12 / 15
12.あてがはずれた(エイダ視点①)
しおりを挟むあたしはエイダ。十八歳。
王宮の職員専用食堂で給仕の仕事をしていたの。
自分で言うのもなんだけど、顔も身体もイケてるのよ。
王城勤め人や文官さま、騎士団の騎士さまから声かけられてるんだから! それもイケメンのね!
庭師のダンは、いつもお花くれるし顔はイケてるけどぉ……いつも泥だらけなのが、ちょっと気になるのよね。あたしと会うときくらい手を洗ってほしいなぁ。
文官のフレッドは頭いいし美味しいお菓子もくれるんだけど……彼、平民なんだよね。(って、わたしも平民だけどね☆)
でもね、その中でもイケメンなのが騎士団の第三部隊の隊長さん、デリックさまよ。
シュッとしてて爽やかで、いつもなんかいい匂いがするの。しかも騎士爵位もお持ちなんだって!
なんでも異例の大出世をしたんだって。スゴイよね。
二十九歳で、わたしよりちょっと年上だけど……おとなの魅力ってやつ?
いつもエイダちゃん可愛いねって言ってくれて、デートに誘ってくれて……。
王都で評判のレストランにエスコートしてくれて、うっとりしちゃうの。
でね、彼は奥さんのことで悩んでいるんだって。奥さんは冷たい人でずーっと夜の生活を拒まれてるんだって。可哀想でしょ?
でもね、奥さんも可哀想なの。
だって子どもができないから、もう旦那さまとエッチしたくなくなったらしいのね。
ふたりとも可哀想。
そう思ってたらあたし、妊娠したの!
デリックさまに言ったら喜んでくれてね。
デリックさまに、奥さんと離婚してあたしと結婚してってお願いしたんだ。
でもね、なんだかんだで離婚は難しいって言われて納得できなかったんだけど、一緒に住むことは賛成してくれたの。
第二夫人っていう立場になるけど、それでいい? って聞かれたからオッケーしちゃった。
凄いね、第二夫人だって。
貴族みたい、って思ったけどデリックさまは貴族だったわ。
その第二夫人ならあたしも貴族ってことだよね?
これってすごくない?
デリックさまのおうちは郊外の閑静な住宅街の一角にある一軒家。
落ち着いた風合いの客間とやらに通された。
第一夫人である奥さまにもいちおう挨拶をした。茶色の髪を結い上げて、碧の瞳が印象的な可愛い感じの上品な人だった。なんか文句でも言われるかと思ってたけど、笑顔で『エイダ嬢は客室へどうぞ』とか言われちゃった。
そして翌日には出てっちゃったの。
離婚したんだって。
おばあちゃんのメイドさんから聞いてびっくりしたわ。
でもそれって、あたしが奥さまに勝ったからだよね。やっぱり妊娠したあたしが一番たいせつにされるべきだって、奥さまも思ったのよ。だから身を引いてくれたのよ。
奥さまの使ってた部屋、ドレスもアクセサリーもそのままって感じで残ってたの。ぜーんぶあたしの物ってことで使っていいよね!
婚姻届もちゃんと提出して、あたしがデリックさまの第一夫人になった。
嬉しかったんだ、けど……。
嬉しかったのは一ヶ月くらい。子どもを生んだあたりから状況が変わっていった。
まず、食事が変わった。
冷たいものが増えて、温かいものが減った。
お風呂の回数が減った。
お庭が荒れてきた。
デリックさまが薄汚れてきた。
なんだかぱっとしない。
汚れてくたびれて、ちょっと臭い。
おばあちゃんメイドが赤ん坊の世話で腰を悪くして寝込んでしまった。食事状況がさらに悪くなった。
おじいちゃん執事さんが教えてくれたんだけど、魔石がないんだって。
このうちには最新式の家庭用魔導具がたくさん完備されているんだけど、そのために必要な魔石を使い切っちゃったんだって。
洗濯も満足にできないし、冷蔵庫も動かないから毎日買い出しに行かなきゃダメだけど自分や妻(おばあちゃんメイドさんのことね)には体力的に難しいって。
しかたがないからわたしが買い出しとか調理とかしてるんだけど、あれ? 変じゃない? って思った。
あたし、貴族の奥さまなんじゃないの?
貴族の奥さまって働かないんじゃないの? って。
それにね。
デリックさまが渡してくれるお給料だと、氷の魔石までは買えないんだって。貴族なのに変よね。
おかしいなぁって、思ってたとき。
騎士団から招待状を持った女騎士さまが我が家に来た。
騎士団長さまのお屋敷で行われる夫人会の招待状だった。
騎士団長の奥さまは伯爵夫人なんだって!
女騎士さまはなんだか気まずそうな顔であたしに言った。
『出席すると、たぶん、肩身の狭い思いをすると思います。欠席したほうが身のためです』
だって! なにそれ。わけがわからない。
奥さまの残したドレスがあるもん。行くわよ、夫人会。
273
あなたにおすすめの小説
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
私のことを愛していなかった貴方へ
矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。
でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。
でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。
だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。
夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。
*設定はゆるいです。
真実の愛を証明しましょう。時と場合と人によるけど
あとさん♪
恋愛
「エステル。僕たちふたりの真実の愛のために」
優しい顔をしたアラン王子はそう言ってエステルの手をとった。
『婚約破棄して、きみを新たな婚約者にしよう』
王子がそう言うと思っていたエステル。だが実際の王子が言ったのは
「王子の身分は捨てる。一緒に冒険者になろう」であった。
※設定はゆるんゆるん
※作者独自のなんちゃってご都合主義異世界だとご了承ください。
※この作品は小説家になろうにも掲載しています。
〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?
ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」
その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。
「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」
あなたは愛を誓えますか?
縁 遊
恋愛
婚約者と結婚する未来を疑ったことなんて今まで無かった。
だけど、結婚式当日まで私と会話しようとしない婚約者に神様の前で愛は誓えないと思ってしまったのです。
皆さんはこんな感じでも結婚されているんでしょうか?
でも、実は婚約者にも愛を囁けない理由があったのです。
これはすれ違い愛の物語です。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる