【完結/R18】公爵の旦那様の後妻に収まったら、とんでもない隠れ絶倫でした!!

久藤れい

文字の大きさ
24 / 24

24話

 普段、エルミールより先に起きるアルベールの寝顔を見るのは初めてだった。
 穏やかに眠る表情が愛おしい。

 そっと手を伸ばしてアルベールの前髪を払う。彼が寝ている彼女によくしている仕草だと知らないまま。

(こうしていると少し幼く見えて可愛いわ)

 ときめく心臓を抑えつつ、笑み崩れる。
 暫く寝顔を見つめていると、長いまつげがふるりと震える。
 目覚めの気配にエルミールが静かに待っていると、アルベールの紫水晶の瞳が露わになる。

「……すまない、寝過ごした」

 寝起きがいいらしいアルベールからかすれた声で謝られ、にこりと微笑むにとどめる。
 声を出さなかったのは、喉が痛かったからだ。

 エルミールの様子から察しただろうに、アルベールは甘えるように彼女を抱き込んで離さない。

 情事の朝特有の甘い空気に、彼女もまた身体を摺り寄せる。
 窓から差し込む光の様子から、すでに朝ではなく昼に近いのだろうが、そんなことは些細なことだ。

「エルミール、もう無理はしないでくれ」

 ふいにアルベールがそう告げた。
 軽く首を傾げたエルミールを抱きしめて、迷子の子供のような頼りない声音で話し出す。

「君が攫われたと聞いて、生きている心地がしなかった」

 心配をかけたのだと理解し、エルミールが一つ頷くとアルベールはぎゅうとさらに彼女を強く抱きしめる。

 少し苦しかったが、愛情を伝えてくれているのだと分かっているから何も言わない。
 アルベールの背に手を回したエルミールは、触れ合う素肌の感覚にとろりと瞳を溶かす。

「啖呵を切ったのが聞こえていた。だが、あんな無茶はもうしないでほしい」

 凛々しい君も素敵だが、心臓が冷えたんだ。
 そう言われてしまえば、返す言葉がない。

 こくんと再び頷いたエルミールから少しだけ距離をとってアルベールが額を合わせる。
 その表情が彼女の予想以上に疲弊して見えた。

 それだけの心労をかけたのだと知り、心が痛む。
 そうっとアルベールの頭を撫でる。
 気持ちよさそうに目を細めた彼の様子に、エルミールもまた笑み崩れた。

「エルミール、愛している」

 ちゅ、と触れるだけの口づけを贈られて微笑む。
 暫く二人で無言で抱き合っていたがエルミールのお腹が空腹を訴えたことによって終わりを告げた。

「ふ。……食事にしよう。ああ、その前に水だな」

 小さく笑ったアルベールが身体を起こす。
 何も身に着けていない逞しい身体をぼんやりと見上げていたエルミールに、ベッドサイドに用意された水差しから水を入れたグラスが渡される。

 こくこくと少しずつ飲むと喉の痛みがだいぶマシになった。
 水を飲み終えてグラスを手にしていると、アルベールがひょいと取り上げてしまう。

「先に湯を浴びる。その後は仕事をしているから、用意が出来たら一緒に食事にしよう」
「はい」

 まだ多少は掠れていたが、それでもなんとか声に出して頷くとアルベールもまた甘く微笑む。

 バーデル公爵家に嫁に入ってから、すっかり朝が遅くなっている。
 良くないのだろうが、夜毎に可愛がられては仕方ない。

 内心で言い訳をして、湯あみに行ったアルベールの後ろ姿を見送った。
 彼が出てくるのを待ってメイドの手を借りて湯を浴びよう。
 そう決めてエルミールは情事の跡が色濃く残る寝台に再び横になるのだった。





 身支度を整え食堂に降りて待つ。
 暫くしてやってきたアルベールとフランシスと共に、すでにブランチでもなくただの昼食にあたる食事を摂っていたとき、ふいにこみ上げてきた吐き気にエルミールは口元を抑えた。

「っ」
「エルミール?!」
「お義母様!!」

 カトラリーを落として前のめりになり口元を抑えた彼女に、アルベールが慌てて駆け寄ってくる。

 気持ち悪い。ただただ気持ち悪くて仕方ない。
 青い顔をしているエルミールに、フランシスが医者を呼ぶ声が聞こえてくる。

 慌てているアルベールを安心させたいのに、微笑むことも難しい。
 ふいに視界が回った。抱き上げられたのだと理解し、身体の力を抜く。

 アルベールの手によって寝室に戻されたエルミールは、医者が到着するまで真っ青な表情をした彼に手を握られていた。





「ご懐妊です。おめでとうございます、旦那様、奥様」

 フランシスによって慌ただしく急き立てられて到着した医者が告げた言葉に、エルミールはもちろんのこと、アルベールもフランシスもぽかんとしていた。

 穏やかに笑う老齢の医者の言葉に、じわじわとエルミールの頬に朱が昇る。
 そっとまだ薄い腹を抑えて、ぽつりと言葉を零した。

「子供が、いるの……?」
「その通りでございます。奥様」

 二人のやり取りを聞いていたアルベールが一拍遅れて意味を理解したらしく、大きく目を見開く。

「子供? 俺と、エルミールの……?」
「はい」

 信じられない、と言わんばかりの言葉に医者が再び頷く。
 じわじわと喜びがやってきた様子のアルベールが、寝台の上でクッションを背に身体を起こしているエルミールを抱きしめる。

「!! よくやった、エルミール!!」

 そのあまりに無邪気な喜び方にエルミールもほっと息を吐く。
 放っておけば彼女を抱き上げてしまいそうなアルベールに釘を刺したのはフランシスだった。

「父上、お義母様に負担をかけてはいけません」
「っ! そうだな、そうだった」

 我に返ったアルベールが離れていくのが寂しい。
 思わず服の裾を握ったエルミールに、彼が笑み崩れる。
 ラブラブな二人の空気をあえて放置して、フランシスが医者に問いかける。

「今後の生活で特に気を付ける点などは?」
「そうですなぁ……あえて言うならば、夜の営みはほどほどにしていただきませんと」
「なに?!」

 医者の言葉にアルベールが狼狽える。
 妊娠すれば当然のことを言われただけなのだが、彼にとっては青天の霹靂だったらしい。

「ど、どれくらい我慢すればいいんだ……?」
「まあ、基本的に推奨は致しません」
「!!」

 先ほどとは別の意味でショックを受けている様子のアルベールが少し可哀そうではあったが、ここでエルミールが慰めてはいけない。
 子供のためにも心を鬼にして、提案を一つする。

「寝室を分けますか?」
「?!」

 エルミールの言葉にアルベールが傷ついたように目を見開く。
 普段冷静な彼らしくない反応に、思わず首を傾げると縋りつくように告げられる。

「エルミール! どうしてそんなことをいうんだ……!」
「父上が我慢できないからでしょう」
「!」

 さらりとトドメを刺したフランシスが衝撃を受けているアルベールを放置して、エルミールの傍に膝をつく。

「お義母様、ありがとうございます。子が男児でも女児でも私は祝福いたします」
「ありがとう、フランシス様」

 素直な祝辞の言葉にエルミールが微笑むと、アルベールがこほんとわざとらしく咳払いをする。
 フランシスの隣に立ち、優しく彼女を見つめる瞳に宿る確かな愛情に、心がざわつく。

「エルミール、本当にありがとう。ますます無理はしないでくれ」
「はい、アルベール様」
「……寝室は一緒だが、自制はする」
「ふふ、はい」

 小さく笑ったエルミールに、アルベールは少しだけ罰が悪そうだ。
 それでも幸せには変わりない。
 まだまだ薄い腹を優しくなでて、心の中でまだ見ぬ子供に話しかける。

(安心して生まれてきてね。あなたのことを皆が待っているわ)

 エルミールもアルベールも、フランシスだって。
 それに彼女の家族もまた、まだ見ぬ子供を祝福してくれるに違いない。
 穏やかに微笑むエルミールを、愛おしげにアルベールが見つめていた。



 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 これにて完結になります!!

 面白いと思っていただけましたら『お気に入り』や『作者フォロー』をしていただけたら嬉しいです。
 『♡』をたくさん押していただけますと、作者の活力になります!
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

毒味役の私がうっかり皇帝陛下の『呪い』を解いてしまった結果、異常な執着(物理)で迫られています

白桃
恋愛
「触れるな」――それが冷酷と噂される皇帝レオルの絶対の掟。 呪いにより誰にも触れられない孤独な彼に仕える毒味役のアリアは、ある日うっかりその呪いを解いてしまう。 初めて人の温もりを知った皇帝は、アリアに異常な執着を見せ始める。 「私のそばから離れるな」――物理的な距離感ゼロの溺愛(?)に戸惑うアリア。しかし、孤独な皇帝の心に触れるうち、二人の関係は思わぬ方向へ…? 呪いが繋いだ、凸凹主従(?)ラブファンタジー!

下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。 王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。 そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。 これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。 ⚠️本作はAIとの共同製作です。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから

キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。 「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。 何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。 一話完結の読み切りです。 ご都合主義というか中身はありません。 軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。 誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

夫が十歳の姿で帰ってきた

真咲
恋愛
「これが、俺の未来の妻だって?」 そう言って帰って来た夫は、十歳の姿をしていた。 両片想いの伯爵夫婦が三日間で自分の気持ちに気づく、或いは幼少期の自分にしてやられるお話。 他サイトにも掲載しています。全4話。一万字ちょっとの短いお話です。

年下で可愛い旦那様は、実は独占欲強めでした

由香
恋愛
政略結婚で嫁いだ相手は―― 年下で、可愛くて、なぜか距離が近すぎる旦那様でした。 「ねえ、奥さん。もうちょっと近く来て?」 人懐っこく甘えてくるくせに、他の男が話しかけただけで不機嫌になる彼。 最初は“かわいい弟みたい”と思っていたのに―― 「俺、もう子供じゃないよ。……ちゃんと男として見て」 不意に見せる大人の顔と、独占欲に心が揺れていく。 これは、年下旦那様にじわじわ包囲されて、気づいたら溺愛されていた話。

王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!

奏音 美都
恋愛
 ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。  そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。  あぁ、なんてことでしょう……  こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!