【完結/R18】生贄姫は竜神の花嫁となって溺愛される

久藤れい

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12話

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 ヴェルディグリスはカラミティに夜以外もステファニアの元を訪れるように促されて、彼女の部屋に足を運んだ。

 カラミティをステファニア付けにして以来、なにかを言いたそうにずっと瞳で訴えている。幼い頃から育ててもらった乳母だけにあまり無下にしたくはないが、ステファニアのことに関してはあまり口を出されたくもない。

 そう思っているのに、なぜメイド長である彼女をステファニアの専任にしたのかと言えば、最も信頼できる女性がカラミティだったからだ。

 ステファニアに万が一があってはならない。下手な竜族のメイドをつけて、嫉妬から害される危険を排したかった。

 竜神と祀られるヴェルディグリスだが、全ての竜族が彼を崇めているわけではない。
 それは先日の不埒な男どもの一件でも明らかだ。

 そして同時に、人間を花嫁として迎えるのではなく、自らを妻に向か入れてほしいという竜族の女性たちは少なくない。

 彼女たちに人間への害意があるわけではないが、人間の花嫁を排してでも自らを、と望む姿は危険でしかなかった。

 過去に遡れば、そういった思想から排除されてしまった花嫁が存在することもあり、ヴェルディグリスは『運命』と定めたステファニアの警備に関しては敏感になっている。

 そんな中、カラミティのいない隙を見て部屋を出たステファニアには激怒したが、後からカラミティに「きちんとお部屋から出ないように言い付けられましたか?」と問われて、はたと我に返った。

 思い出せば、自主的に部屋に籠る姿に満足して部屋からでる危険性は説いたことがない。
 とはいえ、竜族の城が危険な場所だと認識されて泣かれるのも嫌だった。

 だから、ヴェルディグリスは事情を詳しく説明せず「今後、部屋から出るな」とだけ強く言い含めた。
 ステファニアは彼の言葉に従順だ。
 怖い思いをした影響もあるのか、今のところ勝手に部屋を抜け出す様子もない。

 目の前で静かに紅茶の入ったカップを手にお茶を楽しむステファニアの姿を眺めながら、ヴェルディグリスは目を細める。

 花嫁として迎える前にノクティスが彼女の家族から聞き出した趣味に合わせて、淡い桃色と白で統一した室内は、ヴェルディグリスには甘ったるく感じるが部屋の中央で彼女が微笑んでいるとそれだけで愛おしくなる。

 事前に用意した物以外にステファニアがほしがるものは特にない。
 先日、カラミティからハンカチと刺繍糸を望まれたので渡してもいいか、と確認されたが、その程度ならば問題ないと許可を出した。

 刺繍針は尖っていて危険ではないか、と人間の脆弱性を知るカラミティは過度に心配していたが、貴族教育で令嬢は刺繍を習うと知っているヴェルディグリスは大丈夫だと判断したのだ。
 いまさら、自害を試みることもないだろうという思いもあった。

(死ぬ気なら、とっくに舌を噛み切っていても可笑しくない)

 花嫁となる令嬢たちは高い教育を施される。
 それだけに矜持も高く、過去攫われ他の竜族の男に犯された花嫁はその場で舌を噛み切って自害したほどだ。

 他の男と駆け落ちをしようと一時は逃げ出したステファニアだが、いまはすっかり改心したようでヴェルディグリスに従順だし問題はないはずだった。

 実際、カラミティからは起きている時間は静かに刺繍に集中していると報告を受けている。

 視界に入る小柄な身体。白皙の肌に映えるさらさらと美しい桃色の髪。
 そこらの宝石など比較にならないほどのきらめきを宿す瞳。薔薇色の頬に、ぷっくりとした小さな赤い唇。

 以前から整った外見をしていたが、竜族の城に来てからカラミティが気合を入れて丁寧に手入れをしているからか、ますます美しさに磨きがかかった気がする。

(……艶が出たな)

 迎えに行った当初は『少女』という印象を強く受けたステファニアだが、ヴェルディグリスが夜を教え込んだ影響か、今は『女』としての色鮮やかさが出ている気がする。

 丹念に仕上げている途中の美術品を眺めている気分だ。口元抑え、ほうと息を吐いたヴェルディグリスにそっとステファニアの桃色の瞳が向けられる。

「ヴェル様? どうかなさいましたか?」

 彼女は突然訪れたヴェルディグリスとの距離を測りかねているようだった。それも仕方ない。
 今までベッドを共にする夜にしか訪れなかった夫が、突然「茶を飲もう」と現れれば戸惑いもするだろう。

 彼女だけに許した愛称での呼び名もぞくりと背筋を刺激する。
 甘く淫らによがる姿がぐるりと脳裏を巡って、ごくりとつばを飲み込む。

「……飽きたな」
「え?」

 ただ茶を飲むだけの状態に飽きた。
 瞳に欲を孕ませたヴェルディグリスの前で、女になってなお無垢さを失わないステファニアがきょとんと瞬きを繰り返している。

 今すぐその小さな赤い唇に噛みつきたい衝動を抑えて、彼は嗜虐の色を瞳に乗せて、にやりと笑った。

「服を脱げ」

 唐突なヴェルディグリスの命令に、ぱち、とステファニアが瞳を瞬かせる。
 さすがに脈絡がなかったか、と少々の反省をしつつ彼がさらに言葉を重ねようとした瞬間、驚くべきことに彼女は「はい」と従順すぎるほど大人しく頷いて、ドレスに手をかける。

「!」

 その疑いが欠片も含まれていない素直さにぎょっと目を見開いたのはヴェルディグリスのほうだ。
 思わず上ずった声をあげる。

「なにをしている!?」
「? ヴェル様が脱げと仰ったのですよ?」

 きょとりと自身を見上げる瞳に宿る嘘偽りのない無垢さに、彼はガリっと奥歯を噛みしめる。

(これは、いくらなんでも行き過ぎだ)

 花嫁としての教育を受けているとはいえ、ここまでヴェルディグリスの言葉に疑いを持たないのは可笑しかった。
 多少の抵抗や恥じらいがあっても可笑しくないというのに。

 竜神として生まれ敬われ続けた彼にすら、ステファニアの反応は異常だと分かる。

(……だが、それはそれ、だな)

 従順な分には問題ない。すぐに思考を切り替えて、彼はにぃっと口角をあげる。そして。

「そうか。では、ドレスを脱いで裸になって足を広げろ。自分で弄るんだ」

 射抜くように見つめて放った言葉に、さすがのステファニアも戸惑うように美しい桃色の瞳を揺らした。
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