんはそう言うと、僕を家に招いてくれた。
「もう…斗羽くんが来るから飲まずに待っててって言ったのに…。」
茜はそう呟いていた。
「騒がしいけどゆっくりしていってね。」
茜のお母さんが優しい声でそう言ってくれた。
茜の声にそっくりだった。
リビングに通されると、そこは二間を利用した広間になっていた。
もうお酒で出来上がった人たちが盛り上がっていて、とても賑わっていた。
子どもたちは走り回り楽しそうにしていた。その子どもたちは僕を珍しく思ったのか次々に声を掛けられた。
「お兄ちゃん一緒にあそぼっ。」
「ねぇっ、おんぶしてっ。」
「あっちでゲームしよっ。」
手や服を引っ張られる。
すごく人懐っこい子たちだった。人見知りを全然しなかった。僕は困って茜の顔を見る。茜は「ごめんね」と言いながら、僕と同じように子どもたちに手を引かれ遊びだした。だから僕も子どもたちに誘われるがままに遊んだ。
こんなことは初めての経験だった。
僕は子どもの頃はひとりぼっちなことが多かった。友達と遊んだ記憶はある。それでもこんなに賑やかなのは初めてだった。
僕は当時を取り戻すかのように夢中になって子どもたちと遊んだ。それがすごく楽しかった。
夕方になると、おかずやおつまみなんかがテーブル一杯に並べられ、少し早い夕食が始まった。
本当に賑やかで、みんな好き勝手に話していた。
しばらくすると僕の両腕を子どもたちが引っ張り合い「僕と一緒にお風呂に入ろうよ。」「やだ。お兄ちゃんは俺と一緒にお風呂に入るんだ。」と、僕を取り合うようなことを言い出した。
僕は嬉しかった。
「じゃあみんなで入ろうか。」
僕はそう提案した。
「わーい。」
そう両側から嬉しそうな声が聞こえてきた。
僕は3人の子に腕を引っ張られながら浴室へと向かう。そこは大人が3人入っても余裕がありそうな広々とした浴槽があった。
僕たちは体を洗いっこしてからみんなで湯船に浸かった。
「お兄ちゃんは茜ちゃんの彼氏なの?」
「うん。そうだよ。」
「そっかぁ。じゃあまた会えるね。またここに来てね。」
その子は無邪気な笑顔でそう言っていた。
僕も…またここに来たい…。
こんなに賑やかなのは初めてだった。心が温かい。みんなが温かい。
僕は“家族”というものを肌で感じた気がした。
ずっと憧れていた家族…。
お風呂を上がると入れ替わるように茜が女の子たちに腕を引かれて浴室へと向かって行った。
「あっ、斗羽くんごめんねっ。」
茜はすれ違いざまにそう言っていた。
それからしばらくすると子どもたちは眠り、今度は大人の宴がはじまった。
「遠いところわざわざありがとうね。」
茜のお母さんが優しい声でそう言った。
「まぁ飲め飲め。斗羽くん。」
茜のお父さんは上機嫌でそう言った。
だから僕はいつもよりも飲んでしまった。頭がふわふわとする。
楽しい…。
家族って温かいんだな…。僕は今、その中にいるんだ。ボーッとする頭でそう感じていた。
気がついたら僕は布団で眠っていた。目の前には茜がいた。だから僕はそっと茜を抱き寄せる。
「…とわくん…?」
「ごめん…起こしちゃった?」
「大丈夫…。」
僕は茜の前髪を掻き上げると、おでこにキスをした。
茜は僕をぎゅっと抱きしめる。
かわいい…。
「今2人きりだよ。」
「…え?」
「ここ私の部屋なの。」
僕は酔っていてここがどこなのかよくわかっていなかった。そんな僕に茜は教えてくれた。
「だから…」
「ん?」
「…しよ…?」
僕はそんな茜の言葉を聞いて一気にスイッチが入った。
「声は?我慢しないといけない?」
「ううん。2階は私たち以外に誰もいないよ。それにみんな、もう酔い潰れてる。」
茜がそう言っていたから、僕は遠慮なく抱くことにした。
「はぁっ、もうっ…イク…っ…」
「うん…いいよ。」
「とわくんっ…すきだよっ…」
「僕も好き。」
「っ…ああっっ…」
茜の体がビクンと震えた。
かわいい…。
その後僕もイクと、今日はそれ以上はできなかった。お酒を飲みすぎた…。まだ抱きたかったのに。それから茜を抱きしめ眠りについた。
朝になり、また茜を抱いた。
もしかしたら誰かが起こしにくるかもしれないと思い、ゆっくり、ゆっくりと抱いた。
この日は茜の家の周りを散歩した。
田んぼばかりで、空が広くとても気持ちがよかった。
「どう?田舎もいいもんでしょ?」
「うん。僕ここ気に入ったよ。空が広くて気持ちいいね。それにみんなも温かかった。」
「よかった。今日もまた昨日みたいなのが続くよ。」
茜は少し呆れながらそう言った。
「そうなんだ。また賑やかになるんだね。」
「うん。お酒勧められても無理して飲まなくていいからね?」
「わかった。でも僕も楽しくなってついつい進んじゃうんだ。」
「それならいいけど。」
僕たちはそんな会話をしながら手をつないでゆっくりと散歩をしてから、また家へと戻った。
お昼になると、また大人たちは飲みはじめた。
本当に賑やかだ。
それから茜の実家で年越しをすると、1日の夜には僕の家へと帰ってきた。
「はぁ…楽しかったぁ。」
僕はそう言いながら茜を抱きよせソファーに座った。
「本当?」
「うん。僕あんなに賑やかなの初めてなんだ。」
「ただうるさいだけだったでしょ?いつもああなんだ。斗羽くんは親戚少ない?集まったりしないの?」
…茜にはまだ言ってなかったな…。
「僕ね、ひとりぼっちなんだ。両親にも会ったことない。僕が生まれてすぐに2人とも死んじゃったんだって。それから遠い親戚に引き取られたんだけど、僕はその人たちの家族にはしてもらえなかった。」
「…どういうこと?家族にしてもらえなかったって…。」
僕は説明した。
小さい頃から居候として育ってきたことを。
茜は悲しそうな顔をした。
「だからね、あの家を出てから育ての親に会ってないんだ。連絡も取ってない。」
「私が…そばにいるからね。」
茜はそう言ってくれた。
「ありがとう。」
「また、私の実家に一緒に行こう?」
「うん。また行きたい。」
僕は茜をぎゅっと抱きしめてくれた。
残りの休みはずっと茜と2人で過ごしていた。
茜がいてくれたから、僕はずっと温かかった。
休みが明け、また仕事が始まる。
今日はリオちゃんと約束をしていた。
仕事が終わりいつものカフェに向かう。先にリオちゃんが着いていた。
「あけましておめでとう。」
「おめでとう。」
2人でそう軽く挨拶をする。
「大人の1年て早いよね。」
リオちゃんはそう言った。
「うん。そうだね。」
「…私ね…アキトくんと別れようと思って。」
うそ…なんで…
「どうして?」
「もうすぐ1年になるの。アキトくんと付き合って。でも…私まだよくわからないんだ。アキトくんのことが好きかどうか。好きは好きだよ?ただその“好き”が人としてなのか、特別なのか…。それか寂しくてただ一緒にいたいだけなのか。」
「…アキトくんは?変わらずリオちゃんと一緒にいたいって思ってるんじゃない?」
「うん。そう言ってくれてる。」
「もう少し甘えてもいいんじゃない?」
「1年だよ?もう十分過ぎるほど一緒にいてもらったよ。」
…確かに…僕も茜にそう思ってた。
半年時の時も、その後も。
でも、アキトくんはいい人だし、本当にリオちゃんのことが好きだし…
「辛くなっちゃったの?」
「うん。辛くなっちゃった。」
「まだタケルくんのことが好き?」
「うん…でもどうこうなりたい訳じゃない。ただ…忘れられないだけ…。」
「別れないで。」
「え…。」
「別れないで欲しい。」
「…。」
「いい人だから。」
「…だから…辛いんだよ…?」
結局…リオちゃんの気持ちは固まっていたようだった。僕はもう何も言えなかった。
なんだか僕は、とても寂しい気持ちになった。
リオちゃんがまたひとりになっちゃう。
心が寒くなっちゃう。
僕は寂しい気持ちのまま家へと帰った。
次の日、僕は茜と会う約束をした。
リオちゃんの決断に、なんだか僕の方が寂しくなってしまって、茜に会いたくなった。
茜と待ち合わせをすると、すぐに僕の家に連れ帰り抱きしめた。
「どうしたの?」
「…リオちゃんがね、別れるって。」
「…残念だね…。」
「うん。」
「悲しいの?」
「うん…。リオちゃん…心が寒くなっちゃう。」
「斗羽くんは優しいね。」
「ううん。そんなんじゃない。」
「優しいよ。」
僕は茜を好きだと思える“きっかけ”があった。でもリオちゃんにはそれがなかったんだ。
それとも本当にアキトくんのことを好きになれなかったのか…。
「茜…僕茜のことが好きだよ。僕と一緒にいてくれてありがとうね。」
「私がそうしたかったから。」
「…ありがとう…。」
僕は茜をぎゅっと抱きしめた。
数日後、アキトくんから連絡があった。
“飲もう”と。
きっとリオちゃんのことでだ。
僕はそれに了承した。
「久しぶり。」
「うん。久しぶり。」
「俺…リオちゃんにフラれちゃった。」
「…うん…。」
「俺じゃだめだったみたい。」
アキトくんは苦しそうだった。
「何がだめだったのかな…。俺…全力で頑張ってたのに…。」
「アキトくんは何も悪くないよ。」
「…俺…リオちゃんのこと…本当に好きなんだ。でも…だめだった…。1年も一緒にいたのに、だめだった。」
僕はアキトくんの姿を見て苦しくなった。アキトくんに茜の姿を重ねて見ていた。茜もきっと、苦しんだんだ。それなのに僕と一緒にいてくれた…。
「ごめんね。こんな飲み楽しくないよね。でも…こんなこと話せるのは白石くんしかいなくって…。」
「いいよ。僕のことは気にしないで。」
僕はそうとしか言えなかった。
リオちゃん…本当にアキトくんじゃだめ?
僕は心の中でリオちゃんにそう問いかけていた。
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