なまけものは、今日も修羅の道を行く

闘者 在前

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第一章

はじめてのおつかい

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 猛ダッシュで村長の下にはせ参じたオレに、村長は睨みをきかせて一言。
「遅せぇ」
「すいませんでしたぁ」
 速攻謝罪するオレ、脂汗ダラダラである。
(悪いのはあなたの息子なんですけどぉ、オレは全く悪くありましぇ~ん)
「まぁいい、イツキお前に頼みたい事があるんだが?」
「ハッ、何なりとお申し付けください」
 オレは条件反射で敬礼をしていた。
「なんだそれは?」
「いえ、特に意味はありませんです」
 村長は呆れた顔をしてから、一息ついて。
「そんじゃ本題だ、明日の朝一でイオアニス村にこの荷物を届けてくれ、この手紙と一緒に」
 テーブルの上にバックが置いてある、これのことだろう。
「オレ一人じゃないですよね?」
「勿論だ、アシリアと二人で行ってもらう、他に質問はあるかい?」
「どなたを訪ねて行けばいいのでしょうか?」
「あぁ、その辺はアシリアが心得ているだろうが、イオアニス村の村長で『エイデン=クラーク』という人物がいる、そいつを訪ねていけ」
「荷物を届けるだけでいいのですか?」
「ん~そうだねぇ、明日一日お前に暇をやる、いい機会だから少し村の様子を見て回るといい、他に何か?」
「分かりました」
「よし、話は以上だ」
 オレは絶えず緊張しながら村長の部屋を出た。
(疲れた、たった数分話しただけなのに、村長怖えよ!そうだ早くアシリア手伝いに行かなきゃ)
 今だに一人で剣の練習をしているフローラを横目に見ながら、アシリアの所に向かった。
(あんな剣の使い方じゃあ復讐どころじゃないな、ほとんど独学って感じか)

 アシリアの所に着くと、子供達と洗濯物を干しているところだった。
「すまん、村長に呼ばれて遅くなった」
「よかったわね、タイミングよく母に呼ばれて」
「だからゴメンって、しばらく手伝うからさぁ」
「先に子供達をよこして、イツキはズルいわよねぇ」
 すると子供たちまで一斉に。
「イツキのズル~」
 なんて息が合っているのやら。
 アシリアをなだめながら、なんとか手伝いが終わったのでフローラの事を聞いてみた。
「なぁ、ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「ん?何が聞きたいの?」
「フローラの事なんだけどさぁ」
「えっ、なんでフローラの事聞きたいの?あっ、あぁ、そうだよね、フローラ可愛いものね、気になるよね、そっかぁ、イツキはフローラみたいな娘が好みなんだぁ」
 そう言いながらアシリアは後ろを向きうつむいた。
「いや、そういうのじゃなくて、さっきヴィレムから大体の話は聞いたんだけどさ」
「そう なんだ、兄さまに聞いたのに、まだ聞きたい事があるの?」
 アシリアがこっちに向き直った。
「あぁ、この村の人達はフローラが復讐する為に剣の練習してるのは知ってるんだよな?」
「うん知ってる」
「なんで誰も止めないんだ?」
「それはフローラが決めた事だから、ううん、最初はみんな止めたんだよ、でもフローラの意思はとても固くて、それにフローラの気持ちは痛いほど分かるし、だから誰も何も言わなくなったの、イツキはそんな私たちを薄情だと思う?」
 アシリアは悲しそうな顔でそう言った。
「薄情だなんて思ってないさ、この村の人達は優しくて暖かい人達ばかりだ」
「うん」アシリアは頷いた。
「そっかぁ、見守るのも優しさの一つなのかもなぁ」
 オレは空を見上げて、そう言った、そして。
「そうだ、明日よろしく頼むぜぇ、道案内」
「この私の荷物持ちとして連れて行ってもらえるんだから感謝しなさいよね」
「ヘイヘイ、荷物持ちとして頑張りますよ」
「二人だけだからって、私に変な事しないでよね」
「アシリア、それってフッ」
 フリですか?って言い切る前に、アシリアのアッパーカットが炸裂した。
「フリじゃないんだからね、男ってみんなスケベなんだから」
 と言いながら歩いていってしまった、顔を赤く染めながら。
(今のは効いたぜアシリア、いいアッパーだ、やっぱりフリだな)


 その後オレはフローラが剣の練習に励んでいる所に向かった。
 実はオレがまだこの村に来て間もない頃にフローラに話しかけた事があった。
 その時はただ単に、フローラが可愛かったから話しかけたのだったが、完全にスルーされてしまった。
 気難しい娘なのかなぁ、と、その時はまだ事情を知らないオレは思っていた。
 なので今回は、少し離れた所で見ているだけにした、木に寄りかかったり、寝そべったりしながら。
(四年もこんな事やってんだよなぁ、誰にも指示を仰がなかったのかなぁ)
 そんな事を考えながら、三十分くらい経った頃だろうか、フローラが剣を振りながら一言。
「気が散るんだけど」
(えっ、今オレに話しかけた?)
「見ているだけだ、気にするな」
 フローラは何も答えず剣を振り続けた。
 オレは無視されてもいいから、話かけ続けてみようと思った。
「なぁ、少し休んだ方がいいんじゃないか?」
「果実水持ってきてやろうか?」
「魚釣りにでも行かない?」
 とか少しずつ話しかけたが無反応。
 そしてその数分後、オレはあぐらをかき頬杖をついて何も考えずに、こうポツリと呟いた。
「フローラは可愛いのに勿体ないよなぁ」
 すると今まで殆ど反応が無かったフローラが、初めて剣を振る手を止めた。
「なっ、何を言っているの?」
 顔は横を向いたまま、小さな声でそう言いながら、頬が少しだけ赤くなっている気がした。
「フローラは可愛いって言ったんだけど」
「そ、そんな事私には分からないわ」
「いや、本当の事だよ、少なくともオレはそう断言出来る、フローラは最近の自分の顔を良く見た事あるのかい?」
 フローラの両親が生きている時は、両親や村人からいつも「フローラはなんて可愛いのかしら」とか「フローラは将来必ず美人になるから、悪い虫が付かないように気を付けないと」とか色々言われていた。
 しかし両親を殺され復讐を誓ったフローラに、そんな言葉をかける人はいなくなっていた。
「私の事は聞いているのでしょ?」
「あぁ、聞いてる」
「私は、両親の仇を必ず討つの、そう誓ったの」
 フローラは剣を持つ両手に力を込め、剣を見つめながらそう言った。
「とても立派なご両親だったって聞いてる、その両親が復讐なんてものを望んでいなくても?」
 フローラはピクッと反応したが。
「私には分かる、仇を討てと言うはずだし、私は必ず討ってみせる」
 そう言ってフローラは立ち去って行った、オレにはその後ろ姿が泣いているように思えた。
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