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Ⅵ
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しおりを挟む「樫崎優月です。いつもマダムにお世話になっています。こちらこそ……楽しい時間をありがとうございました」
彼女は頭を下げた僕を品定めするように見た。全く遠慮のない見方に僕はなんだか前に見たことがあるような感覚を覚える。マダムの視線にそっくりだった。
僕は居心地が悪くなって、少しだけ首を傾げてかぐやさんを見る。
そうしたらかぐやさんは蝶の羽ばたきのようにクスクス笑うんだった。僕の思ったことなど簡単に見透かされてしまいそうだった。
裏腹に、涙が引いたといっても、先まで涙を零していたことなんて顔を見れば分かるはずなのに、それに関しては少しも言及してこない。僕にとっては好都合だが、狐につままれたような気分だった。
「貴方の話はよく聞いているわ。母も父も、それから息子も……貴方のことをとても気に入ってるみたい」
「え?」
「なんだか分かる気がするわ。貴方、可愛いのね」
それは子どもの頃に一番言われたい言葉だった。だけど僕は結局一度も可愛いなんて言われたことはなかった。そして可愛いと言われたがるには僕はあまりにも大人だったので、今更ながらずっと憧れていたその言葉を誰かに投げかけられても、複雑な心持ちになるだけだった。
「お気に召さなかった?」
かぐやさんの黒曜石のような双眼が僕を捉えて離さない。
彼女がノエルの母ならば、僕がどれほど取り繕ったところで無駄なのだ。
僕はいえ、と言いながらなんともいえない反応をする。
「言われ慣れていないので正直よく分かりません、でも」
でも、と僕は息を吸う。
「かぐやさんがそうおっしゃるのならば、貴女の中の僕は可愛いってことでいいんだと思います」
かぐやさんは声を出して笑った。笑顔がノエルと瓜二つで、僕はやっぱりこの人を嫌いになれない。そんなに面白いこと言ってないけど、顔をしかめられるよりはいいかって思った。
ひとしきり笑った彼女は、小さなショルダーバックから、手の上に乗るくらいの包みを取り出して僕に渡した。
「ささやかだけど、受け取って」
貴方にきっと似合うと思ったの、と彼女は笑う。僕たち初めて顔をあわせるのに似合うも何もないよね。やっぱり不思議な人だな。でも彼女がそういうならほんとうにそう思って買って来たんだろう。
僕は促されるままに包みを開ける。
コーラルピンクのシンプルなシルクローンのリボン帯だった。僕はリボン帯を見て、満面の笑みのかぐやさんを見て、もう一度リボン帯に目を落とす。
これが僕に似合う、だと……?
「あー! ずるい! ノエルもー!」
僕が手に持っているものを見て、今まで静かにしていたノエルが声を上げる。
「お揃いのがあるわよ」
「やったー!」
かぐやはノエルの首からさらっとスカーフを外すと、包まれていない僕が手に持っているものと全く同じリボン帯をカバンから取り出してノエルの首もとに巻いてやるんだった。
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