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……ばか
しおりを挟む「でね、その子がさ……たまにICHIKAの買い物袋を持ってる時があってね、へえ、一階で売られてるうちのベビードールを着てプレイするんだな、うちのランジェリー安くないのにな……っていうか、女物の下着着られちゃうってすごいな、とか……いろいろ想像した。なんかさ、気づいたらその子のことばかり考えていて……その子に似合うベビードールを、考えたりして……どんな声なんだろう、どんなふうに笑うんだろう、どんな字を書くんだろう、どんなことが好きで、なにがこの人をそうさせているんだろう、って……この人に近づきたい、それで、この人の特別になってみたいってすごく思った」
ミチルは一度も春人に視線を向けずに、ぽつりぽつりと、まるで独り言のように話続ける。とても他人事じゃない春人は、すごくはらはらしてどきどきした。
「高校入学して、ある男子生徒と廊下ですれ違った。ネクタイの色が同じだったから、同じ学年の生徒だって、ただそれだけ思ってたんだけど……すれ違う瞬間気付いた。ICHIKAの男の子だって。同じ高校に入ったんだって、奇跡だ、運命だって一人で盛り上がった。それで、本人は想像していたよりもずっと美しくて儚かった……一目惚れした」
ミチルがようやく春人に目を向けて、それで苦笑する。
「もう四年くらい片思いしてたんだけど……一回振られて……昨日晴れて両想いになれたんだよね……長かったなあ」
今度は春人が視線を逸らす番だった。
「……ばか」
悪態をついて火照る体を沈めようと目を伏せる。……僕が気付かなかっただけで、ミチルは僕のことを中学生のころからずっと見ていたんだと思った。そう思うと、こそばゆくて情けなくてすごくすごく恥ずかしかった。
そんな春人を見て、ミチルがくすくす笑っている。
「長々と話してごめんね……とりあえず、なにか飲む?」
春人は頬を赤くしながら伏し目がちに頷いた。ミチルが笑いかけてくれる。今になってもこの人がこうやって自分に笑いかけてくれる現実は、やっぱりどこまで行っても非現実的だった。海がここにはいないのは分かる。ミチルが助けてくれたんだってことは、分かる。
でも幸福感より罪悪感のほうが強い。彼の後ろ姿を見ていると、迷惑してるんじゃないだろうか、自分が助けを求めたばっかりに、とつい消極的になってしまう。
ミチルは白のマグカップに入った温かい飲み物を持ってきてくれた。彼によると、温めた豆乳にはちみつを入れた飲み物らしい。はちみつの味は知っているけど、豆乳を意識して飲んだことはなかった。
しばらくカップの中を覗き込んでいた。ミチルがベッドに腰掛けてこちらを見ているのが分かる。ちらとミチルのほうを見たら、首を傾げて微笑んでくれる。不安だったけど口に含んだ。すごく優しい味がした。温かさが喉を伝って空の胃に広がっていくのが分かる。
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