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Ⅵ
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しおりを挟む「おにいちゃんの、ノエルがむすんであげるね!」
ノエルは僕に向かって腕を伸ばす。しゃがんで欲しいのだとすぐに分かった。
「え、ええっ、と……」
僕は少し考えて近くのベンチに座って、ノエルを隣へ抱き上げる。彼が結びやすいように体を向けると、ノエルは嬉しそうにベンチに膝立ちになって僕のブラウスの襟を引っ張って立てた。僕が手に持っているリボン帯を掴む。
僕は彼が結びやすいように首をもたげた。
あくせく僕の首にリボンを巻こうとするノエルを見ながら、僕は翔とノエルのやり取りのことを思い出していた。時間のない朝に、翔はノエルを傷つけないで彼の申し出を断っていた。ノエルの気持ちを大切にしていた。
そんな彼が、すごく素敵だと、思った。
翔はみたのかもしれないけれど、僕はノエルがリボン結びをするところをまだ見ていない。時間に余裕はある。これから彼と別れること思うと、僕は一分一秒だって長くノエルといたいと思う。
楽しみだなという気持ちと、可愛いな、という気持ちと……寂しさと緊張が複雑に絡み合った、そんな心持ちでノエルを見ていた。
「勝負リボンよ」
いつの間にか僕の隣に座っていたかぐやさんが静かな声で言った。
「勝負リボン……?」
初めて聞く言葉だったけど、なんだろう、なんとなくニュアンスは伝わった。
大切な日に首に巻くやつってことでいいのかな? 晴れ着みたいなもの?
僕は視線だけかぐやさんの方に向ける。
吸い込まれそうな黒い瞳が僕を映していた。赤い唇が弧を描く。幻想的な綺麗さに、僕は少しだけどき、としてしまった。これが恋? とかいうやつではないけど、すごく迫力があるのだ。僕には絶対に届かない世界にいる人だ。
「私の魔力を詰め込んで、まじないを掛けておいた」
「強そう」
「勇気が出る魔法」
彼女は静かに、話はよく聞いてるわ、とさっき言ったのと同じ言葉を僕に投げかけるんだった。全部知っている顔だ。
僕は困ったように笑う。
「今の貴方なら、きっと大丈夫」
かぐやさんとの会話に夢中になっているうちに、ノエルは一仕事を終えたみたいだった。
「できたよ!」
満面の笑みで僕を見上げるノエル……天使? 側には歪で不格好に結ばれた、コーラルピンクのリボン帯が見える。右と左で輪っかも何もかも非対称で裏返ってねじれていて、まだリボン結びができるようになってまもない人が結んだんだと一目見れば分かる出来栄えだった。
でも僕はすごく嬉しかった。すごく、すごく嬉しかった。出来栄えとか正直どうでもよくて……かぐやさんがリボン帯をくれたこととか、ノエルが頑張って結んでくれたこととか……そういうこと全部が幸せだった。
「ありがとう、ノエル……とっても上手なんだね」
僕の一言で、弾けるように笑うノエルが愛しい。
「でもさ、ピンクでリボンって、これは僕に……似合っているの? ノエルは似合ってるけど、……正直ちょっと恥ずかしい」
「うん! ノエルといっしょ! あはは! かわいい!」
ノエルが嬉しそうだからもうなんでもいいやって思った。
これがいいんだ僕は。ノエルが笑ってくれるなら他はどうでもいいんだ。ノエルとさよならしても、確かに僕がノエルといたことをこのリボンが証明してくれるんだ。
それが一番、大事なことだ。
幸せなんだ。
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